1 / 5
1
しおりを挟む
「俺……前世は異世界の悪妃だった……」
「へぇ。流行りの異世界転生じゃん。よかったな」
階段から落ちて運ばれた保健室のベッドの上でアイツがそう呟いたのを受けて、オレが揶揄ったような返事をしたのは昨日のことだ。
それが何故、今こんなことになっているんだ。
「ふぅっ……やめっ……」
「やら。らって、しゅきにひていいっていっひゃりゃない」
「……っ! ……咥えたまましゃべんな」
そういう意味じゃない。
前世の記憶を思い出したなんて主張するコイツが言うには、前世では傾国の美女で、かつ淫乱ビッチなテクニシャンで皇帝の側妃にまで上り詰めたのに、その美しさが災いして斬首刑になったらしい。
いいか。オマエはチビでガリガリで冴えない文芸部のオタクだ。
傾国の美女でもなんでもない。
そしてオレはオマエより背が高くてガタイはいいかもしれないが地味で眼鏡の冴えない文芸部のオタクだ。
オレと一緒に百合モノのラノベを見て萌えと尊さを語り合っていた仲じゃないか。
オレの足元に座り込んで、なに恍惚とした顔して咥え込んでるんだよ。
クソッ。なんでこんなことになったんだっけ。
快楽に押し流されて何も考えられなくなり始めたオレは、脳みそに鞭打ってこれまでの経緯を思い出す。
急に前世が異世界の悪妃だったと言い出したコイツは、次の日……ようは今日学校を休んだ。
「具合悪いのか?」
送った俺のメッセージは既読にもならなかった。
階段から落ちたのはクラスの奴らに持ってた漫画を取られたのを取り返すために追いかけて足を滑らせたから。
……なんて、高校生じゃなくて小学生レベルの嫌がらせが原因だった。
男子校だから、現実の女のように陰キャな俺たちに対して虫けらを見るような白い目で見るような事はないけれど、カースト底辺なことは変わりない。
刺激が欲しいなんてくだらない理由で嫌がらせを受けることは日常茶飯事だ。
『そんな事で気に病んで休んでいたら毎日休む羽目になる。アイツらよりもいい大学に入っていい会社に勤めて人生逆転してやるんだ。学校推薦をもらうためには休むわけにはいかない』なんて言っていたアイツが学校を休んでいる事が気になった。
そして放課後、見舞いと称して家を訪ねた俺の顔を見て急にコイツは泣き出した。
「傾国の美女の記憶と冴えない男子高校生の記憶が混濁していて気持ちの整理がつかない」
オレも友人であるオマエがそんな血迷いごと言い出して気持ちの整理がつかない……
「よかったら上がってってよ」
アニメ鑑賞をするために休日や放課後に何度も訪れた部屋に通されると、いつも通り麦茶と煎餅を出される。
あまりにいつも通りすぎてオレは油断していたのだ。
「へぇ。流行りの異世界転生じゃん。よかったな」
階段から落ちて運ばれた保健室のベッドの上でアイツがそう呟いたのを受けて、オレが揶揄ったような返事をしたのは昨日のことだ。
それが何故、今こんなことになっているんだ。
「ふぅっ……やめっ……」
「やら。らって、しゅきにひていいっていっひゃりゃない」
「……っ! ……咥えたまましゃべんな」
そういう意味じゃない。
前世の記憶を思い出したなんて主張するコイツが言うには、前世では傾国の美女で、かつ淫乱ビッチなテクニシャンで皇帝の側妃にまで上り詰めたのに、その美しさが災いして斬首刑になったらしい。
いいか。オマエはチビでガリガリで冴えない文芸部のオタクだ。
傾国の美女でもなんでもない。
そしてオレはオマエより背が高くてガタイはいいかもしれないが地味で眼鏡の冴えない文芸部のオタクだ。
オレと一緒に百合モノのラノベを見て萌えと尊さを語り合っていた仲じゃないか。
オレの足元に座り込んで、なに恍惚とした顔して咥え込んでるんだよ。
クソッ。なんでこんなことになったんだっけ。
快楽に押し流されて何も考えられなくなり始めたオレは、脳みそに鞭打ってこれまでの経緯を思い出す。
急に前世が異世界の悪妃だったと言い出したコイツは、次の日……ようは今日学校を休んだ。
「具合悪いのか?」
送った俺のメッセージは既読にもならなかった。
階段から落ちたのはクラスの奴らに持ってた漫画を取られたのを取り返すために追いかけて足を滑らせたから。
……なんて、高校生じゃなくて小学生レベルの嫌がらせが原因だった。
男子校だから、現実の女のように陰キャな俺たちに対して虫けらを見るような白い目で見るような事はないけれど、カースト底辺なことは変わりない。
刺激が欲しいなんてくだらない理由で嫌がらせを受けることは日常茶飯事だ。
『そんな事で気に病んで休んでいたら毎日休む羽目になる。アイツらよりもいい大学に入っていい会社に勤めて人生逆転してやるんだ。学校推薦をもらうためには休むわけにはいかない』なんて言っていたアイツが学校を休んでいる事が気になった。
そして放課後、見舞いと称して家を訪ねた俺の顔を見て急にコイツは泣き出した。
「傾国の美女の記憶と冴えない男子高校生の記憶が混濁していて気持ちの整理がつかない」
オレも友人であるオマエがそんな血迷いごと言い出して気持ちの整理がつかない……
「よかったら上がってってよ」
アニメ鑑賞をするために休日や放課後に何度も訪れた部屋に通されると、いつも通り麦茶と煎餅を出される。
あまりにいつも通りすぎてオレは油断していたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる