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我が部の部長氏についての話(その2)
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片脚(かたあし)が崖(がけ)の上に浮いている。もしくは膝下まで棺桶に足突っ込んでいる。 そんな気分だ。
まさかこの歳でそんな経験するとは思ってなかった。
そうは言っても本当に死ぬような事じゃないから、あくまでも気分上の話だ。
本当に半死人である訳じゃない。まあ、これから過労死するかも知れんが。
新聞部の苛烈な活動のために・・・・・・。
何とも締まらない話だ。学生生活を少しでも楽しくしようと思ったせいで、生命の危険を感じるハメになるとはさ。
「あのー。ここ、新聞部の部室で合ってるよね?」
新たな闖入者(ちんにゅうしゃ)・・・ではなく。正当な招待客、本校の生徒会長と思しき学生服の少年は露骨に戸惑いながら確認してきた。
「あっ。ええ、そうですよ」
きっと水島に訊いていたのだろうが、思わず『俺が』答えてしまった。これで、生徒会長氏(男)は俺を新聞部の一員であると思ったことだろう。だが実際は、まだ新聞部とは無関係なのであって。活動内容は・・・・・・不本意ながら知ってしまったが、別に活動に参加した事実がある訳でもない。れっきとした部外者なのだ。
だから俺はそのまま部室からそろそろとフェードアウトするのが吉だと思った。自業自得とは言え、これ以上面倒に巻き込まれるのは賢くないと。
生徒会長に空いた席を掌で示してから、彼が部室に入るのと丁度(ちょうど)入れ替わりになるように、俺は部屋を出ようと、生徒会長の横を通って開きっ放しの扉を抜けようとした。
したらば、生徒会長の右手がスッと出て俺の進行方向を遮(さえぎ)った。
おかげで緊急停止だ。
「なんの用だ?」と思ったら、生徒会長の左手に紙切れ一枚収まっていて、それはどこかで見たような感じのコピー用紙だ。
俺が記憶を辿るのも待たず、生徒会長はそのまま部室のドアを閉じてしまった。
・・・・・・完全に退路を絶たれた。
生徒会長は深刻そうに、かつ声量は低めにして話を始めた。
「それで・・・・・・インタビューを受けたら例の画像データ、消してくれるんだよね?」
「早く家に帰りたい」、切実にそう思った。
いくら鈍感な奴でも分かる。
とてもメンドーな事に巻き込まれつつある。現在進行形で。
何の画像だかは知らないが、彼の表情を見る限り絶対、人に見られたくない類の画像らしい。彼の性別を考えれば自(おの)ずとその内容は察(さっ)せられる。
世界終末の到来を目前にしているような顔の生徒会長に対する、水島の態度は傲慢(ごうまん)不遜(ふそん)この上(うえ)なしだった。
「そうねー。『私たち』の要求に応えてもらえれば、きっと悪い結末にはならない・・・・・・と思うわよ」
そこで彼女はニヤリと笑った。見事のまでの悪人面。
机に両肘ついて、どこまでも気怠げなオーラを発しているが、「目が活(い)き活(い)きし始めた」と感じたのが俺の勘違いだとは思えない。この女、『良い』性格している。
それと、この女。さらりと俺を共犯者に仕立て上げやがった。『私たち』の部分が事実(じじつ)無根(むこん)なのは言うまでもない。俺は水島(かのじょ)ほど捻(ひね)た性格はしていない。
だが、俺が自分の精神世界でいくら声だかにそう叫んだとしても意味は無い。
もう生徒会長の中では、俺は水嶋と同類、新聞部の愉快(笑)な仲間たちになってる。
彼の死んだ目がこっちを見て来た。死んだのなら一人で死んで居て欲しい。このままでは俺も巻き込んで心中しそうな具合だ。俺に男と心中する趣味は無いぞ。
本当、勘弁して欲しい。彼女は俺に対して何か大きな恨みでも抱(いだ)いているのだろうか?
教室中央のテーブルに三人向き合って座っている。
なにか既視感があると思ったら、中学時代の三者面談があったな。
あの時でも、これほどまで居心地悪くはなかったはずだが・・・・・・。
「えーと、それでお名前は?」
「あっ、どうも。三年二組の―――」
「へっくしゅん!」
ああ、名前が聞き取れなかった。
信じられない程タイミングの悪いクシャミをかましたのは水島である。俺には真似しようと思っても出来ないぐらいの折悪さだ。「わざとやってんじゃないか?」と思わず横目で新聞部部長を見てみたが、わざとではないらしい。バツが悪そうな顔をしている。それがまた意外だった。
「・・・・・・」
二学年先輩の生徒会長氏は無表情で固まってしまった。
目が腐り始めた・・・・・・気がする。ついに怒ったか? もしも俺が彼の立場だったらとっくにキレていると思うが。
「ま、まあ名乗る程の者でもないか・・・・・・」
全然冷静・・・・・・でもなかった。
耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている。流石、最上級生と言ったところかも知れない。感情を表に出さないタイプなんだろうかな? だてに生徒会長を務(つと)めている訳(わけ)ではなさそうだ。
「・・・・・・だからメモリースティックを返してくれ。・・・・・・頼む! 土下座でも何でもするから!」
いや、気のせいだったみたいだ。
あーっと・・・・・・。
生徒会長が口にするには随分と情けない内容の話が何(なに)か小声(こごえ)で聞こえてきた気もするが、気のせいだろう。そういう事にしておこう。今度から学校集会の度(たび)にこの生徒会長を変に意識してしまうのは嫌だ。特に今みたいな理由では尚更(なおさら)に。
きっと『耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている』のは、あくまで名乗っている最中で話を遮られた事の恥ずかしさのせいであって、決して水島になんらかのデータを握られた事への恐怖心のせいではないだろうな・・・・・・せめて、そう願わせて欲しい。
「でも名前は教えてもらえないと記事にならないんですけど・・・」
何故だか、そう指摘したのは俺だった。逃げるつもりが、さっきからまるで新聞部の一員のように生徒会長にインタビューしている・・・・・・なんでだろう?
「ああ、そうだね。市村(いちむら)和樹(かずき)だ。漢字はこう書く」
親切にも近くにあった紙切れ(俺が読まされた一週間分の新聞部予定表の裏)に自ら氏名を書いてくれた。下を向いて、そさくさとペンを走らす姿を見ていると、なんとも言えぬ哀愁(あいしゅう)を感じてしまう。
「ええっと、それで質問が・・・いくつか」
前もって用意された質問用紙でもあれば良いのだが、残念ながら俺の手元にあるのは水島から(彼女的には)当たり前のように渡されたA4白紙のコピー用紙が一枚だけ。俺にどうしろと?
心の内では苛立ちながらも、自分でも不思議だが必死に質問内容を上手く考え付こうとする『俺』が居た。
まあ、だからと言って名案が浮かぶとも限らない訳で――――――
あーっと・・・・・・。
生徒会長が口にするには随分と情けない内容の話が何(なに)か小声(こごえ)で聞こえてきた気もするが、気のせいだろう。そういう事にしておこう。今度から学校集会の度(たび)にこの生徒会長を変に意識してしまうのは嫌だ。特に今みたいな理由では尚更(なおさら)に。
きっと『耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている』のは、あくまで名乗っている最中で話を遮られた事の恥ずかしさのせいであって、決して水島になんらかのデータを握られた事への恐怖心のせいではないだろうな・・・・・・せめて、そう願わせて欲しい。
「でも名前は教えてもらえないと記事にならないんですけど・・・」
何故だか、そう指摘したのは俺だった。逃げるつもりが、さっきからまるで新聞部の一員のように生徒会長にインタビューしている・・・・・・なんでだろう?
「ああ、そうだね。市村(いちむら)和樹(かずき)だ。漢字はこう書く」
親切にも近くにあった紙切れ(俺が読まされた一週間分の新聞部予定表の裏)に自ら氏名を書いてくれた。下を向いて、そさくさとペンを走らす姿を見ていると、なんとも言えぬ哀愁(あいしゅう)を感じてしまう。
「ええっと、それで質問が・・・いくつか」
前もって用意された質問用紙でもあれば良いのだが、残念ながら俺の手元にあるのは水島から(彼女的には)当たり前のように渡されたA4白紙のコピー用紙が一枚だけ。俺にどうしろと?
