我が罪への供物

こうやさい

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波間の泡

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『半年前、同県の海水浴場で起きた大量殺人事件の容疑者は未だ捕まっておらず――』
『被害者の遺体の一人が容疑者である可能性を――』
『自殺したように見せかけて逃げているんじゃないですか?』

 半年前、他県の海水浴場で同世代の女性ばかりが殺されるという事件があった。
 芋洗い状態の海水浴場で、それでも男性に不用意に近づきたくないと思った女性グループが複数そこそこ固まっていたと推測されるところに、新たに加わるかと思った同世代の女性がいきなり刃物を持ちだしてめちゃくちゃに振り回したという。
 助かった女性は容疑者に面識はないと皆が言った、適当に切りつけているように見せて知っている人は先に殺しただけかもしれないといわれているが、結局それも憶測でしかない。
 容疑者の目撃者は多いが、カメラは盗撮を疑われるので写真までは撮れておらず、死体どころか身元すら判明していない。
 自分を切りつけ、被害者達の浮く中に倒れ込んだ容疑者はそのままどこにもいなくなってしまったそうだ。

 長引く思春期の闇だとか、容姿コンプレックスだとか、怨恨以外にも適当な説が玄人素人問わず出たが、恐らくどれも真実ではない。

 海神様に花嫁を捧げるという伝統を女性だけが受け継いでいる血族がある。
 花嫁というが要するに海に放り込まれて殺されるだけだ。
 不思議と遺体は浮いてこないらしい。
 そんな事この間までなにもしれなかったけれど。

 母に海に突き落とされたあと、それを知った。

 幸い、母が気づかなかっただけで周りには人がいて、助けてくれて、母も捕まった。
 血族の女性だけが受け継ぐはずの事を自己保身のためかペラペラとしゃべり、他に血族が見つからなかったとかで済まなそうにされながらあたしに確認が来た。
 初耳だった。
 なので正直にそう言う。
 あたし以外もそうだったらしく、母は今精神鑑定をするだかしただからしいが、誰もあたしに説明してくれないので正確には分からない。
 結局のところ未遂なのだから多分すぐに帰ってくるから無駄なのに。

 本当に女性の血族にしか伝えてはいけなくて。
 本当に花嫁を捧げなければいけなくて。
 けれど娘が一人しかいなければどうなるか。

 母のように無関係な人に話しても狂人扱いがオチだろう。ネットで面白おかしく広がるかもしれないが、同時にものすごい速度で歪んでいくだろう。本当に伝えたい人には伝わらない可能性が高い。
 けれど海でニュースになるような事件を起こし、皆の前で自殺して見せて、それでも死体が見つからないとなれば伝統を知っている人ならば気づくと考えるだろう。
 当代の花嫁は捧げられたと。
 そうすれば残った人は受け継ぎ次代につなげる方に回れる。伝統が滅びることはない。
 もっとも母のように気づかなかった人もいるし、他に継ぐべき人がいるとは限らない。
 継げるとも。

 あたしは子供を手にかけることはきっと出来ないだろう。

 きちんとそれが出来るように育てられていれば違っていたかもしれないが、母はあたしになにも知らせなかった。誰に継がせるつもりだったのだろう?
 あたしは母のようにはなれない。

 被害者と加害者、両方に恨まれたとしても。
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