我が罪への供物

こうやさい

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冷たい水

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 冬の水道水は切りつけるように冷たい。
 それでもお湯は使うなと父は言う。


 あたしの血族には女性だけに伝わるいいつけがある。
 何十年かごとに女児を海神に嫁がせること。
 そしてそのいいつけを女性のみで守り続けること。

 あたしがそれを母から聞かされたのは十歳の時、妹が三つになってすぐだった。
 それはつまり将来母があたしを殺すということだと思った。
 嫁ぐだなんていっても相手はいるかいないかすら分からない神なのだからそうでしかないだろう。
 だから逃げようと思った。

 とはいえ自分に生活能力がないことは子供なりに理解していたので、父を利用することにした。
 父は母と血族というわけではない……というか母方の親戚なんて見たことないので、父方からその話が戻ってくることはないだろう。
 なので今から思えばつたないことこの上ないシロモノだったが、母のひどい欠点を捏造した。
 平行して、離婚したとき引き取ってくれるようにと父に媚びを売った。


 そうして両親の離婚は成立した。
 そしてあたしは父に引き取られた。


 思うに父はその時母をすでに愛してはいなかった。
 ただ家政婦としてそれでも便利だったから結婚を続けていた。
 そして母には頼れる人がいず逃げられなかったのだろう。
 一人でならなんとかなっても、いいつけを引き継がせるための女児と、それ以外の生まれてしまった我が子を育てるために我慢をしていたのだろう。

 それをあたしが壊した。
 あたしという新たな家政婦の当てを見つけた父は、もう口うるさい女ははを必要としていなかった。

 母と弟妹がどうなったかはあたしはしらない。
 自分から捨てておいて頼ることは出来ないだろう。

 幼い頃は父を優しい人だと思っていた。
 けれどそれは母がめんどくさいことを全部引き受けて間に入ってくれていたからだと知った。
 ただ無責任にペットのようにかわいがるだけなら幾らでも優しくなれるだろうし。
 問題発言や行動は止めてくれていたのだろう。

 家の事は可能な限り、いやあたしとしては可能を通り越してまで押しつけられた。
 何もしてこなかった子供に完璧を求めてくる。
 それなのに失敗すればいろいろ無駄にしたとその分の節約を強いてくる。

 確かに母ほど上手くは出来ない。
 けれどもそこまで酷い損害も出していないはず。
 それなのに過度の節約を強いてくるのは、どうも女に貢いでいるせいもあるらしい。
 これで新たな母親候補だというなら良くなるか悪くなるかはとにかく現状をかえる切っ掛けになるだろうけど。
 そういうものではないと、無邪気に子供ぶれなくなった今、分かってしまった。
 なのに一人で生活できるほど大人にもなれない。


 今考えると、あたしは花嫁ではなかったのかもしれない。
 だって母は父がこういう人格であると知っていた。
 だったら母だって一日でも早く子育てを終えて別れたかったに違いない。
 あたしを嫁がせて妹を育てつづけるよりも、あたしをいいつけを守らせるために外に出し、妹を最低限まで育てて嫁がせた方がたぶん早く終わる。
 きっと、そのために話してくれたのだろう。

 なのになんて早まったことをしてしまったのだろう。


 今なら海神に嫁ぐのもいいかなと思う。
 ここから離れられるのならそれで。
 けれども水はこんなにも冷たい。
 関係ないと分かっていても拒絶されている気がする。

 今更、すがりたいと思うのは、あまりにも身勝手だろうか?
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