「殿下が王太子ですから愛してますの」と婚約者どのは言ったらしい

こうやさい

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「殿下が王太子ですから愛してますの」と婚約者どのは言ったらしい

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「殿下ぁ~」
 毒を持つ花の蜜のような甘ったるい声でまとわりついてくるなんとかいう令嬢が私を呼ぶ。
 ……本当は家名も名前も覚えているし、父親である男爵が昔娼婦に生ませた娘が、母が死んだからと訪ねてきたときその美貌に目をつけ、私の側妃かできれば正妃の座につかせおこぼれに預かろうと考えて養女という形で引き取り王侯貴族が通う学園に入れたことや、不興を買ったなら切り捨てるつもりなのも知っているし、実は令嬢の方は男爵と血の繋がりはなく、男爵を利用しているだけの他家の間諜だが個人的に王族とお近づきになりたがっているということくらいは知っているが、要するにそれくらいしか興味がない。
 ちなみにその時の娼婦は実際には男爵の子を妊娠しておらず、この令嬢とは無関係で、今は身請けされ違う家の妾をやっているらしいが、寵愛が醒めつつあるそうだ。

「殿下の婚約者様ったら酷いんですよぉ~。『殿下が王太子ですから愛してますの』ですって」
 けれどこんな益体のないことをいうのだから興味が持てなくてもしょうがないと思う。
 婚約者どのがそういう性格だということは既に知っている。
「これって殿下の地位以外どうでもいいって事ですよねぇ~」
 確かにそう聞こえる人もいるだろうね。

 子供に対する目こぼしがあるせいだろうが、私は今まで苦労も努力もした認識があまりない。
 対して私の婚約者どのは努力の人で、他人に厳しく自分にはもっと厳しい。
 逆にいえば好感は頑張っている人に対して持ちやすい。

 苦労も努力も見えにくい場合が有るけれど、それに比べれば重責は見えやすい。
 だから婚約者どのは私に目を向けてくれた。
 重責を受け止めてこなしているのだから頑張っているのだろうと。
 そうして好きになってくれた。
 それを簡潔に表現しようとして地位目当てのような発言になった可能性が否定しきれない。

 確かに王太子でなければやることが違う分こちらを見てくれなかった可能性はあるし。
 実は今一番苦労しているのは、どう頑張ってこなしたように婚約者どのに見せかけるかだったりするけれど。

 いざ本当に努力が必要になったとき、ちゃんと頑張れるようにはしておかないと。

「そんな人との婚約では殿下は幸せになれないと思いますぅ~」

 まずとりあえずやることはこの表向きは令嬢の排除かな?
 それでも誤解を解く努力なんてしたくないからね。
 一瞬でも嫌われたくはないのだから。
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