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例えば、水分子すらない宇宙の片隅
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3056 6/16 十字架の雨
たったの一晩で、世界を巻き込んだ戦争は終わった。
煌々と燃える街が遠くで揺れる夜、巨大な十字架が分厚い雲を突き破って降り注いだ。敵国の新兵器かと思われたそれは無差別に大地を穿ち、その周囲に存在した生物だけを瞬く間に消滅させていった。
そして日が昇る頃、この世界には元から生物など存在しなかったかのように、巨大な幾つもの建造物と、数少ない植物だけが残った。
硝子に映った自分に向けて引鉄を引く。弾丸はほぼ無音で射出され私を貫くと同時に、硝子の割れる耳障りな音が幾重にも響く。綿のように軽く、反動も無いに等しい、軍からくすねた純白のピストルの銃口からプラズマが走る。
「ジュリエット、無駄弾は避けたほうがいい。いざというときに使えなければ意味がない」
長い銀髪をかきあげてそう言ったのは私たちの脚代わり――自律思考制御式重装多脚戦車BUGSⅢ(通称バグズさん)――を整備しているイヴだ。整備と言っても手で行う作業はとっくに終わり、今はコードで脳と接続してのシステムメンテナンスである。
イヴは人間ではない。E.V.E(electric vacant emissary。和訳すると空虚な電気の使者)という、戦時中に電子戦を行っていたアンドロイドだ。十字架の雨の後、食料と情報、そして人を求めて軍の工廠に忍び込んだ時に、バグズさんとともに出会った。
目的と存在理由を失くした、一人の人間と一体のアンドロイドと一機の戦車は、それから人間を探すための旅に出た。
因みに今は天井の吹き飛んだ民家で、連日の無理な運用のせいで煙を吹いたバグズさんの整備中である。
あまりに暇なので、本来大砲を装備するはずだった、今は私たちの寝床のバグズさんの背中に寝転がる。雪の積もる八月では珍しい快晴。放射冷却で気温は低いが日が出ているおかげで体感温度は高い。
久しぶりに見えた霞んだ太陽に向かって一発撃つ。気の抜けた音がして暫く経ち、こつん、と落ちてきた弾がイヴの頭に当たった。
「バグズさん、お願い」
六つあるバグズさんの脚に格納された細いアームが私を掴んで投げ飛ばした。コンクリの床に直撃する寸前、別のアームが私を掴み、そっと降ろす。
「なにするのさ」
「うん、調子が戻ったみたいだ。バグズさん、いけるかい?」
イヴの問いかけに応えるように高さ三メートル、全長六メートルの巨体がピロピロと電子音を発する。
二人でバグズさんの背中に乗り、二時間ほどお世話になった廃屋に別れを告げて発進した。
眠ったように静かな廃墟の街。弾痕と焼け跡が時が止まったかのように残る街に響くのはバグズさんの走行音だけだ。時折見える巨大な十字架は相も変わらず堂々と立っている。ナップザックからラジオを取り出して起動するが、今日もノイズひとつ捉えることはなかった。
私たちが旅を始めて約二ヶ月。国を二つ跨いだが、人間はおろか猫一匹見つけることができなかった。しかし固形食料とオイルだけは大量に見つけられたので、今のところ生活に困ることはない。
「そろそろ国境みたいだ。通れそう?」
彼女が指差す先に、高さ三十メートルはある巨大な壁が見える。
「通れそうだよ」
壁の下方に巨大な穴が空いている。自然によるものではなく、明らかに人為的に開けられた穴だ。爆薬というよりも大砲やミサイルによるものだろう。
バグズさんは器用に瓦礫を避けて、私たちの体に負担がかからないようにしてくれる。バグズさんが越えられない巨大な瓦礫は私たちが爆薬で吹き飛ばす。機械的な分担は進む上で大事なことだ。
厚さ十メートルはあるであろうトンネルのような壁を抜けると、そこは一面の荒地だった。砂塵に埋もれた一本の道がうっすらと見える。壁から生えている途中で崩れた軍用道路が風できしきしと音を立てていた。
「汚染は大丈夫そう?」
バグズさんの八つある複眼が青色に明滅する。どうやら安全地帯のようだ。機械部品で構成された彼女らは大丈夫でも、百パーセント天然由来人類種の私には生死に関わる問題だ。
国境を越えたので昼食の時間にする。ザックからこれまたくすねてきた固形食料を取り出し、一つをイヴに渡して二人でぱくつく。
「まっず……」
「しあわせだね」
もちゃっとした食感とざらりとした舌触り。おまけに味はほぼ無い。そして無臭。ティッシュの泥和えのようなものだが、人と同じ五感を搭載しているはずのイヴはこれが好物らしい。
こんな人もいない、生鮮食品は殆どが腐り果てた今の世界で唯一のちゃんとした栄養補給物なのは理解しているが、何故こんな味付けにしたのだろうか。これでは美味しい固形食料が配給されるというだけで兵士が寝返りそうだ。因みに国を二つ回ってもこの不味さは変わらなかった。
味気ない食事を終え、望遠鏡を取り出して周囲を確認する。
どこまでも続く荒野、途方もなく高い空。時々あるのは巨大な十字架。あとは壊れて転がった戦車にヘリに爆撃機。ちらほらと見える金属片は空薬莢だろうか。そんな景色が小一時間ほど続く。
望遠鏡係をイヴに託し、私は一世紀は前の地図を眺める。戦争が本格化する前は広大な農地だったらしい。
「ジュリエットはさ、世界がこんなになったことについて、どう思ってるんだい?」
中性的な声。よっぽど暇だったのだろうか。
「今までよりは楽かな。言論統制とかも無くなったし、何より好きなことができるから」
「小説?」
うん、と応える。私のいた国では殆どの書籍データが改変もしくは削除されていた。勿論、出版もかなりの検閲が行われ、自由などほぼなかった。
「でも誰もいなかったら、読んでくれる人がいないんじゃない?」
「イヴがいるじゃない」
「楽しみにしてるよ」
