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シュレディンガーの猫は死んでいるか?
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――なら、海に落ちたんでしょうね。
そういったあの子の母親の声は不気味なほど何の感情もこもっていなかった。
もうずいぶんと前のことに思える。実際は小学校の頃だから……ある意味では充分長いだろうか?
あたしの同級生が、ある日居なくなった。
もうちょっと年嵩ならば田舎に嫌気がさして家出の可能性が考えられただろう。
それくらい平和な町で警察の仕事は登下校の見守りと夫婦ゲンカの仲裁だと本気で思っていた子供がいるような場所だ。
実際に夫婦ゲンカの仲裁に来る訳ではなくそれくらいしか子供は大人が争う姿を見ない。
不審者情報なんて、挨拶をしたら通報されたすらない、全員が顔見知りで少なくとも表面上は和やかに付き合っている場所だ。
そんな場所だから妙なところに入り込みでもしない限り一人くらいは見かけて覚えていてもおかしくはない。
けれど見つからなかった。
最初あの子の母親は帰らないあの子を必死で探していた……らしい。
伝聞形なのは昔過ぎて覚えていないというより、その時熱を出して寝込んでいて見ていないから。
そのうちにあの子が最後に会ったのはあたしだったと判明した。
病み上がりの子供相手だったので、必死に平静を保とうとしていたのだろう。そんな様子が透けて見えるほど話を聞きに来た母親は動揺していた。
けれどその日はどうやって帰ってきたのか分からないほど熱が出たので……と答えた。
なら、海に落ちたんでしょうね。
そういったあの子の母親の声は不気味なほど何の感情もこもっていなかった。
それを境に母親は探すのを打ち切った。
確かに近くにある海は紛れ込める妙なところの一つで、過去に落ちた人がいて自力で這い上がってきたのだがそれでも大騒ぎになった事がある。
だから海に落ちた結果亡くなってしまった子供がいたとしても、痛ましくはあるが不思議ではない。
だが、そう思ったならば、たとえ生存自体は諦めたとしても、せめて痕跡の一つぐらい探そうとするのではないだろうか?
そう思った人はあたしに付き添っていた母や、あの子の母親に付き添ってきた人たちも含め多かったらしく。
同情一転母親が殺したのではないかという噂まで立ったが、少なくとも直接手を下すことは出来ないと証明されとりあえずは収まった。
それでも居心地が悪かったのか、あるいは死んだ娘を思い出すのが辛かったのか、母親は町を去ってしまい、あの子の他の家族も一緒に行ったらしく転校した。
あたしは確かにあの日熱を出した。
けれどあの子の事を知らないとは一言も言っていない。
子供が残酷だといわれる理由の一部は行動の結果何が引き起こされるかを想像できるだけの知識がまだないからだと思う。
確かあたしの好きだった男の子があの子の事を好きだったと判明したとか、当時は真剣だったけれど今となっては覚えていない程度の理由だった。
一度家に帰って荷物を置いてきて、待ち合わせて、海岸ではなく堤防からブロックを海に向かって段になるように積んだ場所へ行って。
最初はそこそこ落ち着いて話していたが、いつの間にか口論になり、立ち上がり、先に手が出たのは向こうだったはず。
なのでやり返した。
その結果、バランスを崩し、ブロックで体を打ちながら転げ、海に落ちるだなんて想像も出来なかった。
普段は話すときに座る場所があって便利程度の認識しかないところだった。
なのに、その出来事が大事になることだけははっきりと分かった。
次に気がつくと、家で看病されていた。何でも熱を出して玄関で倒れていたらしい。
本気でどうやって帰ってきたのか覚えていなかった。
熱を出したのはショックのためだろうか? それとも長時間潮風に当たっていたせいだろうか?
なかなか下がらないそれのせいで周りの騒ぎに乗り遅れ、たとえあたしが突き落としたのでなかったとしても言えなくなった。
だってまだ見つかっていないなら死んでしまった可能性が高い。
必死で探している相手にもう死んでいるとは言えないし、それがあたしのせいだとはもっと言えない。
だからこそ、感情のこもらない声が怖かった。
結局彼女の遺体は未だ見つかっていない。
母親は見つからないと確信していたのか、それとも周り中が信じられなくなったのか、引っ越し先や彼女が生死に関わらず戻って来たときどうして欲しいのかや、未練の言葉すら残さなかった。
普通はそれでも生きていることに一縷の望みをかけるものではないのだろうか?
遺体が見つからない以上、本当に死んでいるとは限らないのに。
直後は確かに死んでいると確信していた。
けれど時が募るたびに同じように不安も募る。
もしかしたら生きているのではなかろうか? 目の前に現れ、あたしを断罪するのではなかろうか?
あるいは彼女にではなく母親にされるのかもしれない。
即座に海と断定されたのが怖かった。
もしかしたら見ていたのではないのかと。
殺す事が出来ないと証明された以上、近くにいたはずはないので直接目撃はしていないだろうけれど。
痕跡が発見された今も何も言ってこないけれども。
本当になにも知らないのだろうか?
なので、この町からは出られない。
ここ以外の場所には真実を知る人がいるかもしれないから。
けれどもやっぱりこの町も怖い。
現場だということと、もう地面やそれに近いものに座り込むような年齢ではないことを差し引いても、座るのをためらうほどの年月をブロックは刻んでいる。
あれは事故のようなものだと自分に言い聞かせる。
それでも海に背を向ける瞬間は緊張する。
目を離した瞬間に彼女が腕を伸ばし這い上がってくる――そんな気がして。
なのに確かめに来ずにはいられなかった。
そういったあの子の母親の声は不気味なほど何の感情もこもっていなかった。
もうずいぶんと前のことに思える。実際は小学校の頃だから……ある意味では充分長いだろうか?
