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夢か異世界に違いない
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娘の遺影と骨壺を見つめる。
こんなに小さく軽い姿は生まれた時にすらなかった。壊しそうで恐る恐る抱いた日のことを覚えている。
まだ高校生だった。
自殺する理由なんてないはずだった。
少し前に異世界転移物と言われる小説を読んでいたので、今の生活になにか悩みでもあるのかと聞いたら、これはそういうものじゃないって笑われたし。そこまで現実に辛いことはないよって。
僕という人間は、なにか情緒的な部分が欠けているらしく、物語というものを読み取って理解することが苦手だ。現代文はいつも平均点の足を引っ張るためだけにあった。そもそも作者の考えが当人以外になぜ理解出来るのかが分からない。それを読者としての推測するまではいいとしても作者の考えとして正解にしていいのだろうか?
こんな調子なので見合いで結婚した妻が、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまったときには、こんな男に子供が育てられるのかと途方にくれた。
だからそういうものじゃないの意味がよく分からず、娘が読んでいたシリーズと、一緒に読まれているらしい異世界転生ものとやらを読んでみたが、これは家出したいとかやり直したいとかそういう感情の表れではないのだろうか?
単純にいつものように僕が物語を物語として割り切れていないというだけならいいのだが、そういうものが解らない上に片親で男親で年齢が離れているために理解が足りていないのではないかという不安が常にあるせいもあり、もやもやするものが胸に残る。
なので迷惑だろうとは思ったものの僕より娘と年が近い娘と同性の部下に相談してみた。
幸い彼女はその手の話を知っており、例えるならリフレッシュ旅行に行っているようなもので、遊んでいる瞬間は楽しいけれど、親や友達や現在持っているものと離れてまでそこに住みたいと思っても本気で実行する人は少ないように、読んでいたり少し考えたりする間だけの一時の楽しみみたいなものだといわれ、なんとなく納得出来た。
お礼をいうとまたなにかあったら相談に乗りますねと言ってくれた。出来た部下を持った。
ところがその後娘の様子がおかしくなり始めた。
以前は僕より後に家に帰る事なんて特に明確な事情がなければなかったのに、そんな事が増えた。
会話が減り、以前なら早く帰れる日は待っててくれた夕食を先に食べるどころか外で済ましてくることもあった。
学校が嫌なのかと思ったが、少なくとも平日は毎朝制服を着てどこかへ出かけていく。一度こっそり後を付けたがちゃんと学校に向かっていた。
つまり家に問題があるのか?
けれど心当たりはない。
読んでいた本の内容を知ったのは偶然で行動の制約や監視していたわけではないし、後を付けるのは確かに褒められたことではないが様子がおかしくなってからやったことだ。
しょうがないので、結局もう一度部下に相談した。
彼氏でも出来たのかもしれませんねとどこか困ったような表情で言われたが、僕の表情はもっと困っていただろう。完璧に想定外だ。
ふしだらで行きすぎた交際をしているのなら当然止めなければならないだろうが、自分の恋愛経験がないだけに、どこからがふしだらかが分からない。
かといって真面目に付き合っているなら認めるのかと言われると正直言えばまだ早いと言いたい。
今時の子の付き合いは何が普通か分かりませんし、明らかに問題があると分かるまではそっとしておいた方がいいかもしれませんね、と部下が言う。
その後で、私も年齢かなぁ? と苦笑していた。
なので様子を見ていたら、娘はとうとう家に帰らなくなり……数日後、遺体で発見された。
昔よく一緒に行った、今は廃墟になっているデパートの屋上に入り込んで首をつっていたらしい。
数日間そこで過ごした形跡も残っていたそうだ。
過去にもそこに入り込んだ人はいたが、ここしばらくは娘以外が入った様子はなかったそうで、事件性はないと判断された。
何かもっと説明されたような気がするが、よく覚えていない。
現実に思考がついて行かなかった。
そんな状態だったが、手続きや葬儀はスムーズに進んだ。
ところどころ断片的に覚えている記憶によると、件の部下がずいぶんサポートしてくれていたようだ。
最近祖母を亡くしたばかりだから知っているとか、その祖母が花嫁姿をみたいと最後まで言っていたとか、そんな事を言っていたような記憶がある。
そういえば親戚に彼女は何なのかと聞かれたような気もする。
部下に頼り切りのふがいなさを指摘されたようで一瞬言葉に詰まった間に、彼女が何か言っていた気がするが、何を言っていたかは覚えていない。
そうして気がつけば娘はこんなに小さくなって戻って来ていた。
まるで悪夢のようだ。
娘が自殺する理由に心当たりなんてない。
当人だってそういうものじゃないと言っていた。
今の生活を捨ててどこかに行ってしまいたいと思ってはいなかったはず。
ましてや死んでしまうだなんて。
ならばこの結果の方がおかしいに違いない。
きっと僕の方が娘が自殺したという異世界に迷い込んでしまったのだ。
元の世界に帰れば、きっと娘はそこにいて、夕食の前で、遅いから先に食べようかと思ってたとでも言うのだろう。
ならば待たせないように早く帰らなければ。
部下に聞けば帰り方は分かるだろうか?
