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異聞
やっぱり悪役……? 後編
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帝妃殿下はそれでよろしいですけど、皇帝陛下はよろしいんですの?
「儂は帝位に興味はなかったのだが、研究していた一部の現物を手に入れるには、皇帝の甥程度の権限では駄目だったのでな」
……確かに継承者が多い分、権限を厳密に定めるのも分かりますけど、そんな動機で。
「いや、俺は何も言う資格はない」
旦那様に視線を向けるとそう返されました。…………そうですわね。
「従弟がそうしたいと聞きつけて、執務の表に出ない部分は最大限引き受けるとの条件で手を組んで婚姻し皇太子を目指して頂きました」
帝妃殿下が言う。……恋愛感情はないようですがある意味お似合いです。
「ずいぶんと一途な方が多いのですのね」
「うちの血筋は皇族なのに多いんだとさ、例外もなくはないけど」
……以前言ってらした再従姉様ですわね。
「なんか代々そんな感じらしい。系譜を見る限り側妃の人数自体に差はあってもほぼ再婚の親戚だし、継承権の範囲が広いのは恐らくその為もある」
確かに陛下が唯一愛した方が確実に継承できる子を産むとは限りませんし。……実力主義もその影響でしょうか?
「だから成人もしてないのに留学を許された」
姪姫様のことですわね。
「……つまり旦那様もそろそろ側妃を娶られると?」
「そろそろってなんだよ、そろそろって」
頭を抱えた旦那様を陛下がどこか気の毒そうに見ている。
けれど未亡人への救済でやってらっしゃるのならあまり余裕もないですわよね? ……男児とは限らないとはいえ私に子供が出来るなら、こちらに配慮してとも言いづらくなるでしょうし。
……嫉妬もしますけど、覚悟はそれでもしていたつもりですし、親戚に対する情だというならむしろ安心すべきなんですわよね?
「親父が研究した薬と、俺が整備した市井の公衆衛生のために死亡率が下がっているから今のところ結婚適齢期の皇族に未亡人はいない」
「この間の方は?」
さっき思い出した再従姉様ですけど。
「さっさと他に行った」
……ある意味潔いですわね。
「それに帝妃殿下が考えた政策で無理に再婚しなくてもなんとかなる制度が整いつつある」
選択肢が増えるのはよいことですわよね、たぶん。
「だいたい……」
そこまで言って旦那様が突然口を閉じた。
「……言っておいた方がいいと思うぞ。それがお前の選択の結果だ」
陛下が旦那様を促す。旦那様が何かを諦めたように首を振る。
「…………妃に政治的な意味や理由を見いださない人からすれば、妻が複数なんてただの女好きだ。過去に他国の王族の婚約者を奪った事のある女好きの権力者を周りはどう見ると思う?」
……個人的に寵愛を望む方もいらっしゃるでしょうけれど、それ以外の女性や恋人や家族からは警戒対象にされますわね。この国ではそうでもないようですけど。
「私のせいですのね」
その類の話がことあるごとに出ますもの。
せめて私にもっと政治的な意味があれば違ったのでしょうけれど。少なくともむやみやたらに警戒されることは無くなったはず。
「だから途中からどう思われるかは理解していた。それでも実行したのは俺だ」
「ですが……」
「なので俺はよほどの理由が無い限りおまえ以外は娶らない。というかどんな理由であれ欲しくない」
「旦那様……」
それを嬉しく思わなかったとは嘘でも言えません。
制度がどれだけ整おうとも人の反応はそう簡単には変えられません。内心はもっとでしょう。
旦那様の側妃になればしなくていい苦労をする方がきっと出てくるはず。
なのに欲しくないと言ったことを嬉しく思いました。
皇太子妃で、将来的な帝妃としてはあまりにも自分の事だけを考えすぎた感情でしょう。
分かっていても、思ってしまうのです。
ですからやっぱり私は悪役なのかもしれません。
それでもどうかお側にいさせて下さいませ。
「……なぁ、儂らの存在忘れられてないか」
「まだ新婚だしそんなものですよ」
「儂は体験してない」
「それは陛下がきちんと捕まえられなかったせいですわ」
「儂は帝位に興味はなかったのだが、研究していた一部の現物を手に入れるには、皇帝の甥程度の権限では駄目だったのでな」
……確かに継承者が多い分、権限を厳密に定めるのも分かりますけど、そんな動機で。
「いや、俺は何も言う資格はない」
旦那様に視線を向けるとそう返されました。…………そうですわね。
「従弟がそうしたいと聞きつけて、執務の表に出ない部分は最大限引き受けるとの条件で手を組んで婚姻し皇太子を目指して頂きました」
帝妃殿下が言う。……恋愛感情はないようですがある意味お似合いです。
「ずいぶんと一途な方が多いのですのね」
「うちの血筋は皇族なのに多いんだとさ、例外もなくはないけど」
……以前言ってらした再従姉様ですわね。
「なんか代々そんな感じらしい。系譜を見る限り側妃の人数自体に差はあってもほぼ再婚の親戚だし、継承権の範囲が広いのは恐らくその為もある」
確かに陛下が唯一愛した方が確実に継承できる子を産むとは限りませんし。……実力主義もその影響でしょうか?