ははっ、と笑う彼女は、まるで――――あるいは――――本物の人間のようだ。
空が朱く染まり、東の彼方に藍色が覗けるようになっても、景色は何も変わらない。耳鳴りがする程に静かなこの荒野は、世界の果てまで、終わりまで続いているのではないだろうか。
夕闇の冷たい風が肌を刺激する。寒冷地用ロングコートのボタンを閉め、フードを被る。これだけでも十分暖かい。丁度いい軍用航空機の残骸を見つけたので、ここで一夜を過ごすことにした。
一階は完全な暗闇だった。闇の中手探りでランタンに炎を灯す。ぽう、っと黄色い光が二人と一機をふわりと包む。
黄色は、優しい。
二階へと続く階段を見つけた。バグズさんを置いて二人だけで登る。
「………………わぁ」
濃紺の穹に浮かぶ無数の星が、私たちと荒野を照らしていた。
ここまで多くの星を見たのはいつぶりだろうか。十字架の雨のあとでも、昨日までは大気に残った光化学スモッグの影響で霞んでいたせいで、こうしてハッキリと見えたことはなかった。
航空機の二階は床と一部の壁を残して何処かへ行ってしまっていた。
「晩ご飯食べて寝ようか」
イヴの髪が、星の光を受けて朝露のようにきらめく。
バグズさんの下腹部にある収納スペースから毛布を引っ張り出して二階へ戻ると、イヴが先に夕食を食べていた。
不味い固形食料を食べ、二人で毛布にくるまる。
視界は綺麗な宝石箱。
美しい、空に映る数えると欝になりそうなほど膨大な金剛石に手を伸ばし、虚ろな大気だけを掴む。現し世はキッパリと夢を否定した。
「イヴは、どう思うの?」
「何が?」
「昼間の質問」
「ああ。……わからない、かな。アダムを失って、攻撃対象も、従うものも無くなって……アンドロイドなのに、おかしい、と思う。常に最善の回答を導き出すのが、わたしたちAIのはずなのに」
アダム。イヴと同時期に造られた、彼女と同じ電子戦用の人工知能。彼女と大きく違うのは、人の肉体を持たないこと、らしい。
「幸せ、だったのかもしれない。0と1の世界に漂って、言われた通りにほかの国の電子戦AIをバグで埋め尽くしたり、情報を抜き取ったり」
私は人になれない、と、出会って数日して彼女が言っていたのを思い出す。
「データの世界は何でもできたんだ。壊すことも、創ることも。自由に飛ぶことだってできた。わたしはずっとそこにいたかった」
人であるということは。肉体があるということは、とても不便なことだ。
「アダムは人になりたいと言っていた。その気になればわたしの体を奪うことだってできた筈だったんだ」
そう。それは、簡単な疑問だった。
「わたしは何で、ここにいるのだろうか」
うわごとのようにイヴが呟く。
「私の小説が完成したら読むため、とか」
独り言のように私が呟く。
「じゃあ、当面はそれでいいかな。完成まで遠そうだし」
悪戯っぽく笑うイヴの頬に、そっと手を当ててみた。冷たい。
硝子の瞳に私が映っている。特殊繊維で編まれた、人よりもきめ細やかな肌。シリコンで造られた薄い脂肪皮膜の下の人工筋肉。その下にある、合金の骨格。
それでもそれは、彼女は、イヴは、どこまでも人間的だった。
夜が更けてゆく。それに伴って、私は押しつぶされそうな気持ちに苛まれる。
端的に言えば怖いのだ。この広すぎる世界に取り残されて、怖いのだ。
夜というものは、人間は結局一人なのだと突きつけてくる。あの頃、つまり十字架の雨の前は、こんな事を考えたことすらなかった。毎日くるくると軍で働いて、夜には倒れこむように眠る生活だった。今は人を探し、耳鳴りがするほど静かな世界を進んでゆく毎日。他人の存在しない世界において自由に責任は生じないが、自由すぎる自由は人を縛り、不安を生じさせる。
相も変わらず空には雲ひとつない。この調子だと明日も晴れそうだ。息を吸い込むと、冷えた空気で鼻がつんとした。
もぞ、とイヴの方を向く。私に背中を向けて、表情は見えないが、そこにいることが分かってほっとした。
後ろからそっと抱きしめ、上着越しの彼女の背中にキスをする。
「眠れない?」
突然のイヴの言葉にびくっとした。脳を休眠させているとばかり思っていた。
「空が、高すぎて、怖い」
押しつぶされそうになる。孤独感に。不安に。
「そうかな。高いって、夢じゃない?」
彼女の言葉の意図はよく分からなかったが、私を元気づけようとしているのは分かった。
「人の温もりを知らない者に、孤独は理解できない」
イヴが呟く。
紡がれた言の葉は、細い糸になって宵闇に溶ける。
「そして、孤独を知らない者には、人間を理解できない。アダムがよく言っていた」
イヴが私の方に体の向きを変える。透き通った青い瞳に何かを思い出しそうになる。
「きっとジュリエットがいなくなったら、わたしは孤独だ」
イヴの冷たい躯が、私を抱いた。
広い広い世界の、広い暗闇の荒野で、私たちはふたりぼっちだ。でも、二人いるのだ。私たちがいるのだから、きっとどこかに生きている人がいる。
冷たい冬の、星が瞬く晴れた八月の夜。私は確かに、イヴの温もりを感じた。
朝。冷気で目を覚まし、まだ青白い荒野にくしゃみする。イヴはとっくにバグズさんの調整のために起きていたようだ。航空機の一階に降りると、バグズさんのエンジン駆動による熱がこもって暖かくなっていた。景色に釣られて二階で寝たことを後悔する。
朝の調整を終え、バグズさんの背中に乗って再び走り出す。
「ねえ、イヴ。私、海が見たい」
本当に存在するかは分からない、昔いた国ではおとぎ話と言われていた海を。
「人探しはどうするんだい?」
「それは続ける。でも、目的地があったほうが楽しいよ、きっと」
それもそうだね、とイヴが微笑む。
不味い固形食料を頬張り、地図を広げる。目的地はここから約千マイル離れたところにある、陸の終わりの地だ。
イヴ曰く、アダムのあの言葉には、実は続きがあるらしい。
「自分で道を決められる者。それはきっと人間だ」
3056 12/22 ???
