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妹は一日まともに食べなかったものの、翌日の朝にはまた普通に自分で食事をとった。
その日は朝食しか食べなかったが、翌日は量が増えた。
こうやって時には停滞や悪化しつつもそれでも戻っていくのだろう、と母は喜んでいた。
けれど実際は悪化しかしていない。
あの夜、両親が眠った後、妹の部屋に残り物を持って向かった。
それでも食べ物であることを示すために目の前で食べて見せてから勧めたり、口を開けさせて中に入れたり、もう一度言葉で指示をしてみたりはしたが、結局飲み込むことはなかった。
次に服の上から抱き締めてみた。距離は近いがそれではダメだった。
頬や額に口付けてみたけれど、それも無駄だった。――唇には触れていない。
髪や肩や顔の輪郭を撫でてみたけれど、それで伽とクソ親父が認めたというなら、そっちの方がビックリだ。
服の上から胸に触れても駄目、襟から手を突っ込んで直接背中を触ってみても駄目。
そして裸にしてみても、そのまま肩や背中を触っても駄目だった。
ならばあきらめるしかない。
正面からはさすがに無理だったので、椅子に座らせ後ろから胸を手のひらで半ば包み込むように触れ指を動かす。
息が乱れ始めてから、離れて改めて食べ物を差し出すと、やっと妹は少しだがそれを口にした。
もっと進めれば、もっと食べるようにになるだろう。
その日はもうしばらく妹に触れた後、眠らせた。
その仮説が当たり、その翌日妹は朝食を食べた。
更に進めたその翌日は量が増えた。
それからしばらくは進めても停滞した。
これ以上進めていいのかと悩んだが、朝食は少量だというものもいる。
だとすれば朝食の対価としては足りたが、夕食を食べるほどの対価にはなっていないということかもしれない。
そう考えてできる限り優しく続けていくと夕食も少しずつ食べはじめ、やがて俺たちと同じ食事を以前食べていたくらいの量まで食べられるようになった。
これで少なくとも妹が飢え死にする心配はなくなったと両親は喜んでいるが、俺は正直言って気が重い。
いまや夜はほぼ毎日妹の部屋に忍び込んでいる。
妹の意思のない一方的な、なのに既に最後まではやっていないだけという有様で、妹の身体で触れていない場所の方が少ない。
――そしてもう、食事を食べさせる手段だと言い張ることも出来ない。
欲望ならばまだいい。
いや妹相手ということを置いておいても一方的なのでよくはないが。
それでも理解出来なくはない。
けれども触れる体温と委ねられた肌に、あるいは行為に釣られるように。
家族に対するものとは違う情が湧いてくる。
まだ俺は兄でいるのだろうか?
出来れば元のように元気になることを望んでいた。そのはずだ。
それが歪み始めたのはどこからだろう?
後でどれだけ苦しむか考えもせず、安易に生きていて欲しいと願った時点からだろうか?
今後もし妹が正気に戻ったとしても。
兄に穢されたと知ったなら、今よりよほど激しく壊れるだろう。
その直前に俺の事を誰より嫌悪するだろう。
それでも戻って欲しいと、今も思っているのだろうか?
自分が本当に望んでいたことは何なのか。
それがもう分からなかった。
妹は、今日もぼんやりとした視線をこちらに向けていた。
その日は朝食しか食べなかったが、翌日は量が増えた。
こうやって時には停滞や悪化しつつもそれでも戻っていくのだろう、と母は喜んでいた。
けれど実際は悪化しかしていない。
あの夜、両親が眠った後、妹の部屋に残り物を持って向かった。
それでも食べ物であることを示すために目の前で食べて見せてから勧めたり、口を開けさせて中に入れたり、もう一度言葉で指示をしてみたりはしたが、結局飲み込むことはなかった。
次に服の上から抱き締めてみた。距離は近いがそれではダメだった。
頬や額に口付けてみたけれど、それも無駄だった。――唇には触れていない。
髪や肩や顔の輪郭を撫でてみたけれど、それで伽とクソ親父が認めたというなら、そっちの方がビックリだ。
服の上から胸に触れても駄目、襟から手を突っ込んで直接背中を触ってみても駄目。
そして裸にしてみても、そのまま肩や背中を触っても駄目だった。
ならばあきらめるしかない。
正面からはさすがに無理だったので、椅子に座らせ後ろから胸を手のひらで半ば包み込むように触れ指を動かす。
息が乱れ始めてから、離れて改めて食べ物を差し出すと、やっと妹は少しだがそれを口にした。
もっと進めれば、もっと食べるようにになるだろう。
その日はもうしばらく妹に触れた後、眠らせた。
その仮説が当たり、その翌日妹は朝食を食べた。
更に進めたその翌日は量が増えた。
それからしばらくは進めても停滞した。
これ以上進めていいのかと悩んだが、朝食は少量だというものもいる。
だとすれば朝食の対価としては足りたが、夕食を食べるほどの対価にはなっていないということかもしれない。
そう考えてできる限り優しく続けていくと夕食も少しずつ食べはじめ、やがて俺たちと同じ食事を以前食べていたくらいの量まで食べられるようになった。
これで少なくとも妹が飢え死にする心配はなくなったと両親は喜んでいるが、俺は正直言って気が重い。
いまや夜はほぼ毎日妹の部屋に忍び込んでいる。
妹の意思のない一方的な、なのに既に最後まではやっていないだけという有様で、妹の身体で触れていない場所の方が少ない。
――そしてもう、食事を食べさせる手段だと言い張ることも出来ない。
欲望ならばまだいい。
いや妹相手ということを置いておいても一方的なのでよくはないが。
それでも理解出来なくはない。
けれども触れる体温と委ねられた肌に、あるいは行為に釣られるように。
家族に対するものとは違う情が湧いてくる。
まだ俺は兄でいるのだろうか?
出来れば元のように元気になることを望んでいた。そのはずだ。
それが歪み始めたのはどこからだろう?
後でどれだけ苦しむか考えもせず、安易に生きていて欲しいと願った時点からだろうか?
今後もし妹が正気に戻ったとしても。
兄に穢されたと知ったなら、今よりよほど激しく壊れるだろう。
その直前に俺の事を誰より嫌悪するだろう。
それでも戻って欲しいと、今も思っているのだろうか?
自分が本当に望んでいたことは何なのか。
それがもう分からなかった。
妹は、今日もぼんやりとした視線をこちらに向けていた。
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