心の内では苛立ちながらも、自分でも不思議だが必死に質問内容を上手く考え付こうとする『俺』が居た。
まあ、だからと言って名案が浮かぶとも限らない訳で――――――
◆ ◆ ◆
「はい、ちょっと待て」
無粋な声が俺の回想を遮(さえぎ)った。
「何だ? 名も知らぬストーカーよ」
「二ノ宮(にのみや)徹(てつ)だ! 一ヶ月近く後ろの席に居るんだから、ちゃんと覚えてろよ!」
どさくさ紛れに、今更ながらの名乗りがあった。
一応なので覚えておくとしよう。だが賭けてもいいが、これから先コイツをフルネームで呼ぶことはなさそうだ。『ストーカー』と呼んだ方が短いし、本人と分かりやすい。
「なんだ、その顔は。スゴく失礼なこと考えてるだろう?」
中々、勘が鋭いね。
「そんなことより一つ確認したいことがある」
「なんだ? 水島に関わることは教えられねえぞ」
ストーカーに情報を漏らしたら俺が水島(みずしま)の手によって帰らぬ人にされてしまう。
「失敬な。そんな卑怯な真似はしねえよ。俺が聞きたいのは、新聞部の週一機関紙についてだ!」
「ん? それがどうした」
「俺はそんなものを見た覚えがないぞ。生徒会長のインタビュー記事もそうだし。その他、水島さんが企画した数々の記事についてもそうだ。そもそも新聞部がこの高校にあるなんて、今さっき初めて知ったぞ」
「そりゃそうだろう」
俺だって新聞部の発行物を見たことない。
「ああ? 何言ってんだ? さっきから意味が分からねえ」
それは「お前の理解力不足だ」と切り返してやりたい所だが、あまりそういう強い台詞を言える立場じゃないのが残念だ。
なんといっても俺自身、全く気付いていなかったからな。あの生徒会長とのインタビューが終了間際になった時まで――――――
「第一、新聞部なんてこの高校に存在しないからな」
――――――なんてこと夢にも思わなかったからな。
「はい?」
この時、向かい合わせに座っている某『Nノ宮』氏の間の抜けた顔を見て思ったのは、俺も恐らく二週間ほど前に同じ顔をしたのだという事だった。せめて口を閉じろ。みっともない。
追加で捕捉しておくと。本高校において、確かに新聞部という文化部は存在していた・・・・・・そんな時代もあったんだそうだ。詳しくは知らん。
「部員ゼロ状態が三年続いたから、去年正式に廃部になったんだと」
「・・・・・・」
二ノ宮は未だに思考停止が継続しているようだ。
何をそんなにショックを受けているんだ。少々、大袈裟するだろう。そのリアクションは。
それに心なしか顔色が徐々に青ざめて来ているような・・・・・・。
「・・・・・・ということは」
大分(だいぶん)の間を置いて、二ノ宮が口をきいた。
「廃部になった新聞部の部室に、あの水島鈴音さんが居たということだな・・・・・・?」
掠れるような声で、何を言っているんだ。今更過ぎる問い掛けだな。
「えーと、つまい居るはずのない人が居たという訳だよな・・・・・・?」
ああ、なるほど。コイツが言いたいことが分かってきた。
そこから次の一言を出すのに、二ノ宮はかなりの覚悟を要したようだった。
「・・・・・・つまり水島さんは若くして死んだ年上系美少女新聞部員ということか!」
だから、なんでそうなる。
これで二人目だぞ。
二週間前の生徒会長と今の二ノ宮がダブって見えてきた。
俺にはそんな突拍子のない発想をすぐさま思い付く奴らと知り合ってしまった事の方がよっぽどホラーだ。
ただ単に、あの偉そうで実に上級生ぶった部長氏が元新聞部の部室を占拠して好き放題しているだけなんだが・・・・。・あれ?
しかし、そうなると・・・・・・。
新入生の俺や二ノ宮ならともかく、最高学年の上級生である生徒会長はどうして二ノ宮と同じような勘違いをしたんだ?