「だから成人もしてないのに留学を許された」
姪姫様のことですわね。
「……つまり旦那様もそろそろ側妃を娶られると?」
「そろそろってなんだよ、そろそろって」
頭を抱えた旦那様を陛下がどこか気の毒そうに見ている。
けれど未亡人への救済でやってらっしゃるのならあまり余裕もないですわよね? ……男児とは限らないとはいえ私に子供が出来るなら、こちらに配慮してとも言いづらくなるでしょうし。
……嫉妬もしますけど、覚悟はそれでもしていたつもりですし、親戚に対する情だというならむしろ安心すべきなんですわよね?
「親父が研究した薬と、俺が整備した市井の公衆衛生のために死亡率が下がっているから今のところ結婚適齢期の皇族に未亡人はいない」
「この間の方は?」
さっき思い出した再従姉様ですけど。
「さっさと他に行った」
……ある意味潔いですわね。
「それに帝妃殿下が考えた政策で無理に再婚しなくてもなんとかなる制度が整いつつある」
選択肢が増えるのはよいことですわよね、たぶん。
「だいたい……」
そこまで言って旦那様が突然口を閉じた。
「……言っておいた方がいいと思うぞ。それがお前の選択の結果だ」
陛下が旦那様を促す。旦那様が何かを諦めたように首を振る。
「…………妃に政治的な意味や理由を見いださない人からすれば、妻が複数なんてただの女好きだ。過去に他国の王族の婚約者を奪った事のある女好きの権力者を周りはどう見ると思う?」
……個人的に寵愛を望む方もいらっしゃるでしょうけれど、それ以外の女性や恋人や家族からは警戒対象にされますわね。この国ではそうでもないようですけど。
「私のせいですのね」
その類の話がことあるごとに出ますもの。
せめて私にもっと政治的な意味があれば違ったのでしょうけれど。少なくともむやみやたらに警戒されることは無くなったはず。
「だから途中からどう思われるかは理解していた。それでも実行したのは俺だ」
「ですが……」
「なので俺はよほどの理由が無い限りおまえ以外は娶らない。というかどんな理由であれ欲しくない」
「旦那様……」
それを嬉しく思わなかったとは嘘でも言えません。
制度がどれだけ整おうとも人の反応はそう簡単には変えられません。内心はもっとでしょう。
旦那様の側妃になればしなくていい苦労をする方がきっと出てくるはず。
なのに欲しくないと言ったことを嬉しく思いました。
皇太子妃で、将来的な帝妃としてはあまりにも自分の事だけを考えすぎた感情でしょう。
分かっていても、思ってしまうのです。
ですからやっぱり私は悪役なのかもしれません。
それでもどうかお側にいさせて下さいませ。
「……なぁ、儂らの存在忘れられてないか」
「まだ新婚だしそんなものですよ」
「儂は体験してない」
「それは陛下がきちんと捕まえられなかったせいですわ」
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