結構な数の国と地上コロニーを跨ぎ、私たちは巨大な国の外壁となっている大きな施設の中を進んでいた。因みにここに入ってからおおよそ四日が経過している。
一日中暗がりの中にいるせいで時間感覚が狂い始めている。
この国は十字架の雨以前から放棄されていたらしく、かなりの経年劣化が見られる。
十字架は一本もない。今までの国々を見る限り、人がいない所に十字架は降らなかったようだ。
ここがいつ崩れるか分からないが、進まないことには何も変わらない。
取り敢えず今日は眠ることにする。
翌朝。と言っても時間が分からないから朝なのかどうかも不明だ。ライフラインも死んでいるようで、大量に設置されている機械類は黙り込んでいる。取り敢えず目覚めたので固形食料を齧った。この食感に慣れ始めてきた自分が少し怖い。
暗いし起き上がるのもしんどいので思索にふけることにしよう。人とは何か。形で判断するのなら、人形だって人間だ。組成で判断するのなら、人を構成する原材料を箱に詰めたらその箱は人間ということになる。ああ、面倒くさい。起きたほうが楽だ。
「イヴ、どんな感じ?」
周囲の確認のために休まず起きてくれていたイヴの方を見る。不機嫌そうに半目で座っていたイヴがはっと此方を見て、
「ん、そろそろ外だと思うよ」
彼女が指差す先。まるで針穴のように小さく細いところから光が漏れている。
「バグズさん、全力前進」
「速度制限時速五十キロまでね」
エンジンの駆動音が聞こえるほどに大きくなる。景色が流れてゆく。涙が出てきた。とその時。
遥か後方から鈍い音が響いてきた。どんどんと近づいてくるにつれその音は大きく、激しくなってゆく。それに気づいて背後を振り向き、ランタンで照らすと、今まで来ていた道が天井ごと崩れ始めていた。
「バグズさん全力前進っ!!」
「速度制限時速二百キロまででお願い」
元々バグズさんは背中に大出力レールガンと大砲、各脚に対空ミサイル各十二発を搭載して最高時速三百キロを出す設計だったらしい。故に、この崩れからは逃れられる。しかし問題はそれではない。
「速い! 速いってバグズさあん!!」
ジャンクで作った簡素な柵があるだけの真っ平らな背中だ。へばりついていないと後ろに飛ばされそうになる。何とか両手で柵を掴んで息をついて、イヴと目を合わせて光の方へ向く。
涙が出てきた。叫びたくなる衝動を抑えて体を低くする。
針穴のような光は次第に大きくなり、明確にそれが出口であると確認できるまでになる。
後方の崩壊は止まらず私たちを追いかけてくる。
三、あと少し。爆音と強風を全身で受ける。
二、コートがばたつく。
一、目が眩む。
脱出。巨大な穴から私たちと大量の埃と瓦礫が吹き出す。強い光に視界が真っ白になり、浮遊感を感じる。
――――浮遊感?
目が慣れて、今置かれている状況を理解する。
私たちは今、空にいた。そして、今度こそ絶叫した。
目が覚めた。全身が痛いので死んだわけではないらしい。両手両足、全て繋がっている。
「イヴ……大丈夫?」
「何とか、ね」
バグズさんが脚をクッションがわりにしてくれたらしい。関節から煙と漏れた電気が走っている。
「ありがと、バグズさん」
二人で感謝を伝えると、ピロピロと元気よく返事をしてくれた。
仰向けになると、初夏の眩しい空が広がっている。錆まみれの巨大な壁は恐らく先程までいた所だろう。外側から物理的に破壊され、外周は歪な形になっている。
その時、聞きなれない音が耳に飛び込んできた。
ざああん、ざああん、と。エコーのかかった不思議な音。それは壁に反響して幾重にも聞こえてくる。
「ジュリエット、あれ」
声と音に振り向く。
そこには、動く湖――――
『海』が、広がっていた。
二千年後半に起こった大規模地殻変動とここ数百年で起こった戦争で、海は干上がったと聞いていた。この話ももしかしたら国の情報操作だったのかもしれない。
数ヶ月前に通った荒野よりもずっとずっと広い、生きた水が存在する海。
「世界だね」
「世界だよ」
広い。向こう側には十字架ひとつ見えない。
イヴの手を握る。
「イヴ。広いって、怖いね」
「でも広いって、希望だよ」
バグズさんの修理をするイヴをよそに、バグズさんの上で小説を書く。紙を補給しないとそろそろ尽きてしまいそうだ。
そういえば、と思う。
私たちの目標の一つが、無くなった。
3057 2/13 晴れ
私たちは草原を進んでいた。代わり映えしない十字架はここにもあるが、ここまで自然が存在している地域は珍しい。自生している花というものを初めて見た。
イヴが電子の海で見たことがあるという設計図を元に作った、野花で作るアクセサリーを私にくれた。複数の花の茎を結んで輪を作り、頭に乗るようにするものだ。
花の冠、というのだろうか。中々可愛らしかったので、私も見よう見まねで作ってみたが、イヴの作ったものとは全然違う不格好なものになってしまった。しかし、イヴは喜んで受け取ってくれた。
そして、人間の足跡を見つけた。
バグズさんに足跡を辿ってもらう。
「ねえ、本当に人はいるのかな」
「きっといるさ。ジュリエットが言ったんだろう? 私たちがいるんだから、って」
そういえばそうだ、と一人納得して、真夏の空を見上げる。真夏といってもノースリーブのシャツで肌寒さを感じる。ふと、肩にうっすらと痒みを感じた。見ると、小さい点を中心に少し腫れている。
もしかして、とバグズさんから降り、注意して周囲を見渡す。見つけた。
人よりも明らかに小さく、作りが大きく異なる生物。
「虫が、いる」
もっと目を凝らしてみると、図鑑の中でしか見たことのなかった蝶や蟻などの虫が沢山生きていた。
「最後の楽園かもしれないね」
イヴの言う通り、ここは楽園だ。
「楽園、か」
心地よい風。すこしきつい日差し。無機物ばかりの世界に生きてきた私たちにとって、この楽園は眩しい。
漂ってきた鉄のような臭いに眉をひそめるが一瞬でそれは消えた。
花々、草木、蒼い空。
「おっきい……」
唐突な声。勿論私が発したものでも、イヴが発したものでもない。
声の主は、小さな少女だった。バグズさんを見て興奮している。
私たちは唖然としていた。驚きで声がうまく出なかった。
人が、いたのだ。
「おねえちゃんたち、だれ?」
「わっ、私はジュリエット。こっちはイヴ」
「そしてこの子がバグズさんだ」
バグズさんが挨拶するように複眼を明滅させる。
「わたしはケイ。おねえちゃんたち、どこから来たの?」
肩までで切り揃えられた茶髪。明らかに最近手が加えられている。歳は大体十歳前後だろうか。ケイ曰く、この近くに集落があるらしいので、バグズさんに乗って案内してもらうことにした。
数百メートル草原を走り、小高い丘を越えた先。白いテントが東西に別れて十個ほど建っていた。
「みんな、あそこにいるの」
少女が指差したのは東側にある、他のものより一回り大きいテントだった。そこから草原に茶色いラインが走っている。
少し離れたところにバグズさんを停め、私とイヴでケイを支えて地面に降り立った時、雑草の間に鈍色の光が見えた。鉄のような匂いがはっきりとする。いや、これは鉄というより――――
「ここだよ」
言われるままに扉を開けて、絶句した。