片脚(かたあし)が崖(がけ)の上に浮いている。もしくは膝下まで棺桶に足突っ込んでいる。 そんな気分だ。
まさかこの歳でそんな経験するとは思ってなかった。
そうは言っても本当に死ぬような事じゃないから、あくまでも気分上の話だ。
本当に半死人である訳じゃない。まあ、これから過労死するかも知れんが。
新聞部の苛烈な活動のために・・・・・・。
何とも締まらない話だ。学生生活を少しでも楽しくしようと思ったせいで、生命の危険を感じるハメになるとはさ。
「あのー。ここ、新聞部の部室で合ってるよね?」
新たな闖入者(ちんにゅうしゃ)・・・ではなく。正当な招待客、本校の生徒会長と思しき学生服の少年は露骨に戸惑いながら確認してきた。
「あっ。ええ、そうですよ」
きっと水島に訊いていたのだろうが、思わず『俺が』答えてしまった。これで、生徒会長氏(男)は俺を新聞部の一員であると思ったことだろう。だが実際は、まだ新聞部とは無関係なのであって。活動内容は・・・・・・不本意ながら知ってしまったが、別に活動に参加した事実がある訳でもない。れっきとした部外者なのだ。
だから俺はそのまま部室からそろそろとフェードアウトするのが吉だと思った。自業自得とは言え、これ以上面倒に巻き込まれるのは賢くないと。
生徒会長に空いた席を掌で示してから、彼が部室に入るのと丁度(ちょうど)入れ替わりになるように、俺は部屋を出ようと、生徒会長の横を通って開きっ放しの扉を抜けようとした。
したらば、生徒会長の右手がスッと出て俺の進行方向を遮(さえぎ)った。
おかげで緊急停止だ。
「なんの用だ?」と思ったら、生徒会長の左手に紙切れ一枚収まっていて、それはどこかで見たような感じのコピー用紙だ。
俺が記憶を辿るのも待たず、生徒会長はそのまま部室のドアを閉じてしまった。
・・・・・・完全に退路を絶たれた。
生徒会長は深刻そうに、かつ声量は低めにして話を始めた。
「それで・・・・・・インタビューを受けたら例の画像データ、消してくれるんだよね?」
「早く家に帰りたい」、切実にそう思った。
いくら鈍感な奴でも分かる。
とてもメンドーな事に巻き込まれつつある。現在進行形で。
何の画像だかは知らないが、彼の表情を見る限り絶対、人に見られたくない類の画像らしい。彼の性別を考えれば自(おの)ずとその内容は察(さっ)せられる。
世界終末の到来を目前にしているような顔の生徒会長に対する、水島の態度は傲慢(ごうまん)不遜(ふそん)この上(うえ)なしだった。
「そうねー。『私たち』の要求に応えてもらえれば、きっと悪い結末にはならない・・・・・・と思うわよ」
そこで彼女はニヤリと笑った。見事のまでの悪人面。
机に両肘ついて、どこまでも気怠げなオーラを発しているが、「目が活(い)き活(い)きし始めた」と感じたのが俺の勘違いだとは思えない。この女、『良い』性格している。
それと、この女。さらりと俺を共犯者に仕立て上げやがった。『私たち』の部分が事実(じじつ)無根(むこん)なのは言うまでもない。俺は水島(かのじょ)ほど捻(ひね)た性格はしていない。
だが、俺が自分の精神世界でいくら声だかにそう叫んだとしても意味は無い。
もう生徒会長の中では、俺は水嶋と同類、新聞部の愉快(笑)な仲間たちになってる。
彼の死んだ目がこっちを見て来た。死んだのなら一人で死んで居て欲しい。このままでは俺も巻き込んで心中しそうな具合だ。俺に男と心中する趣味は無いぞ。
本当、勘弁して欲しい。彼女は俺に対して何か大きな恨みでも抱(いだ)いているのだろうか?
