共に堕ちるなら

こうやさい

文字の大きさ
1 / 2

前編

しおりを挟む
 この国では孤児院が周辺国よりも多い。
 それを不幸な子供を作らぬよう保護に力を入れているいい国と見るか、大切な我が子すら捨てなければ皆で心中するしかないようなまともな生活ができないような人が多い悪い国と見るかはおそらく育った環境によるだろう。
 しかし国の思惑は実のところそのどちらとも関係ない。
 忌み子として扱われることの多い、庶民の中の魔力持ちを効率よく見つけるためだ。

 魔力は本来庶民が持ちうるはずはなく、代わりに貴族なら大概持っているものだ。
 なので忌み子は身分を隠した、あるいは身分を笠に着た貴族の放蕩の結果であることもある。
 そんな風に混じる可能性が零ではない以上、先祖返りや突然変異であることも。
 そして魔力持ちの子供は、その制御できない魔力によって物を壊したり人を傷つけたりするので気味悪がれ、ごく一部の諸事情で貴族として扱われるようになる者以外、手に終えないと捨てられることが多い。
 そして何の導きか野垂れ死にすることなく孤児院まで辿り着き、魔力を確認された子供は、将来国に使いつぶされることが決定する。
 魔力を制御出来るようにするために生徒の大半が貴族である魔法学園に入れられ、進路の自由などなく、卒業すれば魔法でやれば効率よく出来るが貴族が嫌がる仕事に回される。
 今は戦時中でないことがせめてもの救いだろうか。

 彼女もそんなよくある運命をたどると思われた。
 けれど彼女の母親は娘を手放さなかった。
 しかし娘への愛情故ではない。
 娘の父親の関心を取り戻すには子供の存在が必要だと思いこんでいたからだ。

 忌み子としての能力がほとんど表に出なかったことも影響した。
 潜在的には相当の量の力を持っていたのだが、ろくに食べさせられないような生活では生存本能が魔力も生命維持に使ってしまう。生きて生まれたことが奇蹟のような状況ではそれ以外に力を割り当てる余裕はない。
 その特性は多かれ少なかれ忌み子に共通するもので、だからこそ孤児院が増えたのだろう。忌み子が孤児院にたどり着く確率は、魔力のない子供が捨てられたときより恐らくずっと高い。
 それが彼女はずば抜けていたのだろう。

 こうして捨てられはしなかったが愛されもしなかった生活は、それでもそれなりに続き、父親が母親を刺し殺し、それが握りつぶされた事で終わりを告げた。
 何が彼らをそこまで追い詰めたのか分からない。
 彼女は幸か不幸か母親が父親に殺されたということを知ることはなかった。

 ぎりぎりだが、孤児院に入ることのできる年齢だった彼女は、少しの身の回りの物を持ち孤児院に向かう。
 そこでようやく魔力を持っていることに気づかれた。
 だとしたら魔法学園に行かせなければならない。
 けれどその為に残された時間はあまりにも少ない。
 忌み子として必要な知識も、人間として必要な常識も、父親が引き取ってくれなかったことによる不安定な彼女の気持ちも、何もかも無視して最低限表面上の作法だけを教え込まれ魔法学園にたたき込まれた。

 そんな状況ではあったが、初めてたくさんの同世代が居る中に入った彼女はとても喜んだ。
 ただ同じ年頃であっても周りはほぼ貴族である。
 それでも果敢に友人を作ろうとした彼女はとても勇気ある存在だったのだろう。
 けれども彼女は他人との関わり方を知らなかった。
 今まで父親の居ないときはこき使われるか家の中で放置され、ごくたまに父親が居るときはほんの少し構われ、その時すら母親が父親に媚びる理由にされていることが大半だった。
 なので結果やったことは異性に自覚なく媚びることだった。
 それは母親の真似であり彼女としてはごく普通の行いであったし、同性とは異性を挟まなければ付き合えないものだとどこか思い込んでいた。
 大半の人達はそんな彼女を冷ややかに見つめていたが、何故か媚びてくる相手には困っていないはずの高位貴族の子弟が引っかかった。
 その結果襲われでもすれば性的な対象にみられていただけだと気づいただろうが、婚前に迂闊に相手と交渉を持ってはいけないという常識はそれでも彼らに残っていたため、彼女はそれを友情か庇護だと信じた。あるいは信じたがった。
 どちらにしろ、誰だって冷たくしてくれる人よりは優しくしてくれる人に信頼を持つ。
 結果成り立ったのがある種の共依存で、更に周りが見えない状況に陥る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

最難関の婚約破棄

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
婚約破棄を言い渡した伯爵令息の詰んでる未来。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

魔女の祝福

あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。 長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。 予約投稿で5/12完結します

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

処理中です...