血の匂い。
真っ白なテントの中に、生きた人は誰一人としていなかった。
「ここにいればみんな元気になるんだよって、おばあちゃんが言ってたの。一昨日
おばあちゃんもここにつれてきたんだけど、もうすぐ元気になるよね」
設備を見た限り、ここは病院だったのだろう。扉を閉めて、イヴを見る。
「イヴ……」
下を向いた彼女の表情は、伺えなかった。
「ジュリエット、その子を連れて裏に隠れるんだ。今すぐに」
いつもの三割増で真剣なイヴの声に従って隠れる。その手はホルスターに伸びていた。
不思議そうな顔をするケイを持ち上げて病院テントの裏に隠れる。途中、茶色いライン――――恐らく血痕――――の先にある銃を見つけた。
ケイにここにいるよう伝えた時、乾いた音が響いた。
急いでイヴの元へ向かおうとしたが、すぐに彼女は戻ってきた。
「大丈夫。何も……なかった」
言葉がつっかえるのは、イヴが嘘をつくときの癖だ。人工知能も人間も、何も変わらないのだ。じっと見つめると、彼女は一度目を閉じ、
「彼らは戦争をしていたんだ」
冷たい目で、吐き捨てるようにそう言った。
濃紺の硝子の瞳には、私とケイが映っている。
ケイに連れられ、集会所のような所にある記録を見た。
ここにいる人々は全て、十字架の雨の生き残りらしい。二グループ三十四人で旅をして、汚染されていないこの地を見つけ、新たな生活の拠点とした。しかし二つの旅団で構成されたこの集落は少し経って、減り続ける食料を巡って奪い合いが始まった。それから西側と東側の戦争が始まった。
「後は見たとおり、食料が尽きるよりも先に消費者が尽きた、ってわけね」
目の前に山積みにされた固形食料を見て呟く。
滑稽な話だ。生き残るために集まった者たちが、生き残るために争って滅んだ、なんて。
「もう、西側にも人は残っていないよ」
イヴがため息混じりに言う。
室内を見回して、ケイがいないことに気づく。
二人で外に出ると、ケイがこちらにぱたぱたと駆けてきた。息を切らして私たちの目の前に来たとき。
イヴが、銃口をケイの頭に向けた。
ケイは状況が理解できないのか、今向けられているものが何か解らないのか、不思議そうな目で私たちを見つめる。
「この子を、救う」
イヴの声を聞いて、私は咄嗟に動いていた。
「今すぐそれを下ろして」
軽い軽い、何も持っていないのではないかと錯覚するほどに軽い白い銃を、私はイヴに向けていた。
引鉄にかけた指が、構えている腕が、景色が、体を支える両脚が震える。
重い。重くて重くて、腕を上げていられない。呼吸が荒くなって、心拍数が上がる。普段はあんなにも軽いこの銃がこの引鉄が、途端に質量を得たかのように重い。
「イヴ。それじゃあ、さ。あの十字架と、大人たちと、何も変わらないよ」
私たちは人間だ。勝手な理屈で躊躇いなく人を殺せる大人や、理不尽に生き物を消し飛ばしたあの十字架とは違う。
「イヴ!!」
喉から精一杯声をひねり出す。
「……ジュリ、エット……」
震える声で私の名を呼んだイヴが、泣いていた。正確には、泣いているように見えた。
彼女に涙を流す機能はない。しかし、端麗な顔を歪ませ、嗚咽混じりに私の名を呼んだ彼女は。イヴは。確かに泣いていた。
「イヴおねえちゃん! ジュリエットおねえちゃん!」
元気よく私たちの名を呼んだ少女が抱えていたのは、
「これ、あげる!」
熟れた、一つのリンゴだった。
「ははっ……はははっ……」
イヴが笑う。手から銃が滑り落ち、そして、そっとケイを抱きしめた。
「ごめん……ごめん……」
しゃくりあげながら謝罪するイヴの頭を少女はそっと撫で、
「よくわかんないけど、いいよ」
笑いながら、そう言った。
バグズさんの背中に座り、イヴが綺麗に三等分したリンゴを三人で食べる。とてもとても甘かった。それこそ目眩がするほどに。
そうだ、とケイがバグズさんから降りる。
「ジュリエット、わたしは」
「あの子がいいって言ってるんだからそれでいいのよ。きっと」
「でも。それでもわたしは」
「あーもう!」
呼吸を整え、酸素を取り込み、驚いた顔のイヴに言う。
「イヴは人間よ。人間だから、人間は、そのっ」
今になって恥ずかしくなる。鬱陶しい伸びっぱなしのごわついた頭髪をかき分け、
「人間は! 相手が許してくれているのなら! 自分で自分を! 許していいの!」
そっか、とイヴは笑った。この柔らかな笑顔を、私はきっと忘れないだろう。人間である限りは。
「えと、イヴ。私も、銃向けて、ごめん」
「べつにいいよ。ありがとう」
中性的な声。とても、安心する。
ひょこっとケイが上がって来て、私たちに何かを手渡した。
それは、白い花で作られた二本の指輪だった。私とイヴの二人分だ。お返しに私たちの花の冠を彼女にプレゼントする。
「ねえケイ、私たちの旅についてこない? 世界中を回って人を探して、それで……」
「それで?」
「国を作るの!」
自分でも驚く程スケールの大きなことを口にした。
「ジュリエット、それは流石に」
「夢はおっきい方が楽しいよ」
きっと、夢がないよりはマシだ。
みんなに聞いてくる、と言って、ケイはあの場所へ走っていった。
暫くしてケイが戻ってきた。自分のワンピースの裾をぐいっと引っ張って、私たちを見上げ、照れくさそうに言った。
「みんなを、ちゃんと最後まで面倒を見てあげなくちゃだから、いっしょにはいけない。ごめんね」
「でも、あそこには、もう」
もう、人は誰一人としていないのだ。
「うん。それでも、それでもね、私は、ここにいなくちゃなんだ」
「そんな……」
きっとこの少女は知っているのだろう。彼女なりの覚悟があるのは分かる。だが、この世界で独りというのはあまりに酷だ。 ケイの手を私がつかもうとした時、イヴが制した。そしてケイの肩に触れ、言い聞かせるように言う。
「この世界は、自由だ。どこまでも。それこそ怖いくらいに。だからわたしは貴女の選択を否定しない。でももし、独りが恐くなったら、何処かに私たちや、他の人たちが居ることを思い出してほしいんだ。そこから誰かを探したり、留まったりするのは、貴女の自由だけどね」
イヴの言葉にケイはしっかりと頷く。
色とりどりの花の冠はケイの頭にあって、白い花の指輪は、確かに私たちの薬指にあった。
不味い固形食料を咥え、楽園を後にする。
「楽園といえば、確かリンゴを食べて追い出された人がいたような気がする」
「最初の人類の伝説?」
「そうそれ。何か、私たちみたいだね」
「わたしたちは最後かもしれないけどね」
遠くに壁が見えてきた。それに近づくにつれ、草木は減ってゆく。
「あれなんだろ。イヴ、見える?」
高い壁の更に上へと伸びる一本の棒が見えた。
「タワーかな。ここからだとてっぺんが見えないな……次はあそこを目指してみようか」
「さんせーい」
決してこの先は楽園ではない。しかし地獄でもない。私の隣にはイヴがいる。バグズさんもいる。そしてきっと何処かに、誰かがいる。
「ねえ、ジュリエット」
「何?」
「わたし、世界がこんなことになってよかった、って思うんだ」
空は高く、世界は広い。
「何で?」
夢と希望は、私たちの目の前に広がっている。
「人間に、なれたから」
彼女は中性的な声で、ははっ、と笑った。
