令嬢は殺され続ける

こうやさい

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後編

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 備品の中には何時の間にかある程度権限を持った方を呼びに行った人がいらしたようで。
 恐らく殿下をなだめてもらう為だったのでしょうけれど。
 実際は殿下がわたくしをお嬢様の名で呼んだのを聞いただけでした。

 殿下が婚約者の令嬢を殺したというのはあまりにも問題です。
 ……けれどもし死んだのがその侍女で、しかも死因は最終的には事故だったら?
 何も責めは負わないとまでは行かなくとも幾分穏便な罰になるでしょう。
 人というのは保身に走る生き物です。
 ですから殿下がわたくしをお嬢様の名で呼んだのはそのためだったと確信しております、自分は婚約者を殺したわけではないと言外にいいくるめようと。
 いくら同じようにヴェールを付けていようともこんな薄いものでは顔ははっきり隠れませんし、そもそも殿下はそれまでお嬢様とかろうじて会話と呼べなくもないものをしていたのですから、間違うはずがございません。
 まだ錯乱していた可能性もないでしょう。
 それに本当にわたくしをお嬢様だと思い込んでいるのなら笑顔を向けてくるはずがございません。そんな事が出来るならそもそもここまでこじれていないでしょう?

 そしてその白々しい芝居を醜聞を隠すのに使えると城の上層部は踏んだのでしょう。
 最終的に誤魔化すにしろ罰を与えるにしろ、理由はできる限り些細な方が楽だと考えるのはある意味当然でしょう。王族ともなれば敵は内外に想像以上にいるものですし、それをどう対処するかに国を巻き込むのですから。
 お嬢様のこうしゃく家は飴と鞭をちらつかされ、あっという間に丸め込まれました。
 わたくしはそうして直接の主から正式に身代わりを命じられました。

 わたくしは以前より厚いヴェールを被るようになりました。当然です、今までのヴェールでは中が透けてしまいます。関係者以外は顔を見れば確実に別人だと断ずるでしょう。
 それでもそうしてお嬢様のふりをして時々屋敷から出かけます。
 その時殿下は暇さえあればお嬢様の名を呼びながらわたくしにべったりと張り付いて笑いかけてきます。
 わたくしが迂闊に言葉を発せられないのをいいことに、さぞ大切なもののように扱い、愛を囁いてきます。
 正直吐き気がしますし、周りにも却って怪しまれるだけとしかいいようがありません。
 監視のつもりでしょうか? わたくしに対する? それとも関係者以外を近づけない為に?
 それとも自分はお嬢様を愛しているから殺すはずはないと思わせたいのでしょうか?
 まさか本当に思い込みたいのではないでしょう?

 だって殿下は確かにお嬢様をずっと嫌っていました。
 殺してしまったのは勢いでも、結局はその延長でしょう?
 なのに愛しているだなんて、誰に対するいいわけかしら?

 そして今も、お嬢様は殺され続けています。
 他ならぬわたくしの手によって。

 いくらまねをしようとしてもわたくしはどう足掻いてもお嬢様にはなれません。
 なのにこれからわたくしの行動がお嬢様のものだと認知されていきます。
 その度に本当のお嬢様が皆の中で少しずつ壊されていくのです。

 つじつまを合わせるため、頃合いを見てわたくしはお嬢様の身代わりのままどこかで病気にでもなったことにして口封じをかねて命を失うでしょう。
 わたくしの命はしょせんその程度、社会的な存在としてのわたくしの命ほんらいのじんせいお嬢様の身代わりとしてのわたくしのからだをふくめた命、そうやって二度わたくしを殺したとしても彼らの良心は何も痛まないのでしょう。
 けれどその前にお嬢様はもっと多く殺されてしまうのです。
 わたくしがそうしてゆくのです。

 わたくしはもうそれを嘆くことが出来る立場にございません。
 加害者であるわたくしが悲しむなんで、自己満足以下です。
 なのでこの罪はわたくしが背負ったままでまいります。

 ですからどうか、あなたは本当のお嬢様を覚えていて下さい。
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