領主に伽を強要された妹は、帰ってきた時意思をなくしていた。

こうやさい

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 「立って」といえば弱々しいながらも立ち上がるし、「座って」といえばゆっくりだが座る。
 けれど立たせた後、座るようにいわなければ倒れるまで立ち続ける。体力がないためその時間はあまりにも短いが。
 もっと酷いのは食事で、「食べて」では食べない。「口の中に入れて」では噛まないし飲み込まない。横でつきっきりで噛ませて飲み込ませても、限界を見誤ると吐き戻す。生理現象のせいかそれは何も言われなくても出来た。
 小さくなった胃の限界を見極めるのは難しいし、吐けばその分体力を消耗する。すぐにもう一度食べさせられる訳でも、ずっと横についている訳にもいかない。
 そして少なすぎても空腹という意味でも栄養という意味でも足りず、身体にいいはずがない。
 結果精一杯栄養価の高いやわらかく消化のよいものを心持ち少なめに食べさせているが、運動が一人で出来ない事もあり弱る速度の方が早い。けれど量を迂闊に増やしていいかも分からない。
 そしてうちはそこまで裕福でもない。心情的にはどうでもいつまで予算のかかる栄養がある食事を用意できるか分からないし、ついているために仕事を放棄して収入を途絶えさせるわけにもいかない。

 だんだんと家で死ねるだけ幸せだとか、そんな事を言われるようになり始めた。


 その日も加減を間違えたのか妹は吐いた。
 いや、体調が普段より悪かったのかもしれない。いつもなら吐くかどうか見守り、大丈夫そうなのを確認するまで離れない母が既にいなかったのだから。
 元々柔らかいものが時間の経った分消化されていたためか、妹は服の膝の辺りをかなり汚してしまっていた。椅子に座った状態で手で口を押さえたりもしないのでスカートがほぼ受け止めてしまったということだろう。喉に詰まらなかっただけよかったと思うべきだろうか。
 真冬ではないとはいえ、放置して今風邪を引くとそれこそ死因になりかねないので、着替えさせた方がいいんだろうが……妹にそれが出来るのだろうか?
 何がどこまで出来るのか調子の良さそうな時を見計らって確認はしていたのだが、着替えが出来るかどうかには身内とはいえ異性は立ち入らせてもらえなかった、したくもなかったし。
 けれど結果を聞くぐらいはしておけばよかったと思う。出来るなら服を持ってきて着替えるようにいって外で待っていればそれですんだかもしれないのだから。
 母は用があるとかでひさしぷりに出かけたし、せっかくだから少しゆっくりしてきたらと勧めてしまった。妹が帰ってきて以来、よほどの事がなければ外出しなかった母なので、用を終わらせただけで帰ってきたとしても恐らく遅くなるだろう。
 ため息をついて、とりあえずまだその辺に置いてあった食事をさせるときに前掛け代わりに使っていた布を水差しの水で濡らし妹の口元を拭ってから替えの服を取ってくる。そして着替えるように言う。
 妹は動かなかった。もう一度ため息をつくしかない。
 ……脱ぐのは恐らく出来るだろう。あのクソ親父の元領主が優しく服を脱がせたとは思えないし、がめついので毎回服を破ったりもしないだろう。
 裸で発見されたとは聞いていないので服を着る事も出来るだろう。
 ただ着替えるとまとめると出来ないだけで。
 妹が今少ない説明で出来るのは恐らくクソ親父に閨でやらされていたことだ。正確に何をやらせされていたかは考えない方が多分いい。
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