領主に伽を強要された妹は、帰ってきた時意思をなくしていた。

こうやさい

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 服を脱ぐよういうと案の定妹は動き始めた。立ち上がり指をヒモにかける。
 慌てて後ろを向いてしばらくして、衣擦れの音が止まる。
 ……このまま着るように言っても大丈夫だろうか?
 クソ親父が着替えを用意していたとは思えないので、元の服をそのまま着てしまうかもしれない。
 ならば汚れた服は回収しておいたほうがいいだろう。
 心の中で謝りながら振り返り――息を飲む。
 妹の身体に興奮した……という訳ではない。
 やつれた顔と折れそうな手足で分かっていたつもりだったが、ここまでとはそれでも思っていなかった。

 衝撃で目が離せない。

 そしてじっくり見てしまえば身体の方も吐瀉物で汚れていることに気づいてしまった。
 とりあえず脱いだ服を回収し、汚れていない部分をまだ水差しに残っていた水で濡らす。
 裸の妹に近づくのはそれでも抵抗があったが、やっぱり拭いた方がいいだろうし、膝より下ならば触ることの抵抗も少ない。……妹の方もそうだと思って欲しい。
 そうしてしゃがみこみ、上を見ないように気をつけながらよごれを拭き終わり、一歩後ろに下がり立ち上がろうとするのと、妹が均衡を崩したのはほぼ同時だった。
 目の前に浮き上がった鎖骨とそれでも残っている胸があることで妹が倒れかかって、偶然だが反射だか知らないが俺の肩に手をついたのだと分かった。
 頭を打つようなことにならなかったのは幸いだが、それでも大丈夫だろうか?
 慌てすぎて妹の身体を支えようとした手が軽く胸に当たる。
 不意打ちでくすぐったかったのか、出てきた妹の吐息が妙になまめかしく感じ後ろめたい気分になる。
 なんとか心を落ち着けて手の位置を変え妹の身体を支える。軽い。
 立ち上がり妹を抱き上げて椅子に座らせる。
 倒れた拍子に折っていないだろうかと手足を見る。膝が少し赤くはなっているが大事にはなっていないようだ。
 服は着られるだろうか?
 早急に着てほしいところだが、また途中で倒れられたら困る。
 しばらく考え、素肌の上に毛布をかける。
 母が帰ってくれば支えながら服を着させてくれるだろう。
 おそらく説教されるだろうなと思いながら、汚れた服や布と空になった水差しを回収し、部屋を出た。

 予想以上に早く帰ってきた母は複雑そうだが怒りはしなかった。
 もっと昔、女性が裸でも何も気にしなかったような頃、妹が着替えているところにかち合ったらうっかりはお互い様なのに理不尽にも俺が怒られる方が多かった。
 なのに今回そうされなかったことで、母も妹の回復をある意味で諦めていることを知った。
 自分たちが先に世話をできなくなる可能性を考えていたのだろう。
 それでも母は改めて妹の汚れを拭き、服を着せ、それから夕食の支度に取りかかる。
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