我が罪への供物

こうやさい

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未だ選べない

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『あなたはここ以外で生きることは出来ないわ』
 未だ、その言葉に縛り続けられている。


 あたしの家には女性だけに伝わる約束がある。
 海神に嫁ぐこと。
 そして子々孫々その役目を伝えること。

 そんな話を小さな頃聞かされた。
 そしてあたしが花嫁になるんだと。

 けれど幼いあたしは海神の花嫁になる事が幸せだと思えなかった。
 というか、ただ死ぬだけだとなぜか分かった。
 それは嫌だ。
 だから逃げようかと思ったけれど。

『あなたはここ以外で生きることは出来ないわ』

 その前に誰かに言われた言葉を思い出してしまった。

 今となってはその言葉の前後に何があったのか覚えていない。
 ううん、当時も恐らく知らなかった。
 もしかしたら甘やかされて、その調子じゃ他のところでちゃんと出来ないとかそういう意味だったのかもしれない。
 小さな子供に対する発言ならばあるいは微笑ましいコメントだったかもしれない。

 母が逃げ出すのを防止しようという意図で言ったわけではなかったと思う。
 なぜなら海神の花嫁になるのは素晴らしいことだと思っているようだし、それをあたしが心から喜ぶと信じていたようだから。

 あるいはただの勘違いなのかも。

 けれどもなぜか強く思ってしまったのだ。
 たとすれば今すぐ野垂れ死ぬか時を経て花嫁として死ぬかを選択させられている事になる。
 そこで即座に前者を選べる人がどれだけいるだろうか。


 なんて事が全部幼子の妄想だったら良かったのに。
 子供に理解出来るとは今思い返してもいろいろあり得ないと思うのに。

 それからここ以外で生きられないそんなことと言われたことはない。
 だからあれはもしかしたら夢だったのかもしれない。
 一方海神の花嫁になれる幸せは折に触れ聞かされる。
 確実に死は迫っている。
 そうなりたくないなら逃げるしかない。

 だけど。

 生活力というなら完璧とはいわないけれどあの頃よりはある。
 お小遣いも悩んだ末溜めることを選んだ。花嫁にされるなら無駄になるけれど。
 さらに言うなら母の発言を録音している。
 さすがに直接的に死ねとは言っていないが、そう取れる、あるいはあたしがそう取ったとしてもおかしくはないであろう言葉が残っている。
 これがあれば行政に頼ることも出来るかもしれない。

『あなたはここ以外で生きることは出来ないわ』

 なのにその言葉はあたしを縛る。
 やりさえすればあるいは簡単かもしれないことなのに。
 嫁ぐよりは死ぬ確率はそれでも低いはずなのに。
 未だあたしは踏み出せない。

 もうすぐ、選ぶことすら出来なくなるのに。
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