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受け取るべき者
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「……誰か心当たりはないか?」
かけられた言葉が最悪でなかったことにとりあえず安堵する。
家の浮沈の事ではない。それならばわたしがまだ関与できないところで進むだろうと思っていている。
けれど全く関係がないというわけでもない。
「しばらく考えていましたが、すぐに思い付く交流のある家の令息および使用人に義妹が不自然な態度をとっていた心当たりは我が家を含めてありません」
見ていないところだったり隠していただけなのかもしれないが、義妹の気持ちはずっと殿下に向いていたようにしか見えなかった。
「……お前はどうなんだ?」
やっぱり疑われているのかと心の中で苦笑する。
血が繋がっていないわりには、いやだからこそ我々の仲はよかった。家督を巡って対立する必要もないし、ある程度距離が離れていれば些細な事で争うこともない。
けれどそれが恋情に繋がるかどうかは別問題だろう。
「殿下はあの内容を見て、その条件にわたしが当てはまるとお思いですか?」
正しくて強くて高い――高潔だろうか。
「余所ではある程度取り繕いもいたしますが、さすがに家の中でまで四六時中気をはってはいられません」
それでも義妹は絶対気を抜けない相手ではなかった。それでなくとも家の中なら油断することもあるし、そこにたまたま義妹が通りかかることもある。
そもそももっと幼い頃からの付き合いなのだから、いろいろと過去も知られている。
なのでそんな理由でこんな形の好意を持たれることは今更なかっだろう。
付き合いの長さという意味なら殿下もそれなりに長い。
殿下が辛うじて貴族の端に引っ掛かっている家の少女を見染め、後ろ盾を欲し、ほぼ他人である遠い親戚の上位貴族の養女にしたのだから。
……思い付いたことを口にすべきだろうか?
義妹は殿下の在り方から突きつけられる理想に適わないという絶望感から死を選んだのではないかと。
好意をもつ相手に対し格好をつけたい。その気持ちはよく分かる。
そうでなくとも殿下などやっていると隙など見せられなかっただろう。
義妹は殿下に追いつきたいと必死に学んでいた。そして知識、技術的な面ならば最低でも王子妃として及第点をもらえるところまで仕上がった。
けれど幼い頃培われた価値観は学んでもどこか残り続けていた。
むしろ学んでしまったからこそ齟齬を理解して相容れなさを感じてしまった。
もう少し生きていたならば、それでも殿下にも弱い部分や親しみやすい部分もあると理解出来ただろう。
そしてどこかで自分にも折り合いをつけただろう。
けれどこの分では殿下を恋を通り越し神格化してしまい、自分ごときでは隣に立つことが許されないと、どこかそんな風に思い詰めていたのかもしれない。
結婚するならば越えなければならない壁であり、そこまでとは想定していなかったので、まさか死を考えるほど思い詰めているとは思わなかった。
なまじ恋情があり、しかも婚約していた故に単純に距離を置くという選択肢が出なかったのだろう。そして完全に拒否されるという未来におびえていたのだろう。
今更そんなことを考えているという意味では結局義妹に対する理解が足りなかったに違いない。
わたしも、殿下も。
……けれど、それを言ってしまってもいいのだろうか?
確かにわたしも悲しいし、悔やんでいる。
けれどそれでも殿下よりは当事者ではないとも思ってしまっている。
それを告げてしまったとき、殿下は己を責めないだろうか?
義妹の見ていた殿下の幻想ならばきっとそれすら乗り越えていくだろう。
けれど実際は確かに優秀で立派だけれども、そう見えるようにしているだけの部分もある事を知っている。
本当の姿を義妹に見せていたならば現状が変わっていたかもしれないと考えればより追い詰められはしないだろうか?
義妹の、誰にも言えず、さりとて抱えて逝く事も出来なかった想いを。
今になって告げることに意義があるだろうか?
わたしの復讐心以外に。
かけられた言葉が最悪でなかったことにとりあえず安堵する。
家の浮沈の事ではない。それならばわたしがまだ関与できないところで進むだろうと思っていている。
けれど全く関係がないというわけでもない。
「しばらく考えていましたが、すぐに思い付く交流のある家の令息および使用人に義妹が不自然な態度をとっていた心当たりは我が家を含めてありません」
見ていないところだったり隠していただけなのかもしれないが、義妹の気持ちはずっと殿下に向いていたようにしか見えなかった。
「……お前はどうなんだ?」
やっぱり疑われているのかと心の中で苦笑する。
血が繋がっていないわりには、いやだからこそ我々の仲はよかった。家督を巡って対立する必要もないし、ある程度距離が離れていれば些細な事で争うこともない。
けれどそれが恋情に繋がるかどうかは別問題だろう。
「殿下はあの内容を見て、その条件にわたしが当てはまるとお思いですか?」
正しくて強くて高い――高潔だろうか。
「余所ではある程度取り繕いもいたしますが、さすがに家の中でまで四六時中気をはってはいられません」
それでも義妹は絶対気を抜けない相手ではなかった。それでなくとも家の中なら油断することもあるし、そこにたまたま義妹が通りかかることもある。
そもそももっと幼い頃からの付き合いなのだから、いろいろと過去も知られている。
なのでそんな理由でこんな形の好意を持たれることは今更なかっだろう。
付き合いの長さという意味なら殿下もそれなりに長い。
殿下が辛うじて貴族の端に引っ掛かっている家の少女を見染め、後ろ盾を欲し、ほぼ他人である遠い親戚の上位貴族の養女にしたのだから。
……思い付いたことを口にすべきだろうか?
義妹は殿下の在り方から突きつけられる理想に適わないという絶望感から死を選んだのではないかと。
好意をもつ相手に対し格好をつけたい。その気持ちはよく分かる。
そうでなくとも殿下などやっていると隙など見せられなかっただろう。
義妹は殿下に追いつきたいと必死に学んでいた。そして知識、技術的な面ならば最低でも王子妃として及第点をもらえるところまで仕上がった。
けれど幼い頃培われた価値観は学んでもどこか残り続けていた。
むしろ学んでしまったからこそ齟齬を理解して相容れなさを感じてしまった。
もう少し生きていたならば、それでも殿下にも弱い部分や親しみやすい部分もあると理解出来ただろう。
そしてどこかで自分にも折り合いをつけただろう。
けれどこの分では殿下を恋を通り越し神格化してしまい、自分ごときでは隣に立つことが許されないと、どこかそんな風に思い詰めていたのかもしれない。
結婚するならば越えなければならない壁であり、そこまでとは想定していなかったので、まさか死を考えるほど思い詰めているとは思わなかった。
なまじ恋情があり、しかも婚約していた故に単純に距離を置くという選択肢が出なかったのだろう。そして完全に拒否されるという未来におびえていたのだろう。
今更そんなことを考えているという意味では結局義妹に対する理解が足りなかったに違いない。
わたしも、殿下も。
……けれど、それを言ってしまってもいいのだろうか?
確かにわたしも悲しいし、悔やんでいる。
けれどそれでも殿下よりは当事者ではないとも思ってしまっている。
それを告げてしまったとき、殿下は己を責めないだろうか?
義妹の見ていた殿下の幻想ならばきっとそれすら乗り越えていくだろう。
けれど実際は確かに優秀で立派だけれども、そう見えるようにしているだけの部分もある事を知っている。
本当の姿を義妹に見せていたならば現状が変わっていたかもしれないと考えればより追い詰められはしないだろうか?
義妹の、誰にも言えず、さりとて抱えて逝く事も出来なかった想いを。
今になって告げることに意義があるだろうか?
わたしの復讐心以外に。
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