我が罪への供物

こうやさい

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最終列車

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 列車の揺れと音は眠気を誘う。
 もっともこんな時間なのだから眠くてもしょうがないのかもしれない。


 あたしの一族には女性のみに伝えられる約束がある。
 一人が百年に一度海に沈み海神様に嫁ぐこと。
 残りは人間ひとに嫁ぎ、子を増やし、約束を受け継ぎ、次の海神様の花嫁を用意し続けること。

 あたしは、その花嫁に選ばれてしまった訳なんだけど。
 百年前ならいざしらず、今どき自己犠牲なんて流行らないわけで。御利益もはっきりしてないしさー。
 と、いうわけで夏休みのどさくさで逃げてみた。さすがに普段中学生にしか見えないのが彷徨いてたら目立つかもだし。
 あーあ、なんでお父さん死んじゃったんだろ。庇ってもらえたかもしれないのに。

 海際は避けた。ホントに子孫に正確に伝わってたら海の傍から離れないだろうし、下手したら追っ手に早変わりだろうし。
 こんなことを考えるくらいなのだから我が家も海寄りだったわけで、窓の外の見慣れない景色にこんな状況だというのにわくわくした。

 とりあえず目標は逃げ切ること。とはいえ、完全に逃げるのはさすがに不可能だろう、百年前じゃあるまいし。
 なので親戚の一人ちがうぎせいしゃが新たに花嫁に選ばれる、あるいは一族の女性以外ほかの人に居なくなることを不信がられるようになること。建前はそれでも花嫁だから儀式とかあるらしいから引っ込まされてすぐに殺される訳じゃないはずなので、その間に多くの人に探されるような存在になれば、面倒を避けるためにほかの人に交代する可能性は大きい。
 Web小説で人気になって身内を介さず社会と関わりを持つしょうぎょうデビューとか、有名動画配信者に騒がれるとかも目指してみたんだけど、どうも知名度がイマイチで。
 なのでリアルで目を離したら何をやらかすかわからない系をめざすことにした。
 とはいえ夜遊びプチ家出程度では家族が気をつけるといえば学校はスルーするだろう。あたしはなんやかやと理由を付けてしないことにされられているとはいえ周り中受験生。動揺をあたえそうな出来事はギリギリまで内々に納めようとするに違いない。
 だから適当に納得されてしまうような深夜徘徊なんかをするつもりはない。かといって中学生を一人泊めてくれるホテルもないだろうから基本昼間は乗り物で移動、食事はコンビニ、夜は目立たないように野宿するつもり。これも夏休みに逃げた理由だ。……まぁ、暑さでちがう意味で死にそうだけど、それでもたぶん冬よりまし。春は……もう、手遅れだと思う。
 これから早くても夏休み終わるまでは逃げきろう。補導されるにしろ、遠くで見つかればその分騒ぎは大きくなる。このために現金でためたよ、電子マネーって足つきそうだもん。

 

 そんな疑問をいきなり持った。
 田舎は本数が少ないので乗り継ぎに失敗したとか普段ならあるだろうけど、具体的に目的地があるわけでなし、早々に補導されたくなければ明日に回せばいいし、仮に気が向いたとしても過程を覚えていないのはおかしい。

 それでももしかしてこの集団ならば紛れやすいと考えたのかもしれない。
 イベントでもあったのか周り中がほぼ同い年くらいの女の子だ。浴衣らしきものを着ている人も居る。こんなにいるんだから一人くらい代わってくれないだろうか。

 いや、それもおかしい。

 こんな時間に女子中学生の集団なんて、保護者がいるか補導されていなければおかしい。
 けれどここには大人の姿も男性の姿もみえない。
 男性が居ないだけなら女性専用車両なんじゃと思われるかもしれないが、列車と呼ぶのが憚られるようなほぼ一両編成の田舎でそれはあり得ないだろう。それがなくなるほど遠くに来た覚えはない。
 なら外は暗いけれど時間は早い?

 そもそもどうして乗った理由が思い出せない?

 少しでも手がかりを見つけようと辺りを見回す。
 知らない顔ばかりなのにどこかで見たことがある気がする。
 それは、従姉妹や、妹や、母や、……あたしにどこか似ていた。
 親戚だといわれたら、即座に嘘だと切って捨てることはできないだろう。

 けれどさすがにそんなはずはない。

 胸に沸いてくる不安を抑え、否定するためにさらに見回す。
 たまに混じる着物姿はイベント用の衣装ではなく、もっと着なれているもののように見える。
 そして――白い。

 納得出来る理由を考えようとする思考を、耳につくが邪魔をする。

 どうしてそんなものが聞こえるの!?
 列車に乗っていたはずなのに。
 内陸に、山に向かっていたはずなのに。

 もしやあたしは既に海に沈められていて。
 歴代の花嫁ししゃたちのところにたどり着いてしまったのだろうか?

 そんなはずはない。

 そうだ、眠気を覚えていたのだから、きっと眠ってしまったのだろう。
 それで不安やそれでもある後ろめたさのせいで妙な夢を見てしまっているのだろう。

 起きたらあたしはきちんと生きているはず。逃げているはず。

 だからねぇ、覚めて覚めて覚めて。
 覚ませてよ、お願いだから。
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