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異聞
幻の約束 後編
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隣国でとあるの皇子の噂が出始めたのは、それでもこのまま穏やかに過ごせればもしかしたらあの人を忘れることも出来るかもしれないと思い始めた頃でした。
帝国は実力主義で知られています。
帝位継承の候補者は皇帝陛下の息子はもちろん甥や、皇帝陛下が皇太子になったときに一定の年齢以下だった弟なども含まれ、優秀ならば多少血が薄くても構わないという感じで幾人もいて、皇太子になりたい者は法や良識の範囲内で己の才覚を皇帝や国民に知らしめ、選ばれる必要があります。決まった後はよほど特殊な事情がないと覆らないと。
そんな事情のせいか一定年齢以下の皇族を帝国が理由もなしに諸外国に紹介することはありません。知れるのは外交に関係する方――要するに他国との政略結婚を指すことがほとんどです――と、将来皇太子になりたくて自分で宣伝する方、それを望む支援者がいる方あたりでしょうか?
それ以外で名を知られはじめるというのは悪名か、よほど優秀かのほぼどちらかです。その方は後者でした。
過去が分からない分伸びしろも実力の予想も付かないでしょう。
望んでいなくても将来は王族となる可能性の高い身、気には留めておくべき相手でしょう。
それでもそれだけのはずでした。
けれど、可能性の高い身であるからこそ知る機会が出来てしまったのです。
忘れてしまう前に。
会えば思い出して情緒不安定になるため、悪いと思いながらも最近避けていた小父様が、今日はうちに来ていました。
私を呼んでいるそうです。
ため息を一つついた後気を取り直し、作り慣れた笑顔で父と話している小父様のところに向かいました。
そこで何故か例の皇子を知っているかと尋ねられ、訳が分からないまま肯定しました。
小父様は以前私が従僕のことを聞いたことなど忘れていたのか、結局知り合いではなかったと判断したのか、以前うちにいた……から説明を始めました。
国外というのは帝国でした。
偉い方というのは皇帝陛下でした。
やりたいことというのは皇太子になることでした。
御落胤で、存在自体は認められていましたが、当人と母親の希望で今までは皇籍に入っていなかったとか。
ご丁寧に最近描かれたらしい肖像画まで用意して孫を自慢するお祖父ちゃんのようにそんなことを話します。評判がいいのがよほど嬉しいのでしょう。
必死で考えることは後にして話に耳を傾けます。
だから将来関わる事になるだろうと締めくくられ、お礼を言ったときの笑顔が作ったものか本物なのか自分でも分かりませんでした。
分かったのは、私は一生あの人を忘れることが出来ないかもしれないということだけ。
小父様が言ったように、そしてあの人が望んだとおりきっとあの人は皇太子に、いずれは皇帝になるでしょう。挫折することなんて恋で煮えた頭が想定するはずがありません。
それでは確かに王族ならば今後あの人に関わる事になるでしょう。
名前を聞くだけかもしれなくても、もしかしたら会うこともあるようでも。
そんな環境では忘れられる自信どころか、忘れる気になる自信すらありません。
あの人が元気でいてくれたことがこんなにも嬉しいのですから。
今でも婚約は破棄したいと思っています。
それでも結局私は第二王子と結婚する事になりそうです。
最大の絶望で唯一の喜びはあの人と関わる可能性があるかもしれないということでしょうか?
あの人はどんどん遠い存在になっていきます。
それでもどうしようもないんです。
あれからも、話した言葉は何度も思い返していました。
思い返しすぎて別の何かに変質しているかもしれません。
それでもその言葉を抱えて行くでしょう。
何かにつけて思い返すでしょう。
なのに、話していなかった言葉の意味に気づいたのは――。
帝国は実力主義で知られています。
帝位継承の候補者は皇帝陛下の息子はもちろん甥や、皇帝陛下が皇太子になったときに一定の年齢以下だった弟なども含まれ、優秀ならば多少血が薄くても構わないという感じで幾人もいて、皇太子になりたい者は法や良識の範囲内で己の才覚を皇帝や国民に知らしめ、選ばれる必要があります。決まった後はよほど特殊な事情がないと覆らないと。
そんな事情のせいか一定年齢以下の皇族を帝国が理由もなしに諸外国に紹介することはありません。知れるのは外交に関係する方――要するに他国との政略結婚を指すことがほとんどです――と、将来皇太子になりたくて自分で宣伝する方、それを望む支援者がいる方あたりでしょうか?
それ以外で名を知られはじめるというのは悪名か、よほど優秀かのほぼどちらかです。その方は後者でした。
過去が分からない分伸びしろも実力の予想も付かないでしょう。
望んでいなくても将来は王族となる可能性の高い身、気には留めておくべき相手でしょう。
それでもそれだけのはずでした。
けれど、可能性の高い身であるからこそ知る機会が出来てしまったのです。
忘れてしまう前に。
会えば思い出して情緒不安定になるため、悪いと思いながらも最近避けていた小父様が、今日はうちに来ていました。
私を呼んでいるそうです。
ため息を一つついた後気を取り直し、作り慣れた笑顔で父と話している小父様のところに向かいました。
そこで何故か例の皇子を知っているかと尋ねられ、訳が分からないまま肯定しました。
小父様は以前私が従僕のことを聞いたことなど忘れていたのか、結局知り合いではなかったと判断したのか、以前うちにいた……から説明を始めました。
国外というのは帝国でした。
偉い方というのは皇帝陛下でした。
やりたいことというのは皇太子になることでした。
御落胤で、存在自体は認められていましたが、当人と母親の希望で今までは皇籍に入っていなかったとか。
ご丁寧に最近描かれたらしい肖像画まで用意して孫を自慢するお祖父ちゃんのようにそんなことを話します。評判がいいのがよほど嬉しいのでしょう。
必死で考えることは後にして話に耳を傾けます。
だから将来関わる事になるだろうと締めくくられ、お礼を言ったときの笑顔が作ったものか本物なのか自分でも分かりませんでした。
分かったのは、私は一生あの人を忘れることが出来ないかもしれないということだけ。
小父様が言ったように、そしてあの人が望んだとおりきっとあの人は皇太子に、いずれは皇帝になるでしょう。挫折することなんて恋で煮えた頭が想定するはずがありません。
それでは確かに王族ならば今後あの人に関わる事になるでしょう。
名前を聞くだけかもしれなくても、もしかしたら会うこともあるようでも。
そんな環境では忘れられる自信どころか、忘れる気になる自信すらありません。
あの人が元気でいてくれたことがこんなにも嬉しいのですから。
今でも婚約は破棄したいと思っています。
それでも結局私は第二王子と結婚する事になりそうです。
最大の絶望で唯一の喜びはあの人と関わる可能性があるかもしれないということでしょうか?
あの人はどんどん遠い存在になっていきます。
それでもどうしようもないんです。
あれからも、話した言葉は何度も思い返していました。
思い返しすぎて別の何かに変質しているかもしれません。
それでもその言葉を抱えて行くでしょう。
何かにつけて思い返すでしょう。
なのに、話していなかった言葉の意味に気づいたのは――。
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