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非行少女に武装解除を
女小次郎、遠藤一枝
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「絵理奈ちゃん、やっぱりいない…」
始業式の校長先生の熱弁はいよいよ第三部へと突入しー漫画ならそろそろ幽波紋なんかが飛び出してワクワクする頃ー無論、単なる新学期の心構えでは多くの生徒と少しの教師の睡眠を誘う位であるが。
言ってしまえば、ここに居ようが屋上でサボろうが実のところ今真面目に役割をこなしているのは貧血の生徒達を運ぶ保健委員と養護教諭くらいのものではある。
(最近は話を聞いてくれないし)
茜は実は絵理奈の非行に責任を感じていた。祖父の虐待を知りながら助けられなかったのだから。
(最後に話したのは去年の9月かな。
「もうあたいに関わるんじゃねえ!次はいくら茜でも容赦しねえぞ!!」
あの時は怖かった。でも、今なら…)
茜が絵理奈に会おうと決意した時、ようやく校長先生のスピーチは終わりを向かえた。
(絵理奈ちゃんなら、屋上にいるはず)
茜はHRのあと、屋上へと進んでいた。
三階の階段の先には遠藤一枝がいた。
「テメエ、絵理奈にちょっかい出してた奴だな」
彼女に問答という概念はない。茜が返事をしようとした時、既に一枝は木刀を抜いていた。
彼女のリーチと身長から繰り出される渾身の袈裟掛けは、いくら油断があったとはいえ、成人男性であっても回避も出来ずに昏倒したであろう。
だが、茜は違った。
剣筋沿うように身体を舞わせながら、斬撃と同じスピードで一枝の懐へと踏み込んだ。
斬撃を放ち、後ろ脚が伸び切った瞬間一枝の膝を蹴った!
ーーパキリ
膝の破壊された音は一枝にだけは聞こえていた。
もっとも
(痛い!)
(立ってられない!)
(何?)
(どうして!?)
彼女の頭の中はそれどころではなかったが。
左膝の破壊、当然、完全な決着である。
しかし、それは、相手が遠藤一枝でなかったらの話だ。
「かずえ、かずえっ、愛している」
宏一はいつも私を愛してくれていた。
「本当に?…ああん!っ…誰よりも!?」
「ああ!誰よりもだ!お前が一番だ!」
宏一はいつも私を愛してくれていた。
私達が不誠実な関係を結んでからもう一年が過ぎていた。
中学生の私
四十も半ばの宏一
それでも私は幸せだった。
そう、この日までは。
私達がホテルから自宅に帰ると、居間で母が揺れていた。
私と宏一の関係は何時から気付いていたのだろうか。
そしてこの結末を宏一は私の様に気付いていなかったのだろうか。いや、見ないふりをしていたのだろうかが正解か。
その日の晩、まだ警察に親族にと慌ただしい連絡を終えた宏一は私に
「おやすみ」
と言って寝室へと向かった。一番愛しているとは言ってくれなかった。
私の事を一番愛していると何度も何時も言っていた宏一はそのまま私の母の後を追った。
私の中にある激情の理由なんて誰にも分からない。私にだって分からないのだから。
学者が私の家族関係の表面だけを見て、知ったような理由を語るとしたら、それは見当違いだ。
私は嬉しかった。母は女として私に負けたのだ。父は男として私を選んだのだ。この激情は決してあの日の結果論で語れる物じゃない。
私は痛みを上書きする様に強く強く歯を食いしばった。
茜と言ったか、あの物静かそうな女。
私の膝を躊躇なく、喜びも、恐怖も、興味も、必死さもなく、ただ、無感情に壊していた。まるで日頃の覚えた動きを確かめる為の様に。
茜と言ったか、あの悪魔の如き女。
華奢で、色白で、腰まで届く艷やかな黒髪で。
私は壊れた膝を意に介さず、一気に下がった。
痛い、けど、気持ちいい。
離れろ、奴は打撃を使う。
私の方が間合いが広い。一方的に戦うのだ。
奴は振り下ろしを避けた。
避けられない攻撃が必要だ。
最速の攻撃が必要だ。
最短の攻撃が必要だ。
突きだ。
もう、左脚で踏ん張れない。
軸足は右にしなくては。
恐らく踏みとどまれない、躱されれば倒れる。
そうすれば、奴に蹴られる。
顔を。鼻を。顎を。眼球を。喉を。胸を。肋を。
構うものか。
私は突く。それ以外考えぬ。
決して外さぬように。
奴の身中を最短で。
奴の身中を最速で。
貫く。木刀で貫いてやる。
数多の思考をすり足でのバックステップの間に完了した一枝は、間伐入れずに突きを放った。
確実に茜の中心を捉えた突きはまさに神速であった。
(恐ろしく速い攻撃が来る!)