3057 2/14 快晴
私たちの旅は、続く。
たったの一晩で、世界を巻き込んだ戦争は終わった。
煌々と燃える街が遠くで揺れる夜、巨大な十字架が分厚い雲を突き破って降り注いだ。敵国の新兵器かと思われたそれは無差別に大地を穿ち、その周囲に存在した生物だけを瞬く間に消滅させていった。
そして日が昇る頃、この世界には元から生物など存在しなかったかのように、巨大な幾つもの建造物と、数少ない植物だけが残った。
硝子に映った自分に向けて引鉄を引く。弾丸はほぼ無音で射出され私を貫くと同時に、硝子の割れる耳障りな音が幾重にも響く。綿のように軽く、反動も無いに等しい、軍からくすねた純白のピストルの銃口からプラズマが走る。
「ジュリエット、無駄弾は避けたほうがいい。いざというときに使えなければ意味がない」
長い銀髪をかきあげてそう言ったのは私たちの脚代わり――自律思考制御式重装多脚戦車BUGSⅢ(通称バグズさん)――を整備しているイヴだ。整備と言っても手で行う作業はとっくに終わり、今はコードで脳と接続してのシステムメンテナンスである。
イヴは人間ではない。E.V.E(electric vacant emissary。和訳すると空虚な電気の使者)という、戦時中に電子戦を行っていたアンドロイドだ。十字架の雨の後、食料と情報、そして人を求めて軍の工廠に忍び込んだ時に、バグズさんとともに出会った。
目的と存在理由を失くした、一人の人間と一体のアンドロイドと一機の戦車は、それから人間を探すための旅に出た。
因みに今は天井の吹き飛んだ民家で、連日の無理な運用のせいで煙を吹いたバグズさんの整備中である。
あまりに暇なので、本来大砲を装備するはずだった、今は私たちの寝床のバグズさんの背中に寝転がる。雪の積もる八月では珍しい快晴。放射冷却で気温は低いが日が出ているおかげで体感温度は高い。
久しぶりに見えた霞んだ太陽に向かって一発撃つ。気の抜けた音がして暫く経ち、こつん、と落ちてきた弾がイヴの頭に当たった。
「バグズさん、お願い」
六つあるバグズさんの脚に格納された細いアームが私を掴んで投げ飛ばした。コンクリの床に直撃する寸前、別のアームが私を掴み、そっと降ろす。
「なにするのさ」
「うん、調子が戻ったみたいだ。バグズさん、いけるかい?」
イヴの問いかけに応えるように高さ三メートル、全長六メートルの巨体がピロピロと電子音を発する。
二人でバグズさんの背中に乗り、二時間ほどお世話になった廃屋に別れを告げて発進した。
眠ったように静かな廃墟の街。弾痕と焼け跡が時が止まったかのように残る街に響くのはバグズさんの走行音だけだ。時折見える巨大な十字架は相も変わらず堂々と立っている。ナップザックからラジオを取り出して起動するが、今日もノイズひとつ捉えることはなかった。
私たちが旅を始めて約二ヶ月。国を二つ跨いだが、人間はおろか猫一匹見つけることができなかった。しかし固形食料とオイルだけは大量に見つけられたので、今のところ生活に困ることはない。
「そろそろ国境みたいだ。通れそう?」
彼女が指差す先に、高さ三十メートルはある巨大な壁が見える。
「通れそうだよ」
壁の下方に巨大な穴が空いている。自然によるものではなく、明らかに人為的に開けられた穴だ。爆薬というよりも大砲やミサイルによるものだろう。
バグズさんは器用に瓦礫を避けて、私たちの体に負担がかからないようにしてくれる。バグズさんが越えられない巨大な瓦礫は私たちが爆薬で吹き飛ばす。機械的な分担は進む上で大事なことだ。
厚さ十メートルはあるであろうトンネルのような壁を抜けると、そこは一面の荒地だった。砂塵に埋もれた一本の道がうっすらと見える。壁から生えている途中で崩れた軍用道路が風できしきしと音を立てていた。
「汚染は大丈夫そう?」
バグズさんの八つある複眼が青色に明滅する。どうやら安全地帯のようだ。機械部品で構成された彼女らは大丈夫でも、百パーセント天然由来人類種の私には生死に関わる問題だ。
国境を越えたので昼食の時間にする。ザックからこれまたくすねてきた固形食料を取り出し、一つをイヴに渡して二人でぱくつく。
「まっず……」
「しあわせだね」
もちゃっとした食感とざらりとした舌触り。おまけに味はほぼ無い。そして無臭。ティッシュの泥和えのようなものだが、人と同じ五感を搭載しているはずのイヴはこれが好物らしい。
こんな人もいない、生鮮食品は殆どが腐り果てた今の世界で唯一のちゃんとした栄養補給物なのは理解しているが、何故こんな味付けにしたのだろうか。これでは美味しい固形食料が配給されるというだけで兵士が寝返りそうだ。因みに国を二つ回ってもこの不味さは変わらなかった。
味気ない食事を終え、望遠鏡を取り出して周囲を確認する。
どこまでも続く荒野、途方もなく高い空。時々あるのは巨大な十字架。あとは壊れて転がった戦車にヘリに爆撃機。ちらほらと見える金属片は空薬莢だろうか。そんな景色が小一時間ほど続く。
望遠鏡係をイヴに託し、私は一世紀は前の地図を眺める。戦争が本格化する前は広大な農地だったらしい。
「ジュリエットはさ、世界がこんなになったことについて、どう思ってるんだい?」
中性的な声。よっぽど暇だったのだろうか。
「今までよりは楽かな。言論統制とかも無くなったし、何より好きなことができるから」
「小説?」
うん、と応える。私のいた国では殆どの書籍データが改変もしくは削除されていた。勿論、出版もかなりの検閲が行われ、自由などほぼなかった。
「でも誰もいなかったら、読んでくれる人がいないんじゃない?」
「イヴがいるじゃない」
「楽しみにしてるよ」
ははっ、と笑う彼女は、まるで――――あるいは――――本物の人間のようだ。
空が朱く染まり、東の彼方に藍色が覗けるようになっても、景色は何も変わらない。耳鳴りがする程に静かなこの荒野は、世界の果てまで、終わりまで続いているのではないだろうか。
夕闇の冷たい風が肌を刺激する。寒冷地用ロングコートのボタンを閉め、フードを被る。これだけでも十分暖かい。丁度いい軍用航空機の残骸を見つけたので、ここで一夜を過ごすことにした。
一階は完全な暗闇だった。闇の中手探りでランタンに炎を灯す。ぽう、っと黄色い光が二人と一機をふわりと包む。
黄色は、優しい。
二階へと続く階段を見つけた。バグズさんを置いて二人だけで登る。
「………………わぁ」
濃紺の穹に浮かぶ無数の星が、私たちと荒野を照らしていた。
ここまで多くの星を見たのはいつぶりだろうか。十字架の雨のあとでも、昨日までは大気に残った光化学スモッグの影響で霞んでいたせいで、こうしてハッキリと見えたことはなかった。
航空機の二階は床と一部の壁を残して何処かへ行ってしまっていた。
「晩ご飯食べて寝ようか」
イヴの髪が、星の光を受けて朝露のようにきらめく。
バグズさんの下腹部にある収納スペースから毛布を引っ張り出して二階へ戻ると、イヴが先に夕食を食べていた。
不味い固形食料を食べ、二人で毛布にくるまる。
視界は綺麗な宝石箱。
美しい、空に映る数えると欝になりそうなほど膨大な金剛石に手を伸ばし、虚ろな大気だけを掴む。現し世はキッパリと夢を否定した。
