共に堕ちるなら

こうやさい

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後編

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 その異様さにある日何の拍子か彼女が気づいたことは幸いだっだろう。
 それを教師に相談するという選択肢がまだ残っていたことも。
 けれどその後、相手の選択を誤った。
 既に嫌われていることを察していたとはいえ女性教師に相談に行かなかったことがまず一つ。
 男性教師でも妻帯しているという歯止めがかかりやすい相手には出来なかったことも一つ。
 何よりこちらから近づいたせいとはいえ私に相談してしまったことが最悪だろう。
 生い立ちの――父親がいるときだけは優しくしてもらっていたせいだろうか? それとも未だ父親が迎えに来てくれることを夢見ているのだろうか?
 彼女は無意識に誰か異性が近くにいることを求める。
 その想いに制御方法を習っていない魔力が反応し形になる。
 結果父親に薄く連なる高位貴族の血を引きつける珍しい魅了の魔法が常に彼女にまとわりついていたようだ。
 なまじ年齢が近かったためにそれは恋情と欲望に似たものとして効果を現した。

 彼らの行動を疑問に思い研究したいと考えてしまったことが間違い。
 遠くから少し調べてそれでは物足りないと話を聞きに彼女に会いにいってしまったのも間違い。
 魅了の影響を受けてしまったのは計算違い。
 貴族なら誰でもやっている他人の魔力の影響への対策が効いていない事は分かっていたが、魔法の研究がしたいがために家を捨てた私までが魅了の対象に入るとは思っていなかった。
 てっきり守りになるであろう権力の強さに反応していると思っていたのに、血のつながりの方だったとは予想外だった。
 貴族はある意味周り中遠い親戚みたいなものなのに、高位貴族により反応しているのだから完全に間違いではないのだろうが。……それとも教師という職も上位に分類されるのだろうか?
 そんな風に理性はこの好意が魔力の影響であると把握しているのに、感情がだから何だと否定する。
 そちらに引っ張られるのも魔力の影響だろうか?
 せっかく手に入ったと思った相談相手が取り巻きに成り下がったと知ったなら彼女はさぞや絶望するだろう。
 それでも彼女のために距離を取ろうと思えないのだから、結局何が一番悪いのだろう?

 そして絶望するのは恐らく彼女だけではない。
 直接見たことがある人はもうここにはいないし、醜聞として隠されたため資料が残されたいたわけではないので詳しい部分ほどただの噂かもしれないが、昔、特待生が同じように王太子と貴族の子弟を侍らせたことがあったそうだ。
 そのせいで令嬢が一人失われたらしい。取り巻きの婚約者か何かで刺されでもしたのだろうか?
 その時の特待生が同じように魅了が使えたかどうかは分かっていない。
 未だ対策が出来ていないところを見ると使っていなかったかそれどころではなかったのだろう。後者の可能性が高い。
 その後、その特待生に関わった王太子は表向きの理由とともに廃嫡の上幽閉、他の令息も特待生もそれぞれ報いを受けたという。
 それだけの事が起これば勢力図も書き換わり、その対処に追われて研究どころではないだろう。

 その話の真実は分からないが、きっと今後我々も似たような騒ぎを起こす。
 彼女の魅了の件に関しては相談され始めた頃に報告しておいたのだが、私が取り巻きに成り下がった以上信憑性は下がる。
 他人は研究者が研究対象に負けてしまったという自分にも起こりえそうな悲劇より、誑かされて捏造したんだという現状無関係な状況の方を望む。
 解明を始めるとしても我々の処分が済んだ後だろう。
 自分たちも加害者だという自覚もないまま、さぞ愛国者のような顔をして。
 そいつらはどうでもいいが、彼女となら共に堕ちるならそれもいい。

 そう思うのは本当に魅了のせいだろうか?
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