我が罪への供物

こうやさい

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許しの儀式

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「じゃあ、あたしと心中してくれる?」


 小さな頃、ひいお祖母ちゃんにこの血族からは代々海神様にお嫁に行く人がいるんだよと聞かされた。これは血の繋がった女の人達だけの間の内緒だからね、と。
 詳しい話をする前にひいお祖母ちゃんは亡くなり、それが遺言のように思えた。
 祖母と母は他所から来た人なのでそんな話は知らない。
 分かる範囲でひいお祖母ちゃんの血を引いた女性はあたしだけなのだから、もう正確な話は誰にも分からない。
 だから適当に推測をした。
 なのであたしは海に沈む。伝えるのは……姪にタイムカプセルだから期限が来るまで開けないようにとでも言って手紙を書いておこう。

 それはそれとしてあたしはもてる。
 自慢かと言われそうだが、既に嫁ぎ先が決まっている身としてはうっとうしいだけだ。
 それを捨ててもいいと思うほど好きになれそうな人なんていなかったし。

 だからいつもこう尋ねる。



 わりと本気だった。もし一緒に海に飛び込んで、一緒に死ねたら、あるいは二人とも生き残ったら、それは海神様が認めてくれたということになるだろうから。
 ちなみに今まで一度もオーケーされたことはない。メンヘラに適当に話合わせて喰うだけ喰って捨ててしまおうなどと思う人がいなくて結構な事だ。


 その定型文は結構な噂になっていて、今更真剣に告白されることなんてないと思っていたが、範囲は校内に留まっていたらしい。
 放課後、電車でたまに顔を合わせる他校生にホームで呼び止められ告白された。
 さすがにここまで不特定多数がいるところで言うには勇気が要るなと思いながら、同じ言葉を口にする。

 承諾された。

 冗談かと思ったが、彼はあくまで真面目な表情をしていた。
 はっきり言ってシャレにならない。あたしの台詞だけなら結局は振りたかっただけと思うだろうが、これでは誰かに止められかねない。
 
 慌てて場所を移動する。
 荒唐無稽な話は静かな人のいないカフェなんかよりも同世代がいっぱいいるファストフードの店でやるに限る。どんな物騒な単語が出てもゲームか何かだろうでスルーされるし、いくら真剣そうでも顔と制服で学校が分かる程度の知り合ったばかりの人と二人っきりになんてなりたくない。
 ようやく席に着いた後始まったのは相手の自己紹介だった。これから心中するかもしれない相手の今更何を聞いているんだろうと思う。

 電車で見かけた姿を可愛いと思っていたらしい。
 外見だけで評価されるのは今更だからどうでもいいとして、本当に噂も知らないで、ほぼ初対面で、真面目に了承したのだろうかと、自分が言いはじめたことなのに呆れかえる。
 その様子が不審だったのか、試されたのかと尋ねられたが首を振って否定する。
 あたしは本気だ。ただ了承されたのが予想外だっただけだ。
 じゃあ、何時どこでする? とふざけている訳ではなさそうだが、まるで次のデートの予定を決めるように言われる。
 それでいいわけ? と尋ねたいのはあたしだけではないだろう。
 一人で死にたくないって事だろ? と返され、その言葉がストンと胸に落ちてくる。

 確かにそうだったのだろう。
 事情を分かるであろうひいお祖母ちゃんはもういない。姪は未だ何も知らない。
 親も友達も何も知らない。ただある日あたしがいなくなるだけ。
 そして海神様が迎えてくれる保証はどこにもない。
 その不安を、心細さを、儚さを、きっと誰かに分かって欲しかった。

 目の前のこの人も具体的に何かを分かってくれている訳ではない。
 何も分からない癖にと怒ることも出来たかもしれない。
 それでも、だとしても、だからこそ、心捕らわれてしまうくらい嬉しかった。
 外見で決めたよりもきっと質が悪いに違いない。

 その日は次の待ち合わせと、目的地だけ決めて別れた。


 待ち合わせに向かう中、心を占めるのはもちろん浮かれた気分ではなく不安だった。
 来てくれなかったらどうしようなんて可愛いものではない。もし来なかったとしたら怒りながらもむしろ安堵するかもしれない。
 心中した場合、二人で死ぬか生き残るか、あるいはあたしだけが死ぬかのどれかだと、ずっと思い込んでいた。
 けれどもしあたしだけ生き残ってしまったら?

 彼を失ってしまったら自分がどうなるか分からない。
 いっそすっぽかす事が出来れば悩まなくてもすむだろう。
 それでも気持ちが止められない。
 彼一人なら死ぬ理由はないはずだけど、行かなければ二度と会えない気がする。
 そんなことはきっとないのに。

 何を思おうと電車は走り続ける。
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