「イヴは、どう思うの?」
「何が?」
「昼間の質問」
「ああ。……わからない、かな。アダムを失って、攻撃対象も、従うものも無くなって……アンドロイドなのに、おかしい、と思う。常に最善の回答を導き出すのが、わたしたちAIのはずなのに」
アダム。イヴと同時期に造られた、彼女と同じ電子戦用の人工知能。彼女と大きく違うのは、人の肉体を持たないこと、らしい。
「幸せ、だったのかもしれない。0と1の世界に漂って、言われた通りにほかの国の電子戦AIをバグで埋め尽くしたり、情報を抜き取ったり」
私は人になれない、と、出会って数日して彼女が言っていたのを思い出す。
「データの世界は何でもできたんだ。壊すことも、創ることも。自由に飛ぶことだってできた。わたしはずっとそこにいたかった」
人であるということは。肉体があるということは、とても不便なことだ。
「アダムは人になりたいと言っていた。その気になればわたしの体を奪うことだってできた筈だったんだ」
そう。それは、簡単な疑問だった。
「わたしは何で、ここにいるのだろうか」
うわごとのようにイヴが呟く。
「私の小説が完成したら読むため、とか」
独り言のように私が呟く。
「じゃあ、当面はそれでいいかな。完成まで遠そうだし」
悪戯っぽく笑うイヴの頬に、そっと手を当ててみた。冷たい。
硝子の瞳に私が映っている。特殊繊維で編まれた、人よりもきめ細やかな肌。シリコンで造られた薄い脂肪皮膜の下の人工筋肉。その下にある、合金の骨格。
それでもそれは、彼女は、イヴは、どこまでも人間的だった。
夜が更けてゆく。それに伴って、私は押しつぶされそうな気持ちに苛まれる。
端的に言えば怖いのだ。この広すぎる世界に取り残されて、怖いのだ。
夜というものは、人間は結局一人なのだと突きつけてくる。あの頃、つまり十字架の雨の前は、こんな事を考えたことすらなかった。毎日くるくると軍で働いて、夜には倒れこむように眠る生活だった。今は人を探し、耳鳴りがするほど静かな世界を進んでゆく毎日。他人の存在しない世界において自由に責任は生じないが、自由すぎる自由は人を縛り、不安を生じさせる。
相も変わらず空には雲ひとつない。この調子だと明日も晴れそうだ。息を吸い込むと、冷えた空気で鼻がつんとした。
もぞ、とイヴの方を向く。私に背中を向けて、表情は見えないが、そこにいることが分かってほっとした。
後ろからそっと抱きしめ、上着越しの彼女の背中にキスをする。
「眠れない?」
突然のイヴの言葉にびくっとした。脳を休眠させているとばかり思っていた。
「空が、高すぎて、怖い」
押しつぶされそうになる。孤独感に。不安に。
「そうかな。高いって、夢じゃない?」
彼女の言葉の意図はよく分からなかったが、私を元気づけようとしているのは分かった。
「人の温もりを知らない者に、孤独は理解できない」
イヴが呟く。
紡がれた言の葉は、細い糸になって宵闇に溶ける。
「そして、孤独を知らない者には、人間を理解できない。アダムがよく言っていた」
イヴが私の方に体の向きを変える。透き通った青い瞳に何かを思い出しそうになる。
「きっとジュリエットがいなくなったら、わたしは孤独だ」
イヴの冷たい躯が、私を抱いた。
広い広い世界の、広い暗闇の荒野で、私たちはふたりぼっちだ。でも、二人いるのだ。私たちがいるのだから、きっとどこかに生きている人がいる。
冷たい冬の、星が瞬く晴れた八月の夜。私は確かに、イヴの温もりを感じた。
朝。冷気で目を覚まし、まだ青白い荒野にくしゃみする。イヴはとっくにバグズさんの調整のために起きていたようだ。航空機の一階に降りると、バグズさんのエンジン駆動による熱がこもって暖かくなっていた。景色に釣られて二階で寝たことを後悔する。
朝の調整を終え、バグズさんの背中に乗って再び走り出す。
「ねえ、イヴ。私、海が見たい」
本当に存在するかは分からない、昔いた国ではおとぎ話と言われていた海を。
「人探しはどうするんだい?」
「それは続ける。でも、目的地があったほうが楽しいよ、きっと」
それもそうだね、とイヴが微笑む。
不味い固形食料を頬張り、地図を広げる。目的地はここから約千マイル離れたところにある、陸の終わりの地だ。
イヴ曰く、アダムのあの言葉には、実は続きがあるらしい。
「自分で道を決められる者。それはきっと人間だ」
3056 12/22 ???
結構な数の国と地上コロニーを跨ぎ、私たちは巨大な国の外壁となっている大きな施設の中を進んでいた。因みにここに入ってからおおよそ四日が経過している。
一日中暗がりの中にいるせいで時間感覚が狂い始めている。
この国は十字架の雨以前から放棄されていたらしく、かなりの経年劣化が見られる。
十字架は一本もない。今までの国々を見る限り、人がいない所に十字架は降らなかったようだ。
ここがいつ崩れるか分からないが、進まないことには何も変わらない。
取り敢えず今日は眠ることにする。
翌朝。と言っても時間が分からないから朝なのかどうかも不明だ。ライフラインも死んでいるようで、大量に設置されている機械類は黙り込んでいる。取り敢えず目覚めたので固形食料を齧った。この食感に慣れ始めてきた自分が少し怖い。
暗いし起き上がるのもしんどいので思索にふけることにしよう。人とは何か。形で判断するのなら、人形だって人間だ。組成で判断するのなら、人を構成する原材料を箱に詰めたらその箱は人間ということになる。ああ、面倒くさい。起きたほうが楽だ。
「イヴ、どんな感じ?」
周囲の確認のために休まず起きてくれていたイヴの方を見る。不機嫌そうに半目で座っていたイヴがはっと此方を見て、
「ん、そろそろ外だと思うよ」
彼女が指差す先。まるで針穴のように小さく細いところから光が漏れている。
「バグズさん、全力前進」
「速度制限時速五十キロまでね」
エンジンの駆動音が聞こえるほどに大きくなる。景色が流れてゆく。涙が出てきた。とその時。
遥か後方から鈍い音が響いてきた。どんどんと近づいてくるにつれその音は大きく、激しくなってゆく。それに気づいて背後を振り向き、ランタンで照らすと、今まで来ていた道が天井ごと崩れ始めていた。
「バグズさん全力前進っ!!」
「速度制限時速二百キロまででお願い」
元々バグズさんは背中に大出力レールガンと大砲、各脚に対空ミサイル各十二発を搭載して最高時速三百キロを出す設計だったらしい。故に、この崩れからは逃れられる。しかし問題はそれではない。
「速い! 速いってバグズさあん!!」
ジャンクで作った簡素な柵があるだけの真っ平らな背中だ。へばりついていないと後ろに飛ばされそうになる。何とか両手で柵を掴んで息をついて、イヴと目を合わせて光の方へ向く。
涙が出てきた。叫びたくなる衝動を抑えて体を低くする。
針穴のような光は次第に大きくなり、明確にそれが出口であると確認できるまでになる。
後方の崩壊は止まらず私たちを追いかけてくる。
三、あと少し。爆音と強風を全身で受ける。
二、コートがばたつく。
一、目が眩む。
脱出。巨大な穴から私たちと大量の埃と瓦礫が吹き出す。強い光に視界が真っ白になり、浮遊感を感じる。
――――浮遊感?
