我が罪への供物

こうやさい

文字の大きさ
26 / 48

慈雨

しおりを挟む
「まるで雨のようね」
 そう、彼女は微笑った。

 あたしの血族には義務がある。
 海神様に娘を嫁がせること。
 そしてそれを代々女性の血族に受け継がせていくこと。

 そうは言っても女の子を全員生け贄に出してしまえば、当然受け継がせる血族が居なくなる。
 なので最低でも一世代に親戚中の中で一人、長いときは百年くらい間が開くときもある。
 そんな調子だった。

 あたしはちょうどその間の世代に当たっていた。
 伯母や叔母が嫁がされた事もないし、娘や姪が嫁がされる事もない。
 将来的には孫や姪孫が嫁ぐことにはなるかもしれないけど、今まで生きたよりも長い年月が簡単に想像がつくはずがない。
 現状、ただ伝えるだけのだけの立場は、どこか気楽で他人事だった。

 中学で彼女と友人になるまでは。

 入学式で知り合い、不思議なほど仲良くなった。
 何でもこの春越してきたとかで、以前は山に住んでいたとか。
 だから海になれておきたくて引っ越した、と。
 ……その言葉が少し引っかかった。

 中学生がわざわざ引っ越してまで海になれる必要がどこにあるんだろう?
 昔やフィクションのように許嫁が海の側で住んでいて、もうすぐ嫁がなければいけないとでも言うのだろうか?

 そう考えれば心当たりが一つ出来てしまう。

 無関係な人に話したならば、何か罰でも当たるのだろうか?
 それでも尋ねずにはいられなかった。

「まるで雨のようね」
 そう彼女は微笑った。
 遠いところに降った雨が川に溜まり流れて海に集まるように。
 遠く離れた血族が出会うこともあるのね、と。

 大好きな友人が遠いとはいえ、親戚だったということは嬉しい。
 ここに来たのが海になれるためでなければ。

 海の側にすみ続けるという訳じゃない。
 水底に嫁いでしんでしまえばもう会えない。

 あたしの未来の孫か誰かがいくんだからそれでいいじゃない。
 身勝手にもそういったけれど、彼女はうなずかない。
 元が同じ血族だったとしても、今は違うルールで動いている。

「それでも嬉しいわ」
  そう、彼女が微笑う。
「もし水底で孤独ひとりだったとしても、いつかあなたにゆかりのある人と会えるんですもの」
 ――途中で別れてしまっても、雨がいつかは海に集まるように。

 それ以来、その話はしていない、彼女とも血族かぞくとも。
 当たり前のように過ごし、当たり前のように笑い、当たり前のように卒業し……。
 その後、彼女とは会っていない。

 もしかして彼女がいたから自分の近しい家族あたしたちが嫁がなくて済んだのだろうか?

 今まではおとぎ話、あるいは海神様そういものがいるという前提のごっこ遊びだった。
 実際に誰か死んだわけではなかったから。

 けれど海神様がいないのならば、彼女は本当に一人水底に沈んでいる事となる。
 それを思うと体の芯が冷えていく気がした。

 だから皆、花嫁を出すことを、伝えることをやめないのだろう。
 少しでも慰めになるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...