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ベンジャミン、パーティに参加する
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馬車の中はベンジャミンとアイビーの他にモリスも同乗した。
マシューではなくモリスが同乗した事に違和感を覚えたアイビーに対してモリスは「私が説明した方がよろしいかと思いまして」と告げた。
今日の主催者である前侯爵の未亡人とは、元々義父が王宮勤めをしていた時に前侯爵の秘書官を務めていた縁でベンジャミンと旧知の中であり、見目のいいベンジャミンをいわゆるアクセサリーとして社交の場に連れ回すことはしていたが男女の仲ではなかったと説明を受ける。
「そう。それで? 前侯爵夫人と男女の仲ではなかったからと言って、前侯爵夫人を経由して知り合った女性たちとベンジャミンが浮き名を流していた事に変わりはないわ」
やたらとベンジャミンを庇うモリスに釘を刺したつもりが、なぜかベンジャミンが傷ついた顔でアイビーを見つめていた。
(そうね。今のベンジャミンからすれば責められていい気はしないわね)
アイビーはベンジャミンを見つめる。
「前のベンジャミンが浮き名を流していた事に変わりはないわ」
言い換えに安堵の表情を見せるベンジャミンに、アイビーも安堵し胸を撫で下ろした。
(なんて立派なお屋敷なのかしら)
アイビーは高い天井を見上げ感嘆した。
初めて踏み入れる大豪邸は、まるで物語に出てくる白亜のお城みたいで。キョロキョロとするのはみっともないと思いながらついつい視線はあちこちに彷徨う。
会場の大広間にある大きなシャンデリアはろうそくの光を反射し、矢羽根張りの床を照らす。
着飾った男女はまるで色とりどりの花のよう。
ベンジャミンは姿勢正しく、堂々とアイビーの腰を抱き寄せながらも気遣った歩幅で進む。
今まで領地に置いたままの妻を初めて社交の場に連れてきたことでベンジャミンとアイビーは注目の的だ。多くの人々が遠巻きに噂話に興じている。
その中を気になるそぶりなど見せず目的の人物を探す。
「いらしたよ。挨拶に行こう」
ベンジャミンは整った顔で優雅に微笑み、主催者である前侯爵の未亡人に目配せをする。
侯爵家の未亡人は息子である若き侯爵の後見人として社交界で幅を利かせているとモリスから説明を受けていた。
アイビーは姿勢を正しベンジャミンのエスコートに身を委ねた。
「ごきげんよう。プラット子爵」
「前侯爵夫人。ご機嫌麗しゅう存じます」
アイビーは、あわてて視線を下げ紹介されるのを待つ。紳士らしいお辞儀を終えたベンジャミンは「紹介してもよろしいでしょうか」と尋ねる。
「えぇ。あの渡り鳥が籠に収まり羽を休めることにしたのだもの。どれだけ素敵な鳥籠なのかしら。何か仕掛けでもあるのかしらね?」
(嫌味?)
アイビーが顔を上げると前侯爵の未亡人は悪戯っ子のように片目をつむった。
「私の妻、アイビーです」
「えっ、あっ、アイビー・プラットと申します」
妻と紹介されたことに動揺して声が上ずった。
(やだ!)
パーティー会場に着く前には社交の場に出てはいないものの貴族の娘として育った自負からリードをしてあげなくてはなどと考えていたくらいだった。
アイビーにとってベンジャミンという男は、妻に対して馬鹿にしたような視線を送る姿か、上手いことが言えずに呻き声をあげ頭を掻きむしる姿のどちらかだった。
だから完璧なエスコートでパーティー会場に入ることなど想像していなかったし、優雅にエスコートをし、紳士らしく挨拶をする姿も想像していなかった。
堂々としたベンジャミンに引き換え動揺を隠しきれない自分にアイビーは恥じらいを覚える。
「あら。顔を赤くして。初心でとても愛らしいお嬢さんね。なんて……やだわ。子爵夫人にお嬢さんなんて言ったら失礼かしら? ごめんなさいね。年を取ると若い女性はみんなまぶしいお嬢さんになってしまうの」
くすくすと笑いながら未亡人はアイビーの手を取る。
「こんなかわいらしい奥様と結婚したことの幸運に最近になって気が付くなんて困ったものね。うちの亡くなった旦那様もそうだったのよ。わたくしに領地の仕事を押し付けて自分は王都で仕事だなんていいながら放蕩三昧。わたくしのありがたみに気づいたのだって大病にかかってからだったんですもの」
「まぁそうだったのですね」
「えぇ。男ってそういう生き物なのよ」
「でしょう?」と言わんばかりの表情で同意を求める夫人にアイビーは頷きで応える。
「ご主人が大病を患い、奥様の大切さに気づかれたように、私も雷に打たれて妻のありがたみに気が付き心を入れ替えたのです」