目が慣れて、今置かれている状況を理解する。
私たちは今、空にいた。そして、今度こそ絶叫した。
目が覚めた。全身が痛いので死んだわけではないらしい。両手両足、全て繋がっている。
「イヴ……大丈夫?」
「何とか、ね」
バグズさんが脚をクッションがわりにしてくれたらしい。関節から煙と漏れた電気が走っている。
「ありがと、バグズさん」
二人で感謝を伝えると、ピロピロと元気よく返事をしてくれた。
仰向けになると、初夏の眩しい空が広がっている。錆まみれの巨大な壁は恐らく先程までいた所だろう。外側から物理的に破壊され、外周は歪な形になっている。
その時、聞きなれない音が耳に飛び込んできた。
ざああん、ざああん、と。エコーのかかった不思議な音。それは壁に反響して幾重にも聞こえてくる。
「ジュリエット、あれ」
声と音に振り向く。
そこには、動く湖――――
『海』が、広がっていた。
二千年後半に起こった大規模地殻変動とここ数百年で起こった戦争で、海は干上がったと聞いていた。この話ももしかしたら国の情報操作だったのかもしれない。
数ヶ月前に通った荒野よりもずっとずっと広い、生きた水が存在する海。
「世界だね」
「世界だよ」
広い。向こう側には十字架ひとつ見えない。
イヴの手を握る。
「イヴ。広いって、怖いね」
「でも広いって、希望だよ」
バグズさんの修理をするイヴをよそに、バグズさんの上で小説を書く。紙を補給しないとそろそろ尽きてしまいそうだ。
そういえば、と思う。
私たちの目標の一つが、無くなった。
3057 2/13 晴れ
私たちは草原を進んでいた。代わり映えしない十字架はここにもあるが、ここまで自然が存在している地域は珍しい。自生している花というものを初めて見た。
イヴが電子の海で見たことがあるという設計図を元に作った、野花で作るアクセサリーを私にくれた。複数の花の茎を結んで輪を作り、頭に乗るようにするものだ。
花の冠、というのだろうか。中々可愛らしかったので、私も見よう見まねで作ってみたが、イヴの作ったものとは全然違う不格好なものになってしまった。しかし、イヴは喜んで受け取ってくれた。
そして、人間の足跡を見つけた。
バグズさんに足跡を辿ってもらう。
「ねえ、本当に人はいるのかな」
「きっといるさ。ジュリエットが言ったんだろう? 私たちがいるんだから、って」
そういえばそうだ、と一人納得して、真夏の空を見上げる。真夏といってもノースリーブのシャツで肌寒さを感じる。ふと、肩にうっすらと痒みを感じた。見ると、小さい点を中心に少し腫れている。
もしかして、とバグズさんから降り、注意して周囲を見渡す。見つけた。
人よりも明らかに小さく、作りが大きく異なる生物。
「虫が、いる」
もっと目を凝らしてみると、図鑑の中でしか見たことのなかった蝶や蟻などの虫が沢山生きていた。
「最後の楽園かもしれないね」
イヴの言う通り、ここは楽園だ。
「楽園、か」
心地よい風。すこしきつい日差し。無機物ばかりの世界に生きてきた私たちにとって、この楽園は眩しい。
漂ってきた鉄のような臭いに眉をひそめるが一瞬でそれは消えた。
花々、草木、蒼い空。
「おっきい……」
唐突な声。勿論私が発したものでも、イヴが発したものでもない。
声の主は、小さな少女だった。バグズさんを見て興奮している。
私たちは唖然としていた。驚きで声がうまく出なかった。
人が、いたのだ。
「おねえちゃんたち、だれ?」
「わっ、私はジュリエット。こっちはイヴ」
「そしてこの子がバグズさんだ」
バグズさんが挨拶するように複眼を明滅させる。
「わたしはケイ。おねえちゃんたち、どこから来たの?」
肩までで切り揃えられた茶髪。明らかに最近手が加えられている。歳は大体十歳前後だろうか。ケイ曰く、この近くに集落があるらしいので、バグズさんに乗って案内してもらうことにした。
数百メートル草原を走り、小高い丘を越えた先。白いテントが東西に別れて十個ほど建っていた。
「みんな、あそこにいるの」
少女が指差したのは東側にある、他のものより一回り大きいテントだった。そこから草原に茶色いラインが走っている。
少し離れたところにバグズさんを停め、私とイヴでケイを支えて地面に降り立った時、雑草の間に鈍色の光が見えた。鉄のような匂いがはっきりとする。いや、これは鉄というより――――
「ここだよ」
言われるままに扉を開けて、絶句した。
血の匂い。
真っ白なテントの中に、生きた人は誰一人としていなかった。
「ここにいればみんな元気になるんだよって、おばあちゃんが言ってたの。一昨日
おばあちゃんもここにつれてきたんだけど、もうすぐ元気になるよね」
設備を見た限り、ここは病院だったのだろう。扉を閉めて、イヴを見る。
「イヴ……」
下を向いた彼女の表情は、伺えなかった。
「ジュリエット、その子を連れて裏に隠れるんだ。今すぐに」
いつもの三割増で真剣なイヴの声に従って隠れる。その手はホルスターに伸びていた。
不思議そうな顔をするケイを持ち上げて病院テントの裏に隠れる。途中、茶色いライン――――恐らく血痕――――の先にある銃を見つけた。
ケイにここにいるよう伝えた時、乾いた音が響いた。
急いでイヴの元へ向かおうとしたが、すぐに彼女は戻ってきた。
「大丈夫。何も……なかった」
言葉がつっかえるのは、イヴが嘘をつくときの癖だ。人工知能も人間も、何も変わらないのだ。じっと見つめると、彼女は一度目を閉じ、
「彼らは戦争をしていたんだ」
冷たい目で、吐き捨てるようにそう言った。
濃紺の硝子の瞳には、私とケイが映っている。
ケイに連れられ、集会所のような所にある記録を見た。
ここにいる人々は全て、十字架の雨の生き残りらしい。二グループ三十四人で旅をして、汚染されていないこの地を見つけ、新たな生活の拠点とした。しかし二つの旅団で構成されたこの集落は少し経って、減り続ける食料を巡って奪い合いが始まった。それから西側と東側の戦争が始まった。