茜もまた、一枝が一旦間合いを取った時点で攻撃を予測し動いていた。
中心を狙う突きに対して、茜は倒れ込むようにスウェーをしていた。茜のスピードでは倒れ込むのが精一杯の反応なのだ。
そのまま突きを掴んだ。さながら真剣白刃取りだ。
倒れないための行動、そして突き故の取り易さが幸いだった。
茜は刀身を巻き込むように一枝の手首を一気に極めた。そのまま変形背負い投げ。
一枝の長身が派手に廊下で一回転し、床に叩き付けられた。
茜はそのまま足刀を喉に叩き込む。
素人故の恐怖からではない。
恐らく、一枝は最後の足刀が無ければ再び起き上がってきたという強い確信からだ。
始業式の校長先生の熱弁はいよいよ第三部へと突入しー漫画ならそろそろ幽波紋なんかが飛び出してワクワクする頃ー無論、単なる新学期の心構えでは多くの生徒と少しの教師の睡眠を誘う位であるが。
言ってしまえば、ここに居ようが屋上でサボろうが実のところ今真面目に役割をこなしているのは貧血の生徒達を運ぶ保健委員と養護教諭くらいのものではある。
(最近は話を聞いてくれないし)
茜は実は絵理奈の非行に責任を感じていた。祖父の虐待を知りながら助けられなかったのだから。
(最後に話したのは去年の9月かな。
「もうあたいに関わるんじゃねえ!次はいくら茜でも容赦しねえぞ!!」
あの時は怖かった。でも、今なら…)
茜が絵理奈に会おうと決意した時、ようやく校長先生のスピーチは終わりを向かえた。
(絵理奈ちゃんなら、屋上にいるはず)
茜はHRのあと、屋上へと進んでいた。
三階の階段の先には遠藤一枝がいた。
「テメエ、絵理奈にちょっかい出してた奴だな」
彼女に問答という概念はない。茜が返事をしようとした時、既に一枝は木刀を抜いていた。
彼女のリーチと身長から繰り出される渾身の袈裟掛けは、いくら油断があったとはいえ、成人男性であっても回避も出来ずに昏倒したであろう。
だが、茜は違った。
剣筋沿うように身体を舞わせながら、斬撃と同じスピードで一枝の懐へと踏み込んだ。
斬撃を放ち、後ろ脚が伸び切った瞬間一枝の膝を蹴った!
ーーパキリ
膝の破壊された音は一枝にだけは聞こえていた。
もっとも
(痛い!)
(立ってられない!)
(何?)
(どうして!?)
彼女の頭の中はそれどころではなかったが。
左膝の破壊、当然、完全な決着である。
しかし、それは、相手が遠藤一枝でなかったらの話だ。
「かずえ、かずえっ、愛している」
宏一はいつも私を愛してくれていた。
「本当に?…ああん!っ…誰よりも!?」
「ああ!誰よりもだ!お前が一番だ!」
宏一はいつも私を愛してくれていた。
私達が不誠実な関係を結んでからもう一年が過ぎていた。
中学生の私
四十も半ばの宏一
それでも私は幸せだった。
そう、この日までは。
私達がホテルから自宅に帰ると、居間で母が揺れていた。
私と宏一の関係は何時から気付いていたのだろうか。
そしてこの結末を宏一は私の様に気付いていなかったのだろうか。いや、見ないふりをしていたのだろうかが正解か。
その日の晩、まだ警察に親族にと慌ただしい連絡を終えた宏一は私に
「おやすみ」
と言って寝室へと向かった。一番愛しているとは言ってくれなかった。
私の事を一番愛していると何度も何時も言っていた宏一はそのまま私の母の後を追った。
私の中にある激情の理由なんて誰にも分からない。私にだって分からないのだから。
学者が私の家族関係の表面だけを見て、知ったような理由を語るとしたら、それは見当違いだ。
私は嬉しかった。母は女として私に負けたのだ。父は男として私を選んだのだ。この激情は決してあの日の結果論で語れる物じゃない。
私は痛みを上書きする様に強く強く歯を食いしばった。
茜と言ったか、あの物静かそうな女。
私の膝を躊躇なく、喜びも、恐怖も、興味も、必死さもなく、ただ、無感情に壊していた。まるで日頃の覚えた動きを確かめる為の様に。
茜と言ったか、あの悪魔の如き女。
華奢で、色白で、腰まで届く艷やかな黒髪で。
私は壊れた膝を意に介さず、一気に下がった。
痛い、けど、気持ちいい。
離れろ、奴は打撃を使う。
私の方が間合いが広い。一方的に戦うのだ。
奴は振り下ろしを避けた。
避けられない攻撃が必要だ。
最速の攻撃が必要だ。
最短の攻撃が必要だ。
突きだ。
もう、左脚で踏ん張れない。
軸足は右にしなくては。
恐らく踏みとどまれない、躱されれば倒れる。
そうすれば、奴に蹴られる。
顔を。鼻を。顎を。眼球を。喉を。胸を。肋を。
構うものか。
私は突く。それ以外考えぬ。
決して外さぬように。
奴の身中を最短で。
奴の身中を最速で。
貫く。木刀で貫いてやる。
数多の思考をすり足でのバックステップの間に完了した一枝は、間伐入れずに突きを放った。
確実に茜の中心を捉えた突きはまさに神速であった。
(恐ろしく速い攻撃が来る!)
茜もまた、一枝が一旦間合いを取った時点で攻撃を予測し動いていた。
中心を狙う突きに対して、茜は倒れ込むようにスウェーをしていた。茜のスピードでは倒れ込むのが精一杯の反応なのだ。
そのまま突きを掴んだ。さながら真剣白刃取りだ。
倒れないための行動、そして突き故の取り易さが幸いだった。
茜は刀身を巻き込むように一枝の手首を一気に極めた。そのまま変形背負い投げ。
一枝の長身が派手に廊下で一回転し、床に叩き付けられた。
茜はそのまま足刀を喉に叩き込む。
素人故の恐怖からではない。
恐らく、一枝は最後の足刀が無ければ再び起き上がってきたという強い確信からだ。
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