とある日

だるまさんは転ばない

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またね。

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風が少し冷たくなり始めた秋の日、夕焼けが校舎の窓を赤く染める。中学3年生の僕、春樹は、教室の窓際でぼんやりと外を眺めていた。受験勉強や進路の話が当たり前になったこの頃、いつもの放課後も少しずつ特別に感じ始めている。

「春樹、そろそろ帰ろうか?」
隣に座る健太が僕の肩を叩いた。彼とは幼馴染で、小さい頃から一緒に遊び、時には喧嘩もしてきた仲だ。だけど、最近は少しずつ距離ができているように感じる。理由はわかっている。進学先が違うからだ。健太は県外の高校に進むことが決まっていて、僕は地元の高校を目指している。今までずっと一緒だったのに、これからは別々の道を歩む。

「もう少しここにいてもいい?」
僕はなんとなく健太を引き止めたかった。別れの瞬間が近づくことが怖くて、時間を少しでも延ばしたい気持ちがあったのかもしれない。

「おう、いいよ。今日はなんか特別な日か?」
健太は不思議そうな顔をして椅子に座り直した。彼の無邪気な笑顔を見て、言葉が詰まる。

「いや、なんでもない。ただ…なんとなくさ」
僕はうつむきながら、心の中に渦巻く感情を隠すように答えた。

数分の沈黙が流れ、健太がゆっくりと話し始めた。
「春樹、これからも友達でいような。俺たち、どんなに遠く離れてもさ」

僕は驚いて顔を上げた。健太は何も気にしていないように見えて、ちゃんと考えていたんだと知った瞬間、胸が締め付けられた。

「当たり前だろ。でもさ、離れたら…連絡とか、減っちゃうかもしれないし、なんか、怖いよな」

僕の弱音に健太は笑った。「心配するな。離れても、俺たちは俺たちだ。大丈夫、また会えるよ。『またね』って言えば、それで終わりじゃないからさ。」

その言葉を聞いて、僕の心は少し軽くなった。何度も別れを言わなければならない状況がこれから待っている。でも、健太が言うように「またね」と言うことで、繋がっている気がする。別れは終わりではなく、新しい始まりのように感じられた。

「そうだな、また会えるよな」

僕たちはそのまま沈黙した。言葉はいらなかった。互いの存在が安心感を与えてくれていたからだ。

教室を出た僕たちは、いつも通りの道を歩き始めた。空はすっかり夜の色に染まり、街灯が僕たちの影を長く伸ばしている。健太は手をポケットに突っ込みながら、ふと立ち止まった。

「ここでさ、最後に何か言っておくか?」
健太が照れくさそうに言った。

「何かって、そんな大げさに言わなくても…」
僕も同じように照れくさくなって、健太の提案に戸惑った。

「まぁ、いいんだけどさ。…じゃあ、これだけ言わせて。お前がどこに行っても、俺はお前の友達でい続ける。約束な?」

健太は真剣な表情で僕の目を見つめた。その瞳に、僕は何も言えなくなった。今までずっと一緒にいたから、離れることの意味がようやく重く感じ始めたのだ。

「うん、俺も。健太がどこに行っても、俺は友達でいる。約束するよ」

お互いに小指を差し出し、固く握り合った。それは子供っぽいかもしれないけれど、僕たちにとっては何よりも大切な瞬間だった。

「またな、春樹」

「またな、健太」

二人の声が重なった。小さな「またね」が、いつか再び会える希望を込めて空に吸い込まれていった。

それから月日は流れ、僕たちはそれぞれの道を歩み始めた。健太は県外の高校に進学し、僕は地元の高校で新しい生活を始めた。お互い忙しくて連絡は減ったけれど、「またね」の約束があるから、不思議と寂しさはなかった。

ある日、突然スマホが鳴った。画面には「健太」の名前が表示されていた。久しぶりの連絡に驚き、急いで電話を取った。

「春樹!元気か?なんか久しぶりに声が聞きたくなってさ、電話しちゃった」
懐かしい声が耳に響く。

「お前、いきなりどうしたんだよ?でも、嬉しいよ」

電話の向こうの健太の声は、あの頃と変わらない。僕たちはすぐに昔のように他愛ない話をし始め、時間が経つのを忘れていた。

「また今度会おうぜ。約束、忘れてないからな」
健太の最後の言葉が、僕の胸に深く響いた。

「もちろん。『またね』だろ?」

僕たちの友情は、どんなに時間が経っても変わらない。あの日の約束は、これからも僕たちを繋いでくれる。そう信じている。
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