あたしの同級生が、ある日居なくなった。
もうちょっと年嵩ならば田舎に嫌気がさして家出の可能性が考えられただろう。
それくらい平和な町で警察の仕事は登下校の見守りと夫婦ゲンカの仲裁だと本気で思っていた子供がいるような場所だ。
実際に夫婦ゲンカの仲裁に来る訳ではなくそれくらいしか子供は大人が争う姿を見ない。
不審者情報なんて、挨拶をしたら通報されたすらない、全員が顔見知りで少なくとも表面上は和やかに付き合っている場所だ。
そんな場所だから妙なところに入り込みでもしない限り一人くらいは見かけて覚えていてもおかしくはない。
けれど見つからなかった。
最初あの子の母親は帰らないあの子を必死で探していた……らしい。
伝聞形なのは昔過ぎて覚えていないというより、その時熱を出して寝込んでいて見ていないから。
そのうちにあの子が最後に会ったのはあたしだったと判明した。
病み上がりの子供相手だったので、必死に平静を保とうとしていたのだろう。そんな様子が透けて見えるほど話を聞きに来た母親は動揺していた。
けれどその日はどうやって帰ってきたのか分からないほど熱が出たので……と答えた。
なら、海に落ちたんでしょうね。
そういったあの子の母親の声は不気味なほど何の感情もこもっていなかった。
それを境に母親は探すのを打ち切った。
確かに近くにある海は紛れ込める妙なところの一つで、過去に落ちた人がいて自力で這い上がってきたのだがそれでも大騒ぎになった事がある。
だから海に落ちた結果亡くなってしまった子供がいたとしても、痛ましくはあるが不思議ではない。
だが、そう思ったならば、たとえ生存自体は諦めたとしても、せめて痕跡の一つぐらい探そうとするのではないだろうか?
そう思った人はあたしに付き添っていた母や、あの子の母親に付き添ってきた人たちも含め多かったらしく。
同情一転母親が殺したのではないかという噂まで立ったが、少なくとも直接手を下すことは出来ないと証明されとりあえずは収まった。
それでも居心地が悪かったのか、あるいは死んだ娘を思い出すのが辛かったのか、母親は町を去ってしまい、あの子の他の家族も一緒に行ったらしく転校した。
あたしは確かにあの日熱を出した。
けれどあの子の事を知らないとは一言も言っていない。
子供が残酷だといわれる理由の一部は行動の結果何が引き起こされるかを想像できるだけの知識がまだないからだと思う。
確かあたしの好きだった男の子があの子の事を好きだったと判明したとか、当時は真剣だったけれど今となっては覚えていない程度の理由だった。
一度家に帰って荷物を置いてきて、待ち合わせて、海岸ではなく堤防からブロックを海に向かって段になるように積んだ場所へ行って。
最初はそこそこ落ち着いて話していたが、いつの間にか口論になり、立ち上がり、先に手が出たのは向こうだったはず。
なのでやり返した。
その結果、バランスを崩し、ブロックで体を打ちながら転げ、海に落ちるだなんて想像も出来なかった。
普段は話すときに座る場所があって便利程度の認識しかないところだった。
なのに、その出来事が大事になることだけははっきりと分かった。
次に気がつくと、家で看病されていた。何でも熱を出して玄関で倒れていたらしい。
本気でどうやって帰ってきたのか覚えていなかった。
熱を出したのはショックのためだろうか? それとも長時間潮風に当たっていたせいだろうか?
なかなか下がらないそれのせいで周りの騒ぎに乗り遅れ、たとえあたしが突き落としたのでなかったとしても言えなくなった。
だってまだ見つかっていないなら死んでしまった可能性が高い。
必死で探している相手にもう死んでいるとは言えないし、それがあたしのせいだとはもっと言えない。
だからこそ、感情のこもらない声が怖かった。
結局彼女の遺体は未だ見つかっていない。
母親は見つからないと確信していたのか、それとも周り中が信じられなくなったのか、引っ越し先や彼女が生死に関わらず戻って来たときどうして欲しいのかや、未練の言葉すら残さなかった。
普通はそれでも生きていることに一縷の望みをかけるものではないのだろうか?
遺体が見つからない以上、本当に死んでいるとは限らないのに。
直後は確かに死んでいると確信していた。
けれど時が募るたびに同じように不安も募る。
もしかしたら生きているのではなかろうか? 目の前に現れ、あたしを断罪するのではなかろうか?
あるいは彼女にではなく母親にされるのかもしれない。
即座に海と断定されたのが怖かった。
もしかしたら見ていたのではないのかと。
殺す事が出来ないと証明された以上、近くにいたはずはないので直接目撃はしていないだろうけれど。
痕跡が発見された今も何も言ってこないけれども。
本当になにも知らないのだろうか?
なので、この町からは出られない。
ここ以外の場所には真実を知る人がいるかもしれないから。
けれどもやっぱりこの町も怖い。
現場だということと、もう地面やそれに近いものに座り込むような年齢ではないことを差し引いても、座るのをためらうほどの年月をブロックは刻んでいる。
あれは事故のようなものだと自分に言い聞かせる。
それでも海に背を向ける瞬間は緊張する。
目を離した瞬間に彼女が腕を伸ばし這い上がってくる――そんな気がして。
なのに確かめに来ずにはいられなかった。
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