(えっ……)
顔を上げるとベンジャミンと目が合う。真剣な眼差しに心臓がドクンと跳ねた。
「まぁ。ならうちの旦那様も若いうちに雷に打たれてくれればよかったのに。貴女もそう思わない?」
扇で口元を隠してコロコロと笑う未亡人に、慌ててアイビーは口角を上げる。ベンジャミンも困ったような笑顔だ。
(やだ。真に受けちゃったじゃない)
「プラット子爵。ご夫人をお預かりしても? わたくしのお友達に紹介したいわ。男性は男性だけでつもるはなしもおありでしょう? こちらはこちらで女性だけの話をしましょう? ね?」
有無を言わせない笑顔にアイビーは頷く。
心配そうな表情を浮かべたベンジャミンに夫人が何か耳打ちする。そのまま背中を押して追いやってしまった。
仕方なくアイビーは未亡人に導かれ輪に加わる。紹介されたのは今までベンジャミンと関わることもないような、有力一族の奥様ばかりだ。
会話も領地の事業に関わる話が中心で、奥様方からはプラット子爵家で行っている果物狩りについて聞かれる。
「募集方法はどうされてるの?」「旬の短い果物だと開催時期の設定は難しくないのかしら?」「乗り合い馬車で長い時間移動してみなさん退屈にされたりしませんこと?」
矢継ぎ早の質問に回答すると奥様方は興味津々の様子で目を輝かせる。
領地で行う事業についての情報交換ばかり。
ベンジャミンについてあれこれ聞かれると思ったのに、拍子抜けだ。
そして一人の奥様から、いつの間にかモリス達が開いた酒場がプラット子爵領の特産品をお披露目するための専用店舗になっていることまで教えてもらった。知らなかったアイビーは話を合わせるのに冷や汗をかく。
どうにかこうにか話を繋ぎ質問に答えて、ようやく奥様方のおしゃべりから解放される。
人だかりから抜け出したアイビーが一息つくために、給仕係に飲み物を頼もうとしたその時。
バチン! と高い打撃音が聞こえ、賑やかだったパーティ会場が静まり返る。
(えっ? 何かしら?)
音がする方にアイビーが振り向くと、そこには頬を押さえて呆然とするベンジャミンと、着飾った女性が顔を真っ赤にして手をおさえている姿があった。
マシューではなくモリスが同乗した事に違和感を覚えたアイビーに対してモリスは「私が説明した方がよろしいかと思いまして」と告げた。
今日の主催者である前侯爵の未亡人とは、元々義父が王宮勤めをしていた時に前侯爵の秘書官を務めていた縁でベンジャミンと旧知の中であり、見目のいいベンジャミンをいわゆるアクセサリーとして社交の場に連れ回すことはしていたが男女の仲ではなかったと説明を受ける。
「そう。それで? 前侯爵夫人と男女の仲ではなかったからと言って、前侯爵夫人を経由して知り合った女性たちとベンジャミンが浮き名を流していた事に変わりはないわ」
やたらとベンジャミンを庇うモリスに釘を刺したつもりが、なぜかベンジャミンが傷ついた顔でアイビーを見つめていた。
(そうね。今のベンジャミンからすれば責められていい気はしないわね)
アイビーはベンジャミンを見つめる。
「前のベンジャミンが浮き名を流していた事に変わりはないわ」
言い換えに安堵の表情を見せるベンジャミンに、アイビーも安堵し胸を撫で下ろした。
(なんて立派なお屋敷なのかしら)
アイビーは高い天井を見上げ感嘆した。
初めて踏み入れる大豪邸は、まるで物語に出てくる白亜のお城みたいで。キョロキョロとするのはみっともないと思いながらついつい視線はあちこちに彷徨う。
会場の大広間にある大きなシャンデリアはろうそくの光を反射し、矢羽根張りの床を照らす。
着飾った男女はまるで色とりどりの花のよう。
ベンジャミンは姿勢正しく、堂々とアイビーの腰を抱き寄せながらも気遣った歩幅で進む。
今まで領地に置いたままの妻を初めて社交の場に連れてきたことでベンジャミンとアイビーは注目の的だ。多くの人々が遠巻きに噂話に興じている。
その中を気になるそぶりなど見せず目的の人物を探す。
「いらしたよ。挨拶に行こう」
ベンジャミンは整った顔で優雅に微笑み、主催者である前侯爵の未亡人に目配せをする。
侯爵家の未亡人は息子である若き侯爵の後見人として社交界で幅を利かせているとモリスから説明を受けていた。
アイビーは姿勢を正しベンジャミンのエスコートに身を委ねた。
「ごきげんよう。プラット子爵」
「前侯爵夫人。ご機嫌麗しゅう存じます」
アイビーは、あわてて視線を下げ紹介されるのを待つ。紳士らしいお辞儀を終えたベンジャミンは「紹介してもよろしいでしょうか」と尋ねる。
「えぇ。あの渡り鳥が籠に収まり羽を休めることにしたのだもの。どれだけ素敵な鳥籠なのかしら。何か仕掛けでもあるのかしらね?」
(嫌味?)