教室中央のテーブルに三人向き合って座っている。
なにか既視感があると思ったら、中学時代の三者面談があったな。
あの時でも、これほどまで居心地悪くはなかったはずだが・・・・・・。
「えーと、それでお名前は?」
「あっ、どうも。三年二組の―――」
「へっくしゅん!」
ああ、名前が聞き取れなかった。
信じられない程タイミングの悪いクシャミをかましたのは水島である。俺には真似しようと思っても出来ないぐらいの折悪さだ。「わざとやってんじゃないか?」と思わず横目で新聞部部長を見てみたが、わざとではないらしい。バツが悪そうな顔をしている。それがまた意外だった。
「・・・・・・」
二学年先輩の生徒会長氏は無表情で固まってしまった。
目が腐り始めた・・・・・・気がする。ついに怒ったか? もしも俺が彼の立場だったらとっくにキレていると思うが。
「ま、まあ名乗る程の者でもないか・・・・・・」
全然冷静・・・・・・でもなかった。
耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている。流石、最上級生と言ったところかも知れない。感情を表に出さないタイプなんだろうかな? だてに生徒会長を務(つと)めている訳(わけ)ではなさそうだ。
「・・・・・・だからメモリースティックを返してくれ。・・・・・・頼む! 土下座でも何でもするから!」
いや、気のせいだったみたいだ。
あーっと・・・・・・。
生徒会長が口にするには随分と情けない内容の話が何(なに)か小声(こごえ)で聞こえてきた気もするが、気のせいだろう。そういう事にしておこう。今度から学校集会の度(たび)にこの生徒会長を変に意識してしまうのは嫌だ。特に今みたいな理由では尚更(なおさら)に。
きっと『耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている』のは、あくまで名乗っている最中で話を遮られた事の恥ずかしさのせいであって、決して水島になんらかのデータを握られた事への恐怖心のせいではないだろうな・・・・・・せめて、そう願わせて欲しい。
「でも名前は教えてもらえないと記事にならないんですけど・・・」
何故だか、そう指摘したのは俺だった。逃げるつもりが、さっきからまるで新聞部の一員のように生徒会長にインタビューしている・・・・・・なんでだろう?
「ああ、そうだね。市村(いちむら)和樹(かずき)だ。漢字はこう書く」
親切にも近くにあった紙切れ(俺が読まされた一週間分の新聞部予定表の裏)に自ら氏名を書いてくれた。下を向いて、そさくさとペンを走らす姿を見ていると、なんとも言えぬ哀愁(あいしゅう)を感じてしまう。
「ええっと、それで質問が・・・いくつか」
前もって用意された質問用紙でもあれば良いのだが、残念ながら俺の手元にあるのは水島から(彼女的には)当たり前のように渡されたA4白紙のコピー用紙が一枚だけ。俺にどうしろと?
心の内では苛立ちながらも、自分でも不思議だが必死に質問内容を上手く考え付こうとする『俺』が居た。
まあ、だからと言って名案が浮かぶとも限らない訳で――――――
あーっと・・・・・・。
生徒会長が口にするには随分と情けない内容の話が何(なに)か小声(こごえ)で聞こえてきた気もするが、気のせいだろう。そういう事にしておこう。今度から学校集会の度(たび)にこの生徒会長を変に意識してしまうのは嫌だ。特に今みたいな理由では尚更(なおさら)に。
きっと『耳を赤く染め、肩をプルプルと震わせている』のは、あくまで名乗っている最中で話を遮られた事の恥ずかしさのせいであって、決して水島になんらかのデータを握られた事への恐怖心のせいではないだろうな・・・・・・せめて、そう願わせて欲しい。
「でも名前は教えてもらえないと記事にならないんですけど・・・」
何故だか、そう指摘したのは俺だった。逃げるつもりが、さっきからまるで新聞部の一員のように生徒会長にインタビューしている・・・・・・なんでだろう?
「ああ、そうだね。市村(いちむら)和樹(かずき)だ。漢字はこう書く」
親切にも近くにあった紙切れ(俺が読まされた一週間分の新聞部予定表の裏)に自ら氏名を書いてくれた。下を向いて、そさくさとペンを走らす姿を見ていると、なんとも言えぬ哀愁(あいしゅう)を感じてしまう。
「ええっと、それで質問が・・・いくつか」
前もって用意された質問用紙でもあれば良いのだが、残念ながら俺の手元にあるのは水島から(彼女的には)当たり前のように渡されたA4白紙のコピー用紙が一枚だけ。俺にどうしろと?
