【完結】友人が異世界転生してきた悪妃だとか言い出したんだけど

江崎美彩

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「俺……前世は異世界の悪妃だった……」
「へぇ。流行りの異世界転生じゃん。よかったな」

 階段から落ちて運ばれた保健室のベッドの上でアイツがそう呟いたのを受けて、オレが揶揄ったような返事をしたのは昨日のことだ。

 それが何故、今こんなことになっているんだ。



「ふぅっ……やめっ……」
「やら。らって、しゅきにひていいっていっひゃりゃない」
「……っ! ……咥えたまましゃべんな」

 そういう意味じゃない。

 前世の記憶を思い出したなんて主張するコイツが言うには、前世では傾国の美女で、かつ淫乱ビッチなテクニシャンで皇帝の側妃にまで上り詰めたのに、その美しさが災いして斬首刑になったらしい。

 いいか。オマエはチビでガリガリで冴えない文芸部のオタクだ。
 傾国の美女でもなんでもない。
 そしてオレはオマエより背が高くてガタイはいいかもしれないが地味で眼鏡の冴えない文芸部のオタクだ。

 オレと一緒に百合モノのラノベを見て萌えと尊さを語り合っていた仲じゃないか。

 オレの足元に座り込んで、なに恍惚とした顔して咥え込んでるんだよ。

 クソッ。なんでこんなことになったんだっけ。

 快楽に押し流されて何も考えられなくなり始めたオレは、脳みそに鞭打ってこれまでの経緯を思い出す。

 急に前世が異世界の悪妃だったと言い出したコイツは、次の日……ようは今日学校を休んだ。

「具合悪いのか?」

 送った俺のメッセージは既読にもならなかった。

 階段から落ちたのはクラスの奴らに持ってた漫画を取られたのを取り返すために追いかけて足を滑らせたから。
 ……なんて、高校生じゃなくて小学生レベルの嫌がらせが原因だった。

 男子校だから、現実の女のように陰キャな俺たちに対して虫けらを見るような白い目で見るような事はないけれど、カースト底辺なことは変わりない。

 刺激が欲しいなんてくだらない理由で嫌がらせを受けることは日常茶飯事だ。

『そんな事で気に病んで休んでいたら毎日休む羽目になる。アイツらよりもいい大学に入っていい会社に勤めて人生逆転してやるんだ。学校推薦をもらうためには休むわけにはいかない』なんて言っていたアイツが学校を休んでいる事が気になった。

 そして放課後、見舞いと称して家を訪ねた俺の顔を見て急にコイツは泣き出した。

「傾国の美女の記憶と冴えない男子高校生の記憶が混濁していて気持ちの整理がつかない」

 オレも友人であるオマエがそんな血迷いごと言い出して気持ちの整理がつかない……

「よかったら上がってってよ」

 アニメ鑑賞をするために休日や放課後に何度も訪れた部屋に通されると、いつも通り麦茶と煎餅を出される。

 あまりにいつも通りすぎてオレは油断していたのだ。
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