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一夜の夢
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「理想の相手? わたくしだけを見てくださる人かしら?」
仮面舞踏会でその言葉を聞いたとき、本当に理想の話でしかないなと思った。
建前上は誰が参加しているか分からないから立場に上下はないとされている舞踏会だが、招待制である以上主催者が誰か参加者は当然知っており、主催者も少なくとも招待状を出した相手は把握している。
そんなものなかったとしても、仮面一つで完全に正体を隠せる者などそういない。
よくあの方が参加出来たなと思う。恐らく最初で最後だからと無茶を言ったのだろう。
秋波にしては剣呑すぎる視線をあの方とその周りに向けている男達は恐らく護衛だろう。これでは正体を本当に知らなくともが寄ってくる男はいまい。
知っているなら建前があろうとなおさら。
それでも仮面舞踏会に参加してみたかったのだろうと思うと気の毒になる。
昔は貴族といえば幼い頃から親の意向で婚約者が決まっていたものだが、最近は夜会などで顔を合わせてから決めるようになったので、自由と格差が出来ている。
それでもより責任を伴う立場となれば慎重になるし、王族との婚約により自由がなくなる貴族もいる。
当の王族に至っては最初から自由はない。何らかの理由で王族でなくなってもそれは変わらない。
第三王女殿下は確か来月隣国の王に輿入れすることが決まっていた。
この仮面舞踏会がそれでも友人と羽目を外せる最後の機会だろう。
なので叶わないと分かっていながら、恋愛話の真似事をしてみたかったのだろう。
そしてそれは限りなく本音だっただろう。
隣国の王は同盟の印という名の人質として花嫁を望んだと聞いている。この時点で人質になり得る婚姻可能な年齢の相手なら誰でもいいことになってしまう。
そしてその名目で嫁いだ花嫁は他国のものが他にも大勢いる。この現状も自分だけを見てくれるに当てはまらない。
それがなかったとしても彼女の背後に惑わされない男はいないだろうし、単純に切り離せない以上完全に見ない相手の方が後々問題になるだろう。
けれどもし、そんな男がいたらどうする?
ただ存在してくれるだけでいいと乞うたなら、あなたは愛を返してくれるだろうか?
無理な話だ。
仮にあなたが選べる立場で私の想いを受け入れてくれたとしても。
常識の差は悪意なく不満を生み気持ちを離れさせてしまうだろう。
誰相手でも絶対あって消しきれないであろうものが大きすぎる。
それでも叶えたければ心中でもするしかない。
私に限らなくても、そこまでの想いを抱く人はいないでしょう?
それにあなたは選べるのならそれでも王族としての務めを果たそうとする人だ。
だからこれはあなたの夢想であり私の妄執だ。
触れることはおろか言葉を交わすことも出来ないが。
一夜の夢はそれでも確かにここにあった。
仮面舞踏会でその言葉を聞いたとき、本当に理想の話でしかないなと思った。
建前上は誰が参加しているか分からないから立場に上下はないとされている舞踏会だが、招待制である以上主催者が誰か参加者は当然知っており、主催者も少なくとも招待状を出した相手は把握している。
そんなものなかったとしても、仮面一つで完全に正体を隠せる者などそういない。
よくあの方が参加出来たなと思う。恐らく最初で最後だからと無茶を言ったのだろう。
秋波にしては剣呑すぎる視線をあの方とその周りに向けている男達は恐らく護衛だろう。これでは正体を本当に知らなくともが寄ってくる男はいまい。
知っているなら建前があろうとなおさら。
それでも仮面舞踏会に参加してみたかったのだろうと思うと気の毒になる。
昔は貴族といえば幼い頃から親の意向で婚約者が決まっていたものだが、最近は夜会などで顔を合わせてから決めるようになったので、自由と格差が出来ている。
それでもより責任を伴う立場となれば慎重になるし、王族との婚約により自由がなくなる貴族もいる。
当の王族に至っては最初から自由はない。何らかの理由で王族でなくなってもそれは変わらない。
第三王女殿下は確か来月隣国の王に輿入れすることが決まっていた。
この仮面舞踏会がそれでも友人と羽目を外せる最後の機会だろう。
なので叶わないと分かっていながら、恋愛話の真似事をしてみたかったのだろう。
そしてそれは限りなく本音だっただろう。
隣国の王は同盟の印という名の人質として花嫁を望んだと聞いている。この時点で人質になり得る婚姻可能な年齢の相手なら誰でもいいことになってしまう。
そしてその名目で嫁いだ花嫁は他国のものが他にも大勢いる。この現状も自分だけを見てくれるに当てはまらない。
それがなかったとしても彼女の背後に惑わされない男はいないだろうし、単純に切り離せない以上完全に見ない相手の方が後々問題になるだろう。
けれどもし、そんな男がいたらどうする?
ただ存在してくれるだけでいいと乞うたなら、あなたは愛を返してくれるだろうか?
無理な話だ。
仮にあなたが選べる立場で私の想いを受け入れてくれたとしても。
常識の差は悪意なく不満を生み気持ちを離れさせてしまうだろう。
誰相手でも絶対あって消しきれないであろうものが大きすぎる。
それでも叶えたければ心中でもするしかない。
私に限らなくても、そこまでの想いを抱く人はいないでしょう?
それにあなたは選べるのならそれでも王族としての務めを果たそうとする人だ。
だからこれはあなたの夢想であり私の妄執だ。
触れることはおろか言葉を交わすことも出来ないが。
一夜の夢はそれでも確かにここにあった。
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