とある日

だるまさんは転ばない

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バナナの日

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俺は、スーパーの果物コーナーに陳列されているバナナだ。自慢のつややかな黄色い肌は、まるで熟練の男が身にまとう上質なスーツのように、輝いている。ここに並んでから3日目になるが、まだ誰に手を取られることもない。しかし、焦る必要はないさ。いい男はいつも最後に選ばれるものだからな。

向かいの棚に並んでいるリンゴやオレンジの連中は、あたかも自分たちが一番だと言わんばかりに光っているが、俺はそんな彼らを羨むことはない。俺には俺の魅力がある。誰かが必ずその魅力に気づく――そう信じて、今日も余裕の笑みを浮かべる。

そんな時、一組の若い男女が俺の前に現れた。女の子はふわりとした髪に白いワンピースをまとい、男の子は黒髪で肩にスポーツバッグを掛けている。高校生だろう。俺は彼らが来るたびに彼らの様子を見守っていたから、すぐにわかった。彼女はミサキ、彼はユウタという名前だ。

「ユウタ、何買う? 部活の後に食べるデザート、何がいいかな?」  
ミサキが笑顔でユウタに尋ねる。その声には、甘くて控えめな優しさが漂っている。ユウタは果物コーナーを見渡しながら、少し考え込むようにして口元を手で覆った。

「リンゴとかが無難かな。でも、今日はちょっと違うものを食べてみたい気分かもな」  
「じゃあ、バナナはどう? 甘くて美味しいよ!」  
ミサキがそう言うと、彼女の瞳が俺に向けられた。さぁ来た、俺の出番だ。彼女が気づくのは時間の問題だろう。

「バナナか…うん、悪くないな。でも、どうする?」  
ユウタが少し戸惑いを見せる。彼の気持ちはわかる。バナナというのは簡単に選ぶものじゃない。選ばれる者は選ばれるにふさわしいものなのだ。だが、俺はその条件を全て満たしている。

「バナナ、買っちゃおうよ!」  
ミサキが笑顔を浮かべて俺に手を伸ばしてきた。その瞬間、彼女の柔らかい手が俺を包み込んだ。完璧だ。この瞬間を待ちわびていた。ダンディーな俺は、ここで堂々とその役目を果たす。

俺はかごに入れられ、二人と共にレジへと向かう。彼女の甘い声、そして彼の少し照れたような表情――青春だな。俺も昔、こんな風に誰かの心をとらえたことがあった。もっとも、俺はバナナとしてだが。

***

学校の部室に到着した二人は、俺をデザートとして食べる準備を始めた。部活後の少し疲れた顔をしたユウタが、ミサキの方を見ると、その表情が明るく変わる。男というのは単純なもので、好きな相手の前ではいつでもベストな自分を見せたいものだ。彼のその気持ち、わかるよ。

「ユウタ、バナナむくよ?」  
ミサキが俺を手に取り、優雅に皮をむき始める。俺はその瞬間も余裕の表情だ。どんな時もクールでいなければならないのが、ダンディーの鉄則だ。

「ほら、ユウタ。あーん!」  
なんと、彼女がユウタに俺を差し出した! 俺はゆっくりと彼の口へと運ばれ、彼の歯が俺に触れる。その瞬間、彼の顔が満足そうにほころんだのを見逃さなかった。

「うまい…」  
ユウタの口から漏れたその一言に、俺は確信した。俺は、期待に応える男だと。そう、バナナとしての使命を完璧に果たしたのだ。

***

二人は少しの沈黙の後、何か特別な会話を始めた。ミサキが少し頬を染めながらユウタを見つめ、ユウタも彼女の視線を受け止める。

「ミサキ…その、ありがとうな。バナナ、すごく美味しかった」  
「ううん、ユウタのためだもん」  
二人の間に漂う甘酸っぱい空気。その雰囲気を感じながら、俺は満足感に浸っていた。これこそ青春の一コマ。俺はその一部として、二人を後押しできたのだ。

***

そして俺は、最後の一口として静かに消えていく。しかし、俺が果たした役目は確実に二人の間に何かを生み出した。

「ねぇ、ユウタ。私、実はずっと前から…」  
「ミサキ、俺も前から…」

その言葉の続きは俺にはもうわからない。だが、二人の関係が進展したことだけは確かだ。俺が彼らの青春の一端を支えたことが、ダンディーなバナナとしての誇りだ。

***

後日、二人はまたスーパーにやってきた。今度は手を繋いで果物コーナーを歩いていた。そして、またバナナを手に取る。二人の間にはもう何の気恥ずかしさもない。俺はもうここにはいないが、彼らの心に俺の存在がしっかりと残っているのを感じる。

バナナとして、彼らの青春を甘く彩ることができた。それだけで、俺の役目は十分果たされた。
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