ある少年の永劫の失恋

こうやさい

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ある少年の永劫の失恋

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『おねえちゃん大好き。ぼくが大きくなったら結婚して』
『…………そうね。大きくなって――あたしより年上になれたらね』
『おねえちゃんのバカっ』

 その背広を着た人を見かけたとき、記憶がよみがえった。
 だからあたしは逃げた。

 その子はあたしの友人の弟で、結構年は離れていたと思う。
 男の子にしてはずいぶんとかわいらしかったけれど、将来はかっこよくなる、芸能事務所にでも入れるんじゃないかと、姉バカの友人と盛り上がった。
 その子は何故かあたしにも懐いて、あたしが友人の部屋に遊びに行ったとき、何が楽しいのか一緒に部屋に居たがった。
 テスト勉強とか目的によってはその子の相手をしている暇もない時もあって、そんなときでもその子は友人の少女マンガか何かを読んで、同じ部屋の中で時間を潰していた。
 内容は分かっているんだろうかと思ったものだ。

 けれど、そんな時間は長く続かなかった。
 あたしがそう簡単には遊びに行けないところへ移動することになったから。
 なのでお別れを言ったらプロポーズされた。
 結婚を単純に長時間一緒にいられるようになることと解釈してるのだろうなと思った。
 だから本来は無難に返すべきだったのだろう、いずれは忘れるか真実を理解するだろうし。
 けれど当時は本気で嫌われる方がいいと思っていた。

 遊びに行けなくなるのは長期入院のためだった。
 不治の病で、今日明日の話ではないが、それでも長くは生きられないと。
 ならば口約束だとしても、迂闊なことはいえないと。
 もしまだ懐いてくれてるうちにあたしの死を知ってしまったら、なにか妙な影響を残すかもしれない。
 だったらさっさと嫌われて、次は同世代の健康な女の子と友情でも愛情でも育めばいいと。

 そうしてあたしは死んで生まれ変わったことを今思い出した。
 それだけだったなら、あるいは少女マンガのように恋にでも落ちたかもしれない。なにせあたしより年上になったわけだし。
 あんなことを言って未だ好かれてると思ってるのか図々しいとか、仮にあれで嫌われなかったとしてもそれが今まで続いてると思うのかとか、そもそも向こうは生まれ変わりと分かるのかとか、前からだけど年の差がひどいとか、突っ込み所は多々あれど、フィクションなら描き方によっては無茶ではない。

 けれどこれは恋愛が上手く行けばすべて上手く行くような少女マンガではなく。
 あたしが選択したのは逃げることだった。

 別に見た目が好みでなかった訳でもない。
 やっぱり芸能事務所に入れそうなかっこよさで、年齢のせいもあり以前よりも好みなくらいだ。
 けれど会うことは出来ない。

 入院はしたものの、思っていたよりもあたしは長く生きた。
 そしてその間に、その子の方が死んでしまった。
 交通事故だったと友人は言った。車の前に飛び出したと。
 伝えようか迷ったけれど、最後にあたしに会いに行くと言い残していたからせめてと思ってと友人は申し訳なさそうな表情をしていた。
 けれどだとすれば悪いのはあたしの方だ。
 あたしより年上になれたら結婚すると、確かにそう言った。
 それでも無茶ぶりで振られたとは分かっていたはずだ。現にバカ呼ばわりされたわけだし。

 あの子は友人の少女マンガを読んでいた。
 あたしも読んだことはあるけれど、そのマンガは先に死んだ人が先に生まれ変わって後から死んで生まれ変わった人よりも年上になったという設定があった。
 あの子があたしの病気を知っていたとは思えない。
 それでもいつかは死ぬはずだから、それよりも先に死ななければ年上にはなれない。

 マンガでの死因はあたしがかかったものよりもよほど特殊な実在しない病気だったから、その通りにして死ぬのは不可能だろう。
 けれど子供は案外と死ぬ方法を周りから教わっている。
 死ぬような危険に近づかないように教えるということは、言い換えればと知るということ。
 死を恐れているのならそれでも問題ないのだけれど。

 もちろん、考えすぎで本当に交通事故なのかもしれない。
 会うというのも来世で再会などではなく本当に単純に会おうと探しに行くつもりだったのかもしれない。
 けれどその考えは頭から消えなかった。

 だからあの子には会えない。

 万一あの子がまだ結婚を望んでいたとして。
 あたしの記憶が戻らなければもしかしたらそうする未来もあったかもしれない。
 あるいは単純にあたしだけが死んで生まれ変わって、生きて成長したあの子と再会したのなら。

 けれどあたしは罪悪感と居たたまれなさで逃げることしか出来ない。
 贖罪として結婚すのぞみをかなえるだけの勇気もない。
 記憶を持ったまま恋愛感情を持つことも。
 この記憶を持つものを結婚したい相手と定義するならば、一生それが叶うことはないだろう。

 これは本当に初めての再会なのだろうか?
 既に何度か同じ事を繰り返してはしないだろうか?

 あれは約束のつもりではなかったけれど。
 それをあたしは破り続けるだろう。

 ――そうして更に罪を重ねていくのだろう。
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