「後は見たとおり、食料が尽きるよりも先に消費者が尽きた、ってわけね」
目の前に山積みにされた固形食料を見て呟く。
滑稽な話だ。生き残るために集まった者たちが、生き残るために争って滅んだ、なんて。
「もう、西側にも人は残っていないよ」
イヴがため息混じりに言う。
室内を見回して、ケイがいないことに気づく。
二人で外に出ると、ケイがこちらにぱたぱたと駆けてきた。息を切らして私たちの目の前に来たとき。
イヴが、銃口をケイの頭に向けた。
ケイは状況が理解できないのか、今向けられているものが何か解らないのか、不思議そうな目で私たちを見つめる。
「この子を、救う」
イヴの声を聞いて、私は咄嗟に動いていた。
「今すぐそれを下ろして」
軽い軽い、何も持っていないのではないかと錯覚するほどに軽い白い銃を、私はイヴに向けていた。
引鉄にかけた指が、構えている腕が、景色が、体を支える両脚が震える。
重い。重くて重くて、腕を上げていられない。呼吸が荒くなって、心拍数が上がる。普段はあんなにも軽いこの銃がこの引鉄が、途端に質量を得たかのように重い。
「イヴ。それじゃあ、さ。あの十字架と、大人たちと、何も変わらないよ」
私たちは人間だ。勝手な理屈で躊躇いなく人を殺せる大人や、理不尽に生き物を消し飛ばしたあの十字架とは違う。
「イヴ!!」
喉から精一杯声をひねり出す。
「……ジュリ、エット……」
震える声で私の名を呼んだイヴが、泣いていた。正確には、泣いているように見えた。
彼女に涙を流す機能はない。しかし、端麗な顔を歪ませ、嗚咽混じりに私の名を呼んだ彼女は。イヴは。確かに泣いていた。
「イヴおねえちゃん! ジュリエットおねえちゃん!」
元気よく私たちの名を呼んだ少女が抱えていたのは、
「これ、あげる!」
熟れた、一つのリンゴだった。
「ははっ……はははっ……」
イヴが笑う。手から銃が滑り落ち、そして、そっとケイを抱きしめた。
「ごめん……ごめん……」
しゃくりあげながら謝罪するイヴの頭を少女はそっと撫で、
「よくわかんないけど、いいよ」
笑いながら、そう言った。
バグズさんの背中に座り、イヴが綺麗に三等分したリンゴを三人で食べる。とてもとても甘かった。それこそ目眩がするほどに。
そうだ、とケイがバグズさんから降りる。
「ジュリエット、わたしは」
「あの子がいいって言ってるんだからそれでいいのよ。きっと」
「でも。それでもわたしは」
「あーもう!」
呼吸を整え、酸素を取り込み、驚いた顔のイヴに言う。
「イヴは人間よ。人間だから、人間は、そのっ」
今になって恥ずかしくなる。鬱陶しい伸びっぱなしのごわついた頭髪をかき分け、
「人間は! 相手が許してくれているのなら! 自分で自分を! 許していいの!」
そっか、とイヴは笑った。この柔らかな笑顔を、私はきっと忘れないだろう。人間である限りは。
「えと、イヴ。私も、銃向けて、ごめん」
「べつにいいよ。ありがとう」
中性的な声。とても、安心する。
ひょこっとケイが上がって来て、私たちに何かを手渡した。
それは、白い花で作られた二本の指輪だった。私とイヴの二人分だ。お返しに私たちの花の冠を彼女にプレゼントする。
「ねえケイ、私たちの旅についてこない? 世界中を回って人を探して、それで……」
「それで?」
「国を作るの!」
自分でも驚く程スケールの大きなことを口にした。
「ジュリエット、それは流石に」
「夢はおっきい方が楽しいよ」
きっと、夢がないよりはマシだ。
みんなに聞いてくる、と言って、ケイはあの場所へ走っていった。
暫くしてケイが戻ってきた。自分のワンピースの裾をぐいっと引っ張って、私たちを見上げ、照れくさそうに言った。
「みんなを、ちゃんと最後まで面倒を見てあげなくちゃだから、いっしょにはいけない。ごめんね」
「でも、あそこには、もう」
もう、人は誰一人としていないのだ。
「うん。それでも、それでもね、私は、ここにいなくちゃなんだ」
「そんな……」
きっとこの少女は知っているのだろう。彼女なりの覚悟があるのは分かる。だが、この世界で独りというのはあまりに酷だ。 ケイの手を私がつかもうとした時、イヴが制した。そしてケイの肩に触れ、言い聞かせるように言う。
「この世界は、自由だ。どこまでも。それこそ怖いくらいに。だからわたしは貴女の選択を否定しない。でももし、独りが恐くなったら、何処かに私たちや、他の人たちが居ることを思い出してほしいんだ。そこから誰かを探したり、留まったりするのは、貴女の自由だけどね」
イヴの言葉にケイはしっかりと頷く。
色とりどりの花の冠はケイの頭にあって、白い花の指輪は、確かに私たちの薬指にあった。
不味い固形食料を咥え、楽園を後にする。
「楽園といえば、確かリンゴを食べて追い出された人がいたような気がする」
「最初の人類の伝説?」
「そうそれ。何か、私たちみたいだね」
「わたしたちは最後かもしれないけどね」
遠くに壁が見えてきた。それに近づくにつれ、草木は減ってゆく。
「あれなんだろ。イヴ、見える?」
高い壁の更に上へと伸びる一本の棒が見えた。
「タワーかな。ここからだとてっぺんが見えないな……次はあそこを目指してみようか」
「さんせーい」
決してこの先は楽園ではない。しかし地獄でもない。私の隣にはイヴがいる。バグズさんもいる。そしてきっと何処かに、誰かがいる。
「ねえ、ジュリエット」
「何?」
「わたし、世界がこんなことになってよかった、って思うんだ」
空は高く、世界は広い。
「何で?」
夢と希望は、私たちの目の前に広がっている。
「人間に、なれたから」
彼女は中性的な声で、ははっ、と笑った。
3057 2/14 快晴
私たちの旅は、続く。
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