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「申し訳ございませんっ」
そう半ば叫びながら殿下に頭を地面にこすりつけんばかりに下げる父を同じく頭を下げながらも横目で盗み見る。
謝らなければならないくらいならば握りつぶしてしまえば良かったのにと思う。
ひっそりと隠されていた手紙を見つけたのは家人だし、口止めをすれば恐らく王家の関係者相手でも漏らさないだろう。殿下や陛下にまではさすがに分からないが、直々に尋問には来ないだろうし。
もっとも父のこの高位貴族にしては馬鹿正直なところが、妙な野心は持つまい、たとえ持ってもすぐに止められる、と義妹に関する決め手になったらしいが。
それがこんな結果に繋がるとは皮肉なものだ。
義妹は王子殿下の婚約者だった。
過去形だ。
当の義妹は先日自死してしまっている。
最初はとにかく皆は混乱した。
殿下の婚約者ともなれば周りからの重圧や嫉妬などで潰れてしまったのだろうと義妹をよく知らない人ほど思うかもしれないが、それより身近な義兄であるわたしから見る限りその辺りは自分が養女である点も含めても軽々ととまでは言わないがそれなりに上手く折り合いをつけていたように思っていた。
少なくとも死を望み、それを実行するほどまでに追い詰められているとは見えなかった。
そんな時に遺書らしき物が見つかり、父はそれを読み、義妹が殿下以外に好きな人が出来、その板挟みの末に自死を選択したと判断した。
政略で決まった結婚なんて気持ちが伴わない事なんてざらで、義務を果たした後は外側しか取り繕わないなんてそれなりにあることで。
それ以前に解消や、酷い場合は駆け落ちやら心中やらも隠されているが存在している。
ごく少数だが、婚約破棄を衆目の中でやってのけた愚か者もいる。
そしてもちろん一人で逃げた者も。
恋情を理由に自死を選んだのだから、それはあるいは逃げたも同然で、それでも契約違反だ。
なので謝っているのだが。
「……少し考える時間が欲しい」
殿下の返答はどこか平坦だった。恐らく反応に困っている。
意外すぎたのだろう。
わたしの見る限り義妹は殿下を慕っていた。どう見繕っても他に好きな人がいるとは思えなかった。
側妃狙いであからさまな秋波を送る令嬢に比べれば控えめだっただろうが、付き合いも長い。殿下が好意に気づかないはずがない。
「下がってくれ」
なので、理由がなんであれもう帰ってこない義妹のために煩わされている。
周囲は既に切り替わり、次の婚約者をどうするかという話に移っている。
手紙の件を知れば追い落とすのに使えると思いはしても、ずれに違和感を持ちはしないだろう。
……結局本当のところは義妹にしか分からない訳だし。
殿下がいる部屋から退室し、帰り支度をしていると殿下の侍従に呼び止められた。
……わたしだけを残したいらしい。
万一義妹の想い人に心当たりがある場合、わたしの方が与しやすいと思ったのか、それとも……。
何が理由であれ、拒否できるはずがない。
父のくれぐれも失礼はするなという目に見送られる。
そう半ば叫びながら殿下に頭を地面にこすりつけんばかりに下げる父を同じく頭を下げながらも横目で盗み見る。
謝らなければならないくらいならば握りつぶしてしまえば良かったのにと思う。
ひっそりと隠されていた手紙を見つけたのは家人だし、口止めをすれば恐らく王家の関係者相手でも漏らさないだろう。殿下や陛下にまではさすがに分からないが、直々に尋問には来ないだろうし。
もっとも父のこの高位貴族にしては馬鹿正直なところが、妙な野心は持つまい、たとえ持ってもすぐに止められる、と義妹に関する決め手になったらしいが。
それがこんな結果に繋がるとは皮肉なものだ。
義妹は王子殿下の婚約者だった。
過去形だ。
当の義妹は先日自死してしまっている。
最初はとにかく皆は混乱した。
殿下の婚約者ともなれば周りからの重圧や嫉妬などで潰れてしまったのだろうと義妹をよく知らない人ほど思うかもしれないが、それより身近な義兄であるわたしから見る限りその辺りは自分が養女である点も含めても軽々ととまでは言わないがそれなりに上手く折り合いをつけていたように思っていた。
少なくとも死を望み、それを実行するほどまでに追い詰められているとは見えなかった。
そんな時に遺書らしき物が見つかり、父はそれを読み、義妹が殿下以外に好きな人が出来、その板挟みの末に自死を選択したと判断した。
政略で決まった結婚なんて気持ちが伴わない事なんてざらで、義務を果たした後は外側しか取り繕わないなんてそれなりにあることで。
それ以前に解消や、酷い場合は駆け落ちやら心中やらも隠されているが存在している。
ごく少数だが、婚約破棄を衆目の中でやってのけた愚か者もいる。
そしてもちろん一人で逃げた者も。
恋情を理由に自死を選んだのだから、それはあるいは逃げたも同然で、それでも契約違反だ。
なので謝っているのだが。
「……少し考える時間が欲しい」
殿下の返答はどこか平坦だった。恐らく反応に困っている。
意外すぎたのだろう。
わたしの見る限り義妹は殿下を慕っていた。どう見繕っても他に好きな人がいるとは思えなかった。
側妃狙いであからさまな秋波を送る令嬢に比べれば控えめだっただろうが、付き合いも長い。殿下が好意に気づかないはずがない。
「下がってくれ」
なので、理由がなんであれもう帰ってこない義妹のために煩わされている。
周囲は既に切り替わり、次の婚約者をどうするかという話に移っている。
手紙の件を知れば追い落とすのに使えると思いはしても、ずれに違和感を持ちはしないだろう。
……結局本当のところは義妹にしか分からない訳だし。
殿下がいる部屋から退室し、帰り支度をしていると殿下の侍従に呼び止められた。
……わたしだけを残したいらしい。
万一義妹の想い人に心当たりがある場合、わたしの方が与しやすいと思ったのか、それとも……。
何が理由であれ、拒否できるはずがない。
父のくれぐれも失礼はするなという目に見送られる。
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