Proof

1章

伊沖 成実

日本　来 率きりつ市
　帯刀した少年が異国風の服を纏った男と対峙している。
「対象確認。伊 沖いおき隊、伊沖、討伐に入ります。」
　伊沖と名乗る少年が刀の柄に右手をかける。
「伊沖隊、隊長、伊沖　成 実なるみだ。こちらへ来た目的を聞いておこうか。」
「ふん。こうも早く見つかるとはな。とりあえず、人間の２、３人もらえればいいと思ってたが…。」
　伊沖と対峙する男は視線を微動だにせず感心といった様子で話し始めた。
　しかし、言い終わるのを待たずに伊沖は6メートルほどの距離を一直線に詰め、抜刀する。男の首元を狙い、下段から一直線に切り上げる。
　金属音が響く。
　男も抜刀し、伊沖の居合斬りを防ぐ。顔の横に構えられた右手から垂直に降りる剣。
　鋒には左手がない。男の左手は反対側で構えられていた。魔術発動の動作だ。
　男の5本指が巨大な爪の様に変わる。指の長さは変わらない。しかし、第二関節から肘の方に向かって鋭い刃が形作られていく。
「獣の爪ﾍﾞｽﾃｨｰﾅｹﾞﾙ」
　伊沖は鍔迫り合いをやめ、後ろに退く。
（刀6本みたいな感じか。左手は5本まとまってるから6刀流よりはやりやすいか。）
　伊沖は左手をもう一本の刀にかける。左手で右の懐にある刀を勢いよく引き抜く。斬撃が相手を襲う。
　男が右手の剣で防ぎ、左手を添えていることを確認し、伊沖は距離を詰める。
　男が斬撃と衝突し、防御に成功し、視界が晴れた時には伊沖は足元で剣を振りかぶっていた。
　斬撃の後ろをついてくることで姿を隠していたのだ。そして斬撃の及ばない、防御の空くポイントを狙った攻撃だ。
　男の両足が膝から切断される。男は最後の一撃として、左手を振り下ろす。
　伊沖は左手の剣を頭上に構え、平行に並ぶ5本の爪を防ぐ。
「足はなくなり、踏ん張りが効かない。5本ある攻撃では圧力が分かれるから力量差は覆せる。」
　伊沖は男の攻撃を押し返し、振り切った右手の刀の向きを変え、右から一直線に男の胴体を切り払う。足をなくし、攻撃を押し返された男のバランスは崩れ、躱すどころではなく横に真っ二つとなる。
「撤退ｴｽｹｰﾌﾟ」
　男がつぶやくと、体が黒いモヤに包まれ、霧散する。
「帰還確認。任務完了だ。」
　伊沖は納刀する。
　彼が戦闘したのは魔族。
　人類を危機に晒す魔族を討伐し、魔界に帰還させる任務だった。
　魔族が人間界で死ぬことは原則的にない。魔族は魔界において生身で契約をし、生身をエネルギー体に構築し直し、エネルギー体で地球に侵入する。
　そのエネルギー体が深刻なダメージを負う、または本人の撤退ｴｽｹｰﾌﾟの発動によってエネルギー体は霧散し、魔界に戻る。そして再び生身が契約時の状態で魔界に構築される。
　この契約には、エネルギー体を作ること、魔界から地球への門を往復で開くこと、帰還した魔族の身体を構築することが絶対条件であるから、相当量のエネルギーを本人が消費する。
　つまり、地球での魔族の力は本来より数段劣ることにはなる。
　そうして人間界に侵入した魔族を討伐し、帰還させるのが彼ら『エヴィデンス』の仕事である。
　彼らもまた、エネルギー体で戦う。しかし、そのエネルギー体が限界を迎え、解除される時、生身の体とその場で入れ替わる。つまり、敗北した相手の前でエネルギーをほぼ使い果たした状態で生身になる。そのため…。
「伊沖くん。戦果報酬50pt。罰則200pt。合計でマイナス150ね。」
　伊沖は上司から説教される。生身を晒す危険があるため、任務は小隊での行動が原則である。単独行動には、戦闘相手のエネルギー量に応じた罰則が課される。勝利報酬の4倍が相場である。
「被害が出る前に討伐できるんだからベストじゃ…。」
　という、いつもの言い訳によって説教が長引く。