けれどそもそもあの部下は、僕の知っている彼女なのだろうか?
こんなに小さく軽い姿は生まれた時にすらなかった。壊しそうで恐る恐る抱いた日のことを覚えている。
まだ高校生だった。
自殺する理由なんてないはずだった。
少し前に異世界転移物と言われる小説を読んでいたので、今の生活になにか悩みでもあるのかと聞いたら、これはそういうものじゃないって笑われたし。そこまで現実に辛いことはないよって。
僕という人間は、なにか情緒的な部分が欠けているらしく、物語というものを読み取って理解することが苦手だ。現代文はいつも平均点の足を引っ張るためだけにあった。そもそも作者の考えが当人以外になぜ理解出来るのかが分からない。それを読者としての推測するまではいいとしても作者の考えとして正解にしていいのだろうか?
こんな調子なので見合いで結婚した妻が、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまったときには、こんな男に子供が育てられるのかと途方にくれた。
だからそういうものじゃないの意味がよく分からず、娘が読んでいたシリーズと、一緒に読まれているらしい異世界転生ものとやらを読んでみたが、これは家出したいとかやり直したいとかそういう感情の表れではないのだろうか?
単純にいつものように僕が物語を物語として割り切れていないというだけならいいのだが、そういうものが解らない上に片親で男親で年齢が離れているために理解が足りていないのではないかという不安が常にあるせいもあり、もやもやするものが胸に残る。
なので迷惑だろうとは思ったものの僕より娘と年が近い娘と同性の部下に相談してみた。
幸い彼女はその手の話を知っており、例えるならリフレッシュ旅行に行っているようなもので、遊んでいる瞬間は楽しいけれど、親や友達や現在持っているものと離れてまでそこに住みたいと思っても本気で実行する人は少ないように、読んでいたり少し考えたりする間だけの一時の楽しみみたいなものだといわれ、なんとなく納得出来た。
お礼をいうとまたなにかあったら相談に乗りますねと言ってくれた。出来た部下を持った。
ところがその後娘の様子がおかしくなり始めた。
以前は僕より後に家に帰る事なんて特に明確な事情がなければなかったのに、そんな事が増えた。
会話が減り、以前なら早く帰れる日は待っててくれた夕食を先に食べるどころか外で済ましてくることもあった。
学校が嫌なのかと思ったが、少なくとも平日は毎朝制服を着てどこかへ出かけていく。一度こっそり後を付けたがちゃんと学校に向かっていた。
つまり家に問題があるのか?
けれど心当たりはない。
読んでいた本の内容を知ったのは偶然で行動の制約や監視していたわけではないし、後を付けるのは確かに褒められたことではないが様子がおかしくなってからやったことだ。
しょうがないので、結局もう一度部下に相談した。
彼氏でも出来たのかもしれませんねとどこか困ったような表情で言われたが、僕の表情はもっと困っていただろう。完璧に想定外だ。
ふしだらで行きすぎた交際をしているのなら当然止めなければならないだろうが、自分の恋愛経験がないだけに、どこからがふしだらかが分からない。
かといって真面目に付き合っているなら認めるのかと言われると正直言えばまだ早いと言いたい。
今時の子の付き合いは何が普通か分かりませんし、明らかに問題があると分かるまではそっとしておいた方がいいかもしれませんね、と部下が言う。
その後で、私も年齢かなぁ? と苦笑していた。
なので様子を見ていたら、娘はとうとう家に帰らなくなり……数日後、遺体で発見された。
昔よく一緒に行った、今は廃墟になっているデパートの屋上に入り込んで首をつっていたらしい。
数日間そこで過ごした形跡も残っていたそうだ。
過去にもそこに入り込んだ人はいたが、ここしばらくは娘以外が入った様子はなかったそうで、事件性はないと判断された。
何かもっと説明されたような気がするが、よく覚えていない。
現実に思考がついて行かなかった。
そんな状態だったが、手続きや葬儀はスムーズに進んだ。
ところどころ断片的に覚えている記憶によると、件の部下がずいぶんサポートしてくれていたようだ。
最近祖母を亡くしたばかりだから知っているとか、その祖母が花嫁姿をみたいと最後まで言っていたとか、そんな事を言っていたような記憶がある。
そういえば親戚に彼女は何なのかと聞かれたような気もする。
部下に頼り切りのふがいなさを指摘されたようで一瞬言葉に詰まった間に、彼女が何か言っていた気がするが、何を言っていたかは覚えていない。
そうして気がつけば娘はこんなに小さくなって戻って来ていた。
まるで悪夢のようだ。
娘が自殺する理由に心当たりなんてない。
当人だってそういうものじゃないと言っていた。
今の生活を捨ててどこかに行ってしまいたいと思ってはいなかったはず。
ましてや死んでしまうだなんて。
ならばこの結果の方がおかしいに違いない。
きっと僕の方が娘が自殺したという異世界に迷い込んでしまったのだ。
元の世界に帰れば、きっと娘はそこにいて、夕食の前で、遅いから先に食べようかと思ってたとでも言うのだろう。
ならば待たせないように早く帰らなければ。
部下に聞けば帰り方は分かるだろうか?
けれどそもそもあの部下は、僕の知っている彼女なのだろうか?
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