弱虫悟空の西遊記

キタル

文字の大きさ
上 下
6 / 9

第5話『猪八戒襲来~自分がされて嫌なことは人にもするな!~』

しおりを挟む
 
 如意棒は元から僕が持っているのではなくお師匠様からもらう点や、お師匠様の性格が荒々しく大胆な点から、この世界は僕の知っている西遊記の世界とは少し異なることがわかった。
 それよりも今の僕には気になることがあった。

「お師匠さま!こっちは西ではないですよ!」

 町を出た僕たちは何故か北に向かって歩いていたのだ。

「あぁそうだな!」

 この人は相変わらず勝手だ。

「天竺にいくんじゃなかったんですか?」

「天竺には行くさ、ただその前に寄りたいところがあるんだ」

「寄りたいところ?」

「あぁ、何でもこの先の村は妖怪の被害に苦しんでいるらしい。助けないわけにはいかないだろ!」

 なるほどそういうことか。しかし、前の一件のせいか妖怪退治には前向きにはなれない。
 僕がうつ向いているとお師匠様は続けてこう言った。

「それに、なんでもその妖怪ってのが面白い見た目をしているらしい」

「面白い見た目?」

「聞いて驚くな、噂で聞くにはその妖怪、ブタの妖怪なんだそうだ」

「ブタの妖怪!」

「おいおい、驚くなとはいったが、まさかそこまで驚くとはな」

“猪八戒だ”

「おい悟空!村が見えてきたぞ!」

 お師匠様の指差すほうに見えたのはとても人が住んでいるとは思えないようなボロボロの村だった。
 村に入ると村人が僕たちを不思議そうに見ている。

「お師匠様、すごい見られてますよ」

「人の視線なんていちいち気にするな!」

 気にするななんて言われても気になるものは気になる。
 すると目の前にいかにも村長な雰囲気のおじいさんがたっている。僕たちが目の前までくるや否や

「旅の者、お疲れでしょう、どうぞこちらへ」

“怪しすぎる!”

「お師匠様、この人怪しいですって!黙ってついていくことないですよ!」

「悟空、理由もなしに誰かを疑っちゃならねぇよ」

「でも・・・」

 僕たちは村長らしき人の家に招待された。

「さぁこちらの部屋でお休みください」

 村長らしき人が部屋のドアを閉める。

「お師匠様!逃げましょう!あの人、というかこの村全体がなんか変です!」

「さっきもいったろ、理由もなく人を疑っちゃならねぇ、ここはお言葉に甘えて休ませてもらうとしよう」

 そう言うとお師匠様はベッドに横になり寝てしまった。

“この村には絶対に裏がある、証拠をつかんでお師匠様に伝えなきゃ”

 部屋の外には誰かがいるかもしれないので、僕は窓から外に出た。手がかりを探そうと思っていたが、僕はすぐに異変に気がついた。

“人が・・・いない?”

 さっきまでいた村人が忽然と姿を消したのだ。皆家に入ったのだろうか、しかし、なぜこんな急に。まだ日も高いのに。
 すると前に大きな人影が見えた。僕はあわてて物陰に隠れて息を潜めた。
 道のど真ん中を歩くそいつは大きな九本歯の馬鍬を持ちブタの姿をした妖怪だった。

“間違いない、あれが猪八戒だ”

 すると猪八戒の元に一人の男が駆け寄ってきた。

“あれは!村長みたいな人!”

「猪八戒さん!言われた通り三蔵法師を捕まえました!」

「よくやった!」

「ささ、こちらです!」

 すごく嫌な予感がする。僕は急いでお師匠様のもとに向かった。
 来たときと同じように窓から部屋に入り、お師匠様を叩き起こした。

「お師匠様大変です!お師匠様!お師匠様ぁ!」

「なんだもう朝か?」

「なに寝ぼけてるんですか!逃げますよ!」

「逃げる?なんで?」

「猪八戒です!ブタの妖怪がこっちに向かってます」

「そうかそうか、そりゃよかった」

「よくないですよ!」

 すると次の瞬間、ドアが勢いよく開いて猪八戒が部屋に入ってきた。

「お前か!三蔵法師ってのは!」

「よく知ってるじゃねぇか!寝ても覚めても天竺目指し、よくも悪くも夢の中、ただいま寝起きのスーパー僧侶三蔵法師様とは俺のことだ!」

「お前の肉を食えば不死になれるともっぱらの噂でな、悪いがその命この猪八戒がいただくで!」

 お師匠様は猪八戒の後ろに隠れている村長らしき人に気がつく。

「おいお前!俺たちを騙したのか?」

 村長らしき人は脅えながら言った。

「仕方なかったんじゃ!村の若い娘達が人質にとられていて、言う通りにしなかったら軽く炙って食べると脅されていたんじゃ!」

「なるほどな、悟空!こんなやつ許してはおけねぇなぁ!」

「そ、そうだねお師匠様!」

 僕がそう言うとお師匠様は僕の背中を思いっきり叩いた。
 勢いで僕が一歩前に出ると猪八戒は僕を睨み付けてきた。

「ぼ、僕‼」

「おぅ!いっちょかましてこい!」

「僕には無理だよ!」

「なに言ってんだ、こないだだって妖怪のリーダーを退治したじゃねぇか」

「あれはたまたま・・・」

「いいからいけっ!」

 お師匠様が僕の背中を蹴っ飛ばす。

「小僧!逃げるなら今のうちやぞ!」

 猪八戒が僕に言う。逃げたいのは山々だが足が動かない。

“どうしようどうしようどうしよう”

「こねぇならこっちからいくで!」

猪八戒が僕のほうに走ってくる!

“そうだ!如意棒!”

 僕は腰にぶら下げた巾着の中からマッチ棒ほどの如意棒をとりだし、叫んだ。

「伸びろ!如意棒!」

 しかし、なにも起こらなかった。

「なんで!」

 気づけば猪八戒が目の前で馬鍬を振り上げている。

「うわぁー!!!!」

 僕は間一髪で攻撃をかわすことができた。
 猪八戒は相変わらず僕を睨み付けている。

 急いで距離をとる僕

「如意棒!なんで!」

「ちょこまかちょこまかと逃げやがって」

“ヤバい!くる!”

「ガッシャン!!」

 猪八戒の頭に錫杖が振り下ろされる。

「お師匠様!」

「後ろからなんて卑怯や・・・ぞ」

 猪八戒が勢いよく地面に倒れ込む。

「うるせぇブタ野郎、若い娘を人質にとるほうがよっぽど卑怯だろ、自分がされて嫌なことは人にはするなって習わなかったか?」

「・・・ブヒッ」

 どうやら今回もお師匠様のお陰で丸く収まったようだ。

「しかし、お前。猪八戒と言ったか?俺の一撃を食らって意識があるとはなかなかやるじゃねぇか、気に入った。俺とこい!一緒に天竺へいこう!」

「なに言うとるんやお前!俺はこの村の人を利用してお前を食おうとしたんやぞ!また悪さするかも知れねぇ、隙を見てお前を襲うかも知れねぇ!そんなやつと旅なんてできるわけないやろ!」

「いいか猪八戒、俺はお前を信じると決めた。その結果死ぬことになっても本望だ」

 すると猪八戒は僕の方を見てこう言った。

「こいつはバカなんか?」

 だから、僕は少し笑いながら答えた。

「そうかもしれませんね」

「猪八戒!来るのか来ねぇのか?」

「いく!お前と一緒に天竺にいっちゃるゎ!」





 こうして僕達の旅に仲間が一人増えた。


しおりを挟む

処理中です...