婚約者にお飾りになれと言われた令嬢は

こうやさい

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「一体何に使ったんだ!?」
 最低限だけの関わりになったはずの婚約者の名前で、交際費として大量の請求をされた男は令嬢の家に怒鳴り込んだ。
「あら?」
 久しぶりに会った令嬢は服装は派手、化粧は濃く、じゃらじゃらと趣味の悪いひかりものを身につけるようになっていた。
 確認するまでもなく交際費の使い道は明らかだった。
「お前はお飾りだと言っただろう!?」
 最低限はさすがに認めなければ思っていたが、正直婚約者に予算を使うつもりは男にはなかった。
 なのにいきなり無駄遣いをするようになったのは男への腹いせだろうか?
「ええ、お飾りですから、横にいて存在を認識されないのでは意味がないでしょう?」
 確かに分かる人にしか分からない飾りというのは男の趣味ではない。
 だが今回は意味が違う。こんなことになるとは想定していなかった。
 愕然とする。

「婚約破棄だっ!!」
 だが、婚約者が派手に金を使うようになったというのは婚約を破棄する理由になると男は判断した。
 このままでは交際費について親に責められるのも分かっているのだから責任ごと切り捨ててしまえばいい。
 令嬢が悪いのなら慰謝料も取れるだろう。
「お好きなように」


 浅はかにそう思った男は、既に令嬢が契約不履行の証拠を集めているとは知らなかった。
 その結果婚約は破棄されるが令嬢は悪くないとされ慰謝料を払うのは自分だということも。
 貴族の婚約は当人同士の問題ではすまないのだから。


「本当は、こんな格好わたくしも好きではないんですけれど」
 令嬢がつぶやく。
 都合のいい利用しやすい女ではなく金遣いの荒い扱いづらい女をお飾りにしてでも、貫きたい愛ならば応援しようと思っていたが。
「悪趣味ですこと」
 それは今の格好を指しているのか、こうして試した行為を指しているのか、少しでもあの男に心を寄せたことに指しているのか、応援しようと思ったことなのか、あの男の方なのか。
 何に対してなのかは令嬢自身も分からなかった。
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