BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています

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BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています3

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 見られていると思うと変に力が入ってしまう。ヒクついているかもしれない。
 ヒクつかせているのを見られていると思うといたたまれない。

「なあ。嫌、だぞ……」
「心配しないで。入れません」

 穂積が安心させるように云う。

「これで、一緒に気持ちよくなれたらいいなと思って」

 私の太腿のあいだに、彼の猛りが挟み込まれた。私のものと重なりあうようにして、ぴったりと脚を閉ざされる。
 素股か、と理解した。
 その体勢で穂積がゆっくりと律動する。互いのものが私の太腿に挟まれ、擦られ、えもいわれぬ快感が巻き起こる。脚の力が緩みそうになり、自分で太腿を押さえると、その上に彼の手が重なり、強く押さえられる。狭く柔らかい場所で、彼の猛りに裏筋を擦られる。

「久見さん……、気持ち、いい?」
「う、ん……っ、ぁ……っ」

 体を繋げているわけではない。けれどもこれは、セックスそのものだった。たまらなく気持ちがいい。
 私は快楽の奴隷となり、夢中になって絶頂を追い求め、やがて彼とほぼ同時に果てた。
 脚を解放した彼は、私の背に腕をまわして強く抱きしめた。耳元で荒く熱い息を吐きだすと、その耳に柔らかくくちづける。それから頬や額にも優しいキスを落とし、私の汗ばんだ額に張りついた前髪を手で払う。
 欲望を解放した私は脱力し、されるままに任せた。愛しそうな目つきで見つめられているのに気づいたが、視線を逸らし、息を整えながらぼやく。

「……なし崩しはだめだと誓ったのに……」

 もう体を重ねることはないだろうと確信めいた予感を覚えたのはたった五日前なのに。
 昨日は体の関係を持つ前に互いのことを知るべきだと主張し、キスすら拒んだのに。今日もこんなことをするつもりはなかったのに。

「俺、思うんですけど」

 ぼやきを聞いた穂積が、口元を綻ばせながら私の髪を撫でた。

「愛って、頭で考えるものじゃなく、育んでいくものでしょう。セックスっていう、他の誰ともしない特別な行為をすることで、二人のあいだにも特別な感情が生まれて、絆が深くなっていくんだと思うんです。だから俺は、これでいいと思うんですけどね。体も心も同時進行って感じで」
「……そうだろうか」
「ええ。だから何も考えず、流されてください」

 気がつけば、全身が汗ばんでいた。腹の上もぐちょぐちょだ。

「もう一度、シャワー浴びましょうか」

 促され、浴室へ向かった。一緒に入られそうになったがそれは抵抗し、一人で使わせてもらった。


 ※※※


 穂積宅にはベッドがなく、ソファのみ。シングルベッドと同程度に広いソファとはいえ、男二人で寝るには狭い。

「抱きあって寝ればいけますよ」

 と穂積は云うが、それでは眠れないと私は固辞し、ラグの上で毛布をかぶって寝ると言い張った。穂積は、客人にそれはできない、だったら一人でソファに寝てくれと言いだす。問答の末、折れたのは私だった。抗うのが面倒臭くなり、結局、二人で抱きあう形でソファに横たわった。

「こんなの、眠れないだろ」

 ぼやいてみたものの、穂積の腕と体温は案外心地よくて、すぐに眠れそうな気がした。
 セックスまがいのことをして、程よく疲労していることも理由だろう。私はまもなく眠りについた。
 翌朝、目覚めると穂積は先に起きていて、パソコンに向かっていた。室内にはコーヒーの香りが漂っている。
 私が起きたことに気づくと、蕩けるような微笑を浮かべた。

「おはようございます。コーヒーいります?」

 恐ろしく幸せそうな空気を醸しだされ、昨日のあれやこれやを思いだしてしまう。私は顔を赤らめそうになり、目を逸らして起きあがる。

「…おはよう。コーヒーはいいかな。バイト中にトイレに行きたくなりそうだから。あ、私には構わず仕事してくれ」

 穂積は私の制止に頷きながらも立ちあがり、私の元へ来た。
 肩を抱き寄せられ、額にキスをされる。素直に受け入れてしまった。

「……」

 情交後の朝のキスというのは恋人同士がするものであって、我々がするのはおかしくはなかろうか。私たちは恋人ではない。穂積がどう思っているか知らぬが、断じて、まだ恋人ではない。
 私は、流され過ぎではなかろうか。
 私の微妙な顔を見ると、彼はニマニマしながら体を離してキッチンへ向かった。

「朝食にしましょう。俺、トーストとヨーグルトと、目玉焼きでも食べようと思ってますけど、同じでいいですか」
「私は昨日買った菓子パンがあるから大丈夫」
「飲み物は?」
「水を貰えたら、それでいい」
「水と菓子パンだけ?」
「ああ。いつもは食パン。なにもつけずに食べてる。食べないことも多いけどな」
「……そして昼は蕎麦だけなんですよね。なんか、久見さんの食生活が心配になってきました」

 穂積は私の分も朝食を用意してくれた。彼はコーヒーだったが、私には牛乳を出してくれた。
 ダイニングテーブルに向かいあって座り、食べはじめてまもなく、彼の背後の棚に、出版名が記載された封筒が置かれているのが目にとまり、一昨日受けとったファンレターを思いだした。

「穂積くんは、ファンレターをもらったことあるか」
「ええ。たまにですけど、いただきますね」
「返事はどうしている」
「だしますよ。一律じゃないですけど」
「どういう感じ? 手書き?」
「丁寧な手紙には、こちらも丁寧に直筆で返します。でもそれ以外は印刷されたポストカードにしてます」

 私は真面目な顔で頷いた。

「なるほど」
「もらったんですね」
「うん。それでさ、差出人の住所はどうしてる?」
「俺は、編集部気付ですね。郵便局の私書箱を使う人もいますよね」
「自分の住所書いちゃった」
「それは……。ネットで晒したり、押しかけて来る人とかいるらしいですから、気をつけたほうがいいですよ」 

 穂積が顔をしかめて、自分はないですがと言い置いて続ける。家までやってきて勝手に郵便受けの中を覗く人、作品中の推しキャラを幸せにしろと脅しに来る人など、他作家の被害を聞かされ、私は慄いた。
 私は返信に自分の住所を書いただけでなく、よかったら今度お話ししましょうなどと、ラインのIDまで書き込んでしまった。なぜならファンレターの読者の住所が隣街だったため、親近感が湧いてしまったのだ。
 返信は昨日、ここへ来る途中で投函してしまった。
 もっと慎重にすべきだったかもしれぬ。
 しかし私の読者は女性だ。過激な行動を起こす人は、そうそういないのではないかと思う。イケメンでマスコミにも顔を晒しているのだったら、アイドルの追っかけのようなファンもつくかもしれないが、私はそうではない。
 まあ、今後は気をつけよう。
 そんな話をしながら食事を終えた後、一緒にバイトへ出かけた。
 
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