心の内では苛立ちながらも、自分でも不思議だが必死に質問内容を上手く考え付こうとする『俺』が居た。
まあ、だからと言って名案が浮かぶとも限らない訳で――――――
◆ ◆ ◆
「はい、ちょっと待て」
無粋な声が俺の回想を遮(さえぎ)った。
「何だ? 名も知らぬストーカーよ」
「二ノ宮(にのみや)徹(てつ)だ! 一ヶ月近く後ろの席に居るんだから、ちゃんと覚えてろよ!」
どさくさ紛れに、今更ながらの名乗りがあった。
一応なので覚えておくとしよう。だが賭けてもいいが、これから先コイツをフルネームで呼ぶことはなさそうだ。『ストーカー』と呼んだ方が短いし、本人と分かりやすい。
「なんだ、その顔は。スゴく失礼なこと考えてるだろう?」
中々、勘が鋭いね。
「そんなことより一つ確認したいことがある」
「なんだ? 水島に関わることは教えられねえぞ」
ストーカーに情報を漏らしたら俺が水島(みずしま)の手によって帰らぬ人にされてしまう。
「失敬な。そんな卑怯な真似はしねえよ。俺が聞きたいのは、新聞部の週一機関紙についてだ!」
「ん? それがどうした」
「俺はそんなものを見た覚えがないぞ。生徒会長のインタビュー記事もそうだし。その他、水島さんが企画した数々の記事についてもそうだ。そもそも新聞部がこの高校にあるなんて、今さっき初めて知ったぞ」
「そりゃそうだろう」
俺だって新聞部の発行物を見たことない。
「ああ? 何言ってんだ? さっきから意味が分からねえ」
それは「お前の理解力不足だ」と切り返してやりたい所だが、あまりそういう強い台詞を言える立場じゃないのが残念だ。
なんといっても俺自身、全く気付いていなかったからな。あの生徒会長とのインタビューが終了間際になった時まで――――――
「第一、新聞部なんてこの高校に存在しないからな」
――――――なんてこと夢にも思わなかったからな。
「はい?」
この時、向かい合わせに座っている某『Nノ宮』氏の間の抜けた顔を見て思ったのは、俺も恐らく二週間ほど前に同じ顔をしたのだという事だった。せめて口を閉じろ。みっともない。
追加で捕捉しておくと。本高校において、確かに新聞部という文化部は存在していた・・・・・・そんな時代もあったんだそうだ。詳しくは知らん。
「部員ゼロ状態が三年続いたから、去年正式に廃部になったんだと」
「・・・・・・」
二ノ宮は未だに思考停止が継続しているようだ。
何をそんなにショックを受けているんだ。少々、大袈裟するだろう。そのリアクションは。
それに心なしか顔色が徐々に青ざめて来ているような・・・・・・。
「・・・・・・ということは」
大分(だいぶん)の間を置いて、二ノ宮が口をきいた。
「廃部になった新聞部の部室に、あの水島鈴音さんが居たということだな・・・・・・?」
掠れるような声で、何を言っているんだ。今更過ぎる問い掛けだな。
「えーと、つまい居るはずのない人が居たという訳だよな・・・・・・?」
ああ、なるほど。コイツが言いたいことが分かってきた。
そこから次の一言を出すのに、二ノ宮はかなりの覚悟を要したようだった。
「・・・・・・つまり水島さんは若くして死んだ年上系美少女新聞部員ということか!」
だから、なんでそうなる。
これで二人目だぞ。
二週間前の生徒会長と今の二ノ宮がダブって見えてきた。
俺にはそんな突拍子のない発想をすぐさま思い付く奴らと知り合ってしまった事の方がよっぽどホラーだ。
ただ単に、あの偉そうで実に上級生ぶった部長氏が元新聞部の部室を占拠して好き放題しているだけなんだが・・・・。・あれ?
しかし、そうなると・・・・・・。
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