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BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった1
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しおりを挟むみぞおちにあった彼の片手が下がる。ズボンの攻防により、私のトレーナーとTシャツは捲れ、腹が覗いていた。そこにそっとさわられた。そしてゆっくりと撫でさすられる。
「ちょ……っ」
「ローション、ありますか?」
もちろんある。が、そう答えたらOKという意味になる。口を噤んでいると、腹を撫でる手が更に下へ降りてきた。下腹部をさすられると妙な気分になってきて、このままではまずい気がした。穂積の気を逸らそうと再び頭を巡らせたところ、彼の新刊に出ていた恋人を思いだした。
「きみ、恋人は?」
「恋人なんていませんよ」
「新刊で書かれていた人、いただろう。別れたようだけど、まだ寄りを戻すことだってあるかもだし、私なんかじゃ、傷は癒せないだろう」
「あれは八年も前の話ですよ。さすがにもう吹っ切れてます」
試みた説得は、あっさりと論破された。
読んだばかりの私にとっては最近の記憶だったが、言われてみれば納得である。
「今の俺はあなたしか見てません。あなたしか、触れたくない」
彼のまなざしが誠実な光を宿し、まっすぐに私を見つめる。
「好きです」
囁くように小さな声で告げられ、その不意打ちに胸がギュッと絞られた心地がした。
息を詰めて見つめ返す。
「好きです……久見さん……好き……」
穂積の手が降りてきて、ズボンの上から中心に触れた。
「おい……」
「手と口で、抜くだけ。それ以上のことはしません」
さわられた瞬間に、そこは硬くなった。寸前まで風俗に行く気満々で待機していたのだ。少しでも刺激されれば発動できるよう、準備は整っていた。触れられてしまったら最後、抵抗する気は消滅した。
諦念し、しかし表面上は渋々といった体を保ちつつ、ズボンを握り締める手から力を抜く。
「本当に……抜くだけ、だぞ」
「目を瞑って、寝ていればいいです」
ついにズボンを引き下げられた。下着も降ろされ、露わになる。午前中の明るい部屋の中、穂積にそこを見られる羞恥に耐えられず、窓のほうへ目を向ける。
レースカーテン越しの空は快晴。
鳥のさえずりが聞こえる。
意識を外へ向けて現実逃避を図ろうとしたものの、ズボンと下着を完全に脱がされ、中心をじかに握られた感触に、引き戻された。
熱を帯びたそこの先端に、柔らな唇の感触。袋を弄られながら竿の下側を舐められ、焦らすように吸われる。
忍び寄る快感に目を背けていられず、恐る恐る見下ろすと、私のものをしゃぶる男の熱い視線とぶつかった。
目があうと、彼はうっすらと色っぽい笑みを浮かべ、見せつけるようにいやらしい仕草で舌を這わせ、嬲りだす。そして、すべてを口に含んだ。
男にされているという現実を目にしたら、私のナイーブなそこは委縮すると思われたが、予想に反し、更に猛々しくそそり立った。ずっと敵愾心を抱いていたあの穂積にされていると思うと倒錯的な気分が沸き起こり、眩暈を引き起こすほどの快感に全身が包まれたのだった。
自信があるという宣言通り、彼の口淫は驚くほど気持ちよく、腰が甘く砕けた。我が下半身はすでに穂積の意のままである。腰が勝手に揺れ、浅ましく欲しがってしまう。
「ぅ……、ぁ……」
せめて情けない声はださずにいようと思うのだが、声帯も本人の統制に従わず、男に快感を知らせる道具となり果てた。
快感が高まり、彼の肩の辺りへ無意識に右手を伸ばすと、その手を恋人繋ぎされてしまった。しかしその意味を考える余裕もない。縋りつくように強く握り返し、快感を追う。
「口の中にだしていいですよ」
告げられた直後、根元まで咥えられ、促すように吸われる。ためらう余裕もなく強い射精感が背筋を駆け抜け、腰を震わせながら達した。
「――……」
脱力し、繋いでいた手が離される。
穂積は私の放液を嚥下し、口元を手の甲で拭うと、私の顔を覗き込んだ。そして射精直後でぼうっとしている私の頬を優しく撫でる。
「俺にされているの、最初から最後までしっかり見ていたのに、早く達きましたね」
指摘され、私は赤くなった。
「そういうデリカシーのないことを言うのなら、金輪際二度としない」
睨みつけながら言ってやると、彼はハッとしたように見つめてきた。そして、
「肝に銘じます」
と言って、嬉しそうに微笑んだ。
押し倒されたって、蹴りもしなかった。本気で逃げる素振りも見せなかった。さわられても身を捩りさえしなかった。男相手に萎えもせず、欲情した。
それらは単なる事実であり、それ以上でも以下でもない。
何度も言うが、彼に対する劣等感やライバル心は、なりを潜めただけで消えたわけではない。私の気持ちの問題というのは、男の沽券、矜持の問題である。だからこれ以上のあからさまな表現は、己の心の表層に浮かべることすら御免こうむりたいのだ。
「トイレ、貸してください」
穂積が上機嫌でトイレへ行った。やや長い。どうやら自慰を済ませてきたらしい。戻ってきた彼が色っぽく誘う。
「少し休んだら、もう一度しましょうか。今度はもっと、時間をかけて」
「するか」
私の即座の拒否にも穂積は上機嫌で笑い、それなら食事に行こうと誘ってきた。
食事ならいいと外へ出かけ、一緒にラーメン屋へ行き、食べ終えたらそこで別れた。
結局彼のほうは自慰のみで、私は彼のものにさわりもしなかったのだが、彼は満足そうに帰っていった。
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