アイビーが顔を上げると前侯爵の未亡人は悪戯っ子のように片目をつむった。
「私の妻、アイビーです」
「えっ、あっ、アイビー・プラットと申します」
妻と紹介されたことに動揺して声が上ずった。
(やだ!)
パーティー会場に着く前には社交の場に出てはいないものの貴族の娘として育った自負からリードをしてあげなくてはなどと考えていたくらいだった。
アイビーにとってベンジャミンという男は、妻に対して馬鹿にしたような視線を送る姿か、上手いことが言えずに呻き声をあげ頭を掻きむしる姿のどちらかだった。
だから完璧なエスコートでパーティー会場に入ることなど想像していなかったし、優雅にエスコートをし、紳士らしく挨拶をする姿も想像していなかった。
堂々としたベンジャミンに引き換え動揺を隠しきれない自分にアイビーは恥じらいを覚える。
「あら。顔を赤くして。初心でとても愛らしいお嬢さんね。なんて……やだわ。子爵夫人にお嬢さんなんて言ったら失礼かしら? ごめんなさいね。年を取ると若い女性はみんなまぶしいお嬢さんになってしまうの」
くすくすと笑いながら未亡人はアイビーの手を取る。
「こんなかわいらしい奥様と結婚したことの幸運に最近になって気が付くなんて困ったものね。うちの亡くなった旦那様もそうだったのよ。わたくしに領地の仕事を押し付けて自分は王都で仕事だなんていいながら放蕩三昧。わたくしのありがたみに気づいたのだって大病にかかってからだったんですもの」
「まぁそうだったのですね」
「えぇ。男ってそういう生き物なのよ」
「でしょう?」と言わんばかりの表情で同意を求める夫人にアイビーは頷きで応える。
「ご主人が大病を患い、奥様の大切さに気づかれたように、私も雷に打たれて妻のありがたみに気が付き心を入れ替えたのです」
(えっ……)
顔を上げるとベンジャミンと目が合う。真剣な眼差しに心臓がドクンと跳ねた。
「まぁ。ならうちの旦那様も若いうちに雷に打たれてくれればよかったのに。貴女もそう思わない?」
扇で口元を隠してコロコロと笑う未亡人に、慌ててアイビーは口角を上げる。ベンジャミンも困ったような笑顔だ。
(やだ。真に受けちゃったじゃない)
「プラット子爵。ご夫人をお預かりしても? わたくしのお友達に紹介したいわ。男性は男性だけでつもるはなしもおありでしょう? こちらはこちらで女性だけの話をしましょう? ね?」
有無を言わせない笑顔にアイビーは頷く。
心配そうな表情を浮かべたベンジャミンに夫人が何か耳打ちする。そのまま背中を押して追いやってしまった。
仕方なくアイビーは未亡人に導かれ輪に加わる。紹介されたのは今までベンジャミンと関わることもないような、有力一族の奥様ばかりだ。
会話も領地の事業に関わる話が中心で、奥様方からはプラット子爵家で行っている果物狩りについて聞かれる。
「募集方法はどうされてるの?」「旬の短い果物だと開催時期の設定は難しくないのかしら?」「乗り合い馬車で長い時間移動してみなさん退屈にされたりしませんこと?」
矢継ぎ早の質問に回答すると奥様方は興味津々の様子で目を輝かせる。
領地で行う事業についての情報交換ばかり。
ベンジャミンについてあれこれ聞かれると思ったのに、拍子抜けだ。
そして一人の奥様から、いつの間にかモリス達が開いた酒場がプラット子爵領の特産品をお披露目するための専用店舗になっていることまで教えてもらった。知らなかったアイビーは話を合わせるのに冷や汗をかく。
どうにかこうにか話を繋ぎ質問に答えて、ようやく奥様方のおしゃべりから解放される。
人だかりから抜け出したアイビーが一息つくために、給仕係に飲み物を頼もうとしたその時。
バチン! と高い打撃音が聞こえ、賑やかだったパーティ会場が静まり返る。
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