結局悪役令嬢?

こうやさい

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異聞

幻の約束 前編

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過去に離れた後の話です。
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 私は従僕という仕事を誤解していました。
 いえ、仕事内容自体は一般常識程度には理解しているつもりですわ、うちにもいますし。
 ただ、主が馘首にしない限り滅多な事でいなくなることはないと。特にうちはあまり入れ替わりませんし。

 庭に出たとき時々見かけていたあの人を見てないなと思い始めたのはあれから数十日も経ってからでした。
 仮にも好きな人を見ないことに対して疑問を持つには遅いと思われるかもしれませんが、元々あの人はうちの従僕ではありませんし、私も四六時中庭に出ている訳ではありません。もし我が家に来ていても、私に直接関わる何がなければ気づかなくとも何の不思議もないのです。
 むしろ数十日で気づいたのは早いのではないかというほど、本来会う機会のない人です。あの日まで、お客おじ様の馬車のそばにいることがあったからお供で来た従僕なのでしょうねあまり仕事はしていないようですけど、程度の認識でしたもの。もったいないことをしたと思うべきか、気づいていただけよかったと思うべきか悩むところです。
 けれど、件の小父様が来たときにすらいないのです。
 聞くべきか悩みました。人によっては使用人のことを尋ねられることは彼らが何かを失敗したという意味になり、叱責することがあると聞きましたから。小父様自体は子供好きのよい方なのですが、使用人にまでそうかは分かりません。もしそうならばあまり仕事をしていないようなので既にやめさせられているのかもしれません。
 悩んだ末、帰りがけの小父様を捕まえて、好奇心を装って、最近小父さまの従僕の顔ぶれが変わった気がするですけれど勘違いかしら? と尋ねてみました。これならば誰か一人を指すことはありませんし、最近といいつつも私が滅多に従僕を目にする事のないことを考えるとそれなりに遡って教えてくれるのではないかと。
 一人いなくなったと聞けたのはいいことなのでしょうか悪いことなのでしょうか? 調べる人数は一人ですみますが、確実に一人はやめているということですもの。
 何気なさを装ってどなただったかしら? と尋ねると、会ったことはないのではと返されました。
 動悸が酷くなったのが分かります。あの人は会う可能性の少ない人なのですから。
 なんと聞き出そうかと考えあぐねていると、話したかったらしい小父様が勝手に話してくださいました。
 曰く、国外の偉い方の息子で留学がてら社会勉強をしに来ていたのだとか。
 事情により従僕の格好をさせていたが、正式にそうではないとか。
 今まではあまりやる気がなかったが、やりたいことが出来たと言い残して帰ったので今後に期待しているとか。
 それが小父様の利になるのか、あるいは単純に評価しているのか、どこか自慢げにおっしゃいます。
 それだけでは確信にはなりません。
 けれどあの人の事ではないかと思うと胸が潰れそうです。
 あの人は外国に行ってしまったのでしょうか?
 侍女に顔色が悪いと部屋に帰され、それ以上は聞けませんでした。
 けれどどのみち何も聞けなかったでしょう。
 混乱のあまり失言をせずに済んでよかったと思うべきなのでしょう。

 結局確証は持てないまま時間だけが静かに積もっていきました。
 本当にいなくなってしまっていても、ただたまたま機会がなかっただけだとしても、会えないという意味では同じです。
 以前に増してあの日のやり取りを何度も何度も思い出します。
 記憶違いもあるかもしれませんが、訂正してくれる人はいません。
 髪を今より少しでも伸ばしたいとお母さまに言いました。ほんの少しでもあの人の触れた部分を長く残しておきたいのです。
 言い換えればそれしかあの人の触れたものはありません。
 いなくなるならせめて教えて欲しかったと思っても、そうしてもらうだけの関係もないのです。
 あやふやな自覚を告げることもなかったし、告げたところでどうにもならなかったでしょう。
 私は結局第二王子きらいなひとの婚約者のままなのですから。

 最近、作り笑顔が上手くなりました。
 第二王子の隣でも綺麗に笑えるようになりました。
 やっと婚約者という立場にも慣れてきたようです、という言葉は嘘だと自分が一番知っています。
 婚約を解消してもあの人と何かが起こるわけではないと分かっていても、好きでもない人との将来を約束されているのは辛いです。
 嗤う以外何が出来るというのでしょう。
 それとも大人になれば、もっと貴族らしくなれば、平気になるでしょうか?
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