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ざまぁされるはずだったのに

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 耳障りというと不謹慎かもしれないけれど、そうとしか表現できない音を彼女は肉体からだから発しながら階段から転げ落ち、床に叩きつけられた。

 あたしが中世ヨーロッパもどきの貴族が通う学園を舞台に庶民の奨学生のヒロインが恋を繰り広げる乙女ゲームの悪役令嬢に転生しているということに気づいたのは、舞台となる学園に入学する直前だった。
 とりあえずその手のオンノベも嗜んでいたのでそれでもまずは自分に立つフラグを確認した。
 ……身分剥奪の上国外追放で済みそうだ。ならばむしろ望むところ、生活水準は令嬢の方がもちろん高いが、身分とかマナーとかそういうものに付き合える自信がない以上、どのみちいずれは令嬢ごっこは破綻する。
 婚約者である殿下は推しではあったものの、なんというかヒロインとペアでという感じで学園の壁になって近くで二人をみたいと思いはしても、殿下と結婚したいとは欠片も思わない。

 壁にはなれないけれど、シナリオの通りヒロインを虐めればそれでも少しはくっつく様子が見える。
 ならば方針は決まった。

 そうやって、今の今までゲームだと思って過ごしてきた。
 シナリオ通りのいじめがヒロインを必要以上に追い詰めていたなんて気づかなかったし、それを慰めるはずの殿下とはその身分差ゆえに交流を持っていないどころかまともに知り合ってすらいないだなんて考えもしなかった。

 いよいよいじめのクライマックスであるベタな階段からの突き落とし。
 ヒロインは奇跡的に軽傷で済み、悪役令嬢あたしはそれを複数人に目撃され婚約破棄の決め手になるはずだった。
 突き落とそうとする直前、階段ですれ違ったとき、ヒロインは大袈裟なくらい身を震わせた。
 その拍子によろめいて足を踏み外し、階段から落ちる。

 見ただけで、もう生きてはいないとわかる格好で、ヒロインは力なく身を投げ出している。
 もちろん殺すつもりは無かった。なのにもたらされた結果に意識が遠退きかける。
 ヒロインのあとを追いそうになった身体からだを支えてくれたのは殿下だった。近くにいることだけはシナリオ通りだったらしいけれど、駆け寄るのはヒロインにのはずなのに。
 あそこまで怯えていた瞬間を思い出す。
 そして魂が抜けたせいだけとは思えないヒロインの痩せた体を。
 ようやっと悟ってしまう。

 あたしがやったといったけれども、階段でヒロインに触れていないことは皆が見ている。
 それまでにやってしまったいじめはなまじシナリオ通りにやったために身分差を考えれば問題ないものと指導になるものばかりだった。シナリオでは婚約破棄される時、そういって一度は周りを丸め込めかけていた。けれどそこで階段から突き落としたことを突きつけられごまかしきれずざまぁされるはずだった。
 なのに皆ヒロインが引き起こした事故だという。殿下を含めた攻略対象も、彼女の両親ですらあたしを責めない。人によっては慰められたり励まされたりすらした。
 それが余計に罪悪感を募らせる。

 彼女の死は覆らない。
 あたしの罪も誰がとがめなくとも一生残り続けるのだろう。

 ただハッピーエンドが見たかった、それだけなのに。
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