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おとぎ話の方がいい
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『絶対に俺が幸せにします』
彼女がまた嫁いで行った。
今回の相手は結構な規模の領地を持つ領主の家の息子だった。
普通なら旅の娘などという素性の怪しいものが結婚相手になることはできないのだろうが、息子が強く望んだことと、再婚で、亡くなった以前の妻との間にすでに跡取りがいることもあって認められた。
どこか暗い街だったと思う。
領主の息子の結婚なんてそれでも慶事のはずなのに、あまり盛り上がっていなかった。
それに違和感を覚えたし、正直息子自体にもいい印象は持たなかったが、彼女の結婚相手に冷静な評価を下せている自信はないし、それをおいておいても長生きの結果養われたのは人を見る目ではなく猜疑心だったので、それに頼っていたら誰も信用できないままで終わってしまう。
ならば彼女の想いを尊重する方がいいのだろう。
基本彼女の住む場所にはいつも以上に長くはいつかない。幸せな姿を見せられても複雑なだけだからだ。
それでも彼女が亡くなった時迎えに行かなければならないので遠くには行かない。
最近は魔法の道具で死ぬと分かるようになったので、以前よりも遠くまで行くことも多くなったが。
ところが遠くに行くどころか、境界を超えたすぐの村で進むことを取りやめることになった。
あの息子には悪いうわさがあるという。
もちろん、うわさは必ずしも真実でないことを知っている。真実しかうわさにならないのなら僕は今頃もっと違う存在として人の口に上っていただろう。
だからこそ確認しなければならない。
あの息子は女性を痛めつけ、殺す癖があるという。
今までも妻や召使や商売女を手にかけ、そのためあの街での女性の行方不明者は異様に多いと。
そして今度は旅の娘がいけにえに選ばれたと。
慌てて引き返す。
今回は複雑でも幸せな姿を見なければ安心できない。
街に入ってすぐ、彼女の命と対になっている魔道具が固い音を立てて壊れた。急病ではこんな壊れ方はしない。
慌てて彼女がいるはずの家に向かう。
近づいた時、野太い悲鳴が響いた。
おそらく彼女の若返りが始まったのだろう。
急いで宙に浮き、入口を無視して声が聞こえた部屋の高い窓に向かう。
中には赤子と、べっとりとした血をつけた腰をぬかした男が見えた。
こうまで誓いを簡単に破れるとは理解出来ない。
一応の建前なのか、本気で隠せているつもりなのか、部屋の出入口には鍵がかかっているらしく、悲鳴を聞きつけた誰かが激しく扉を叩いていた。
何も気にせず窓から中に入りこむ。
「おま、おまえは――」
男が何か言っていたが、無視して彼女を抱き上げる。
「お帰り。今回は早かったね」
言葉が分かるかのように彼女が微笑う。次は幸せになって欲しいと思う。
「ば、化け物か!?」
「お前がな」
無造作に男を殺す。生き残って彼女が若返り甦ったことを吹聴されても困る。
化け物は僕だけでいい。
それから彼女を連れてその場を離れた。
彼女をつれての旅の途中、遠くの街で起こった化け物の噂を聞いた。
領主の息子が見初めた娘が化け物の寵愛を受けていて、その化け物が娘を取り返しに来て殺されたと。
それは確かに真実の一部ではあるが、真相を知られたというわけでは恐らくない。
ただ罪を隠そうとおとぎ話で包んだ結果だろう。
けれどそれでいい。
覚えてないだろうとはいえ、彼女の耳に届く可能性がある以上、真実よりもおとぎ話の方がいい。
今日も彼女は微笑っている。
彼女がまた嫁いで行った。
今回の相手は結構な規模の領地を持つ領主の家の息子だった。
普通なら旅の娘などという素性の怪しいものが結婚相手になることはできないのだろうが、息子が強く望んだことと、再婚で、亡くなった以前の妻との間にすでに跡取りがいることもあって認められた。
どこか暗い街だったと思う。
領主の息子の結婚なんてそれでも慶事のはずなのに、あまり盛り上がっていなかった。
それに違和感を覚えたし、正直息子自体にもいい印象は持たなかったが、彼女の結婚相手に冷静な評価を下せている自信はないし、それをおいておいても長生きの結果養われたのは人を見る目ではなく猜疑心だったので、それに頼っていたら誰も信用できないままで終わってしまう。
ならば彼女の想いを尊重する方がいいのだろう。
基本彼女の住む場所にはいつも以上に長くはいつかない。幸せな姿を見せられても複雑なだけだからだ。
それでも彼女が亡くなった時迎えに行かなければならないので遠くには行かない。
最近は魔法の道具で死ぬと分かるようになったので、以前よりも遠くまで行くことも多くなったが。
ところが遠くに行くどころか、境界を超えたすぐの村で進むことを取りやめることになった。
あの息子には悪いうわさがあるという。
もちろん、うわさは必ずしも真実でないことを知っている。真実しかうわさにならないのなら僕は今頃もっと違う存在として人の口に上っていただろう。
だからこそ確認しなければならない。
あの息子は女性を痛めつけ、殺す癖があるという。
今までも妻や召使や商売女を手にかけ、そのためあの街での女性の行方不明者は異様に多いと。
そして今度は旅の娘がいけにえに選ばれたと。
慌てて引き返す。
今回は複雑でも幸せな姿を見なければ安心できない。
街に入ってすぐ、彼女の命と対になっている魔道具が固い音を立てて壊れた。急病ではこんな壊れ方はしない。
慌てて彼女がいるはずの家に向かう。
近づいた時、野太い悲鳴が響いた。
おそらく彼女の若返りが始まったのだろう。
急いで宙に浮き、入口を無視して声が聞こえた部屋の高い窓に向かう。
中には赤子と、べっとりとした血をつけた腰をぬかした男が見えた。
こうまで誓いを簡単に破れるとは理解出来ない。
一応の建前なのか、本気で隠せているつもりなのか、部屋の出入口には鍵がかかっているらしく、悲鳴を聞きつけた誰かが激しく扉を叩いていた。
何も気にせず窓から中に入りこむ。
「おま、おまえは――」
男が何か言っていたが、無視して彼女を抱き上げる。
「お帰り。今回は早かったね」
言葉が分かるかのように彼女が微笑う。次は幸せになって欲しいと思う。
「ば、化け物か!?」
「お前がな」
無造作に男を殺す。生き残って彼女が若返り甦ったことを吹聴されても困る。
化け物は僕だけでいい。
それから彼女を連れてその場を離れた。
彼女をつれての旅の途中、遠くの街で起こった化け物の噂を聞いた。
領主の息子が見初めた娘が化け物の寵愛を受けていて、その化け物が娘を取り返しに来て殺されたと。
それは確かに真実の一部ではあるが、真相を知られたというわけでは恐らくない。
ただ罪を隠そうとおとぎ話で包んだ結果だろう。
けれどそれでいい。
覚えてないだろうとはいえ、彼女の耳に届く可能性がある以上、真実よりもおとぎ話の方がいい。
今日も彼女は微笑っている。
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