弱虫悟空の西遊記

キタル

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第6話『沙悟浄襲来~誰かのために強くなる~』

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「つまりその山に妖怪が住み着いていて、度々この町を襲いに来るって訳だな」

 お師匠様が言った。

「お師匠さん!そいつを倒しにいきましょや!」

 猪八戒さんは無駄に血の気が多い。

「よっしゃいくか!」

 次にたどり着いた町で僕たちは妖怪の噂を耳にした。そうなるとお師匠様が動かないはずもなく、僕たちはその山にいるという妖怪を退治しにいくことにした。
 その山はとても大きく麓にはいくつかの町や村がある。妖怪はその町や村を代わる代わる襲っては食料や金品を奪っていくらしい。ここまではいたるところで起きている妖怪の被害と同じだが、ただ1つ違う点がある。それは妖怪がたった一人で行っているという点だ。あの猪八戒さんでさえ部下がいたらしい。

「そう言えば猪八戒さんはなんで一人で村に来たの?」

「あ?そりゃどうせなら三蔵法師を一人で食いたいと思てな!」

 だそうだ。
 余談だが、その部下たちは現在更正して村の人たちと村の復興作業に励んでいる。

「にしてもその妖怪たった一人で村を襲うなんて、相当強いんだろうな」

 お師匠様の言う通りだ。何故か猪八戒さんはワクワクしているが、僕は不安で仕方ない。
 すると、人一人が優に入れる大きな洞窟を見つけた。

「どうやらこの中らしいな」

「そうみたいやね!」

 お師匠様と猪八戒さんは躊躇なく洞窟に入っていくので僕も恐る恐る後についていく。
 洞窟のなかはとてもじめじめしていて、上からは水滴が落ちてくる。
 これには流石のお師匠様も愚痴をこぼす。
 
「なんか陰気臭いとこだな」

 すると猪八戒さんも

「本当ですね、こんなところに住み着くなんて、きっととんだ変わり者妖怪なんですよ」

 そんなことをいいながら進んでいくと、洞窟の最深部なのだろうか開けた場所に出た。
 その奥に一匹の妖怪がいた。頭には布を巻いていて、両手に武器を持っているが、双剣というわけではなさそうだ、僕の腕くらいの長さの棒で先には三日月型の刃がついている。
 するとその妖怪は僕たちに気がついて問いただす。

「お前ら何者だ?」

「いいかよく聞け!男に生まれたからにゃ前しか向かねぇ振り向かねぇ!陰気臭ぇのは本気でダセェ、世界一男臭い僧侶、三蔵法師様とは俺のことだ!」

「と、そのお供、猪八戒!」

“なにそれ!”

「お、同じく孫悟空!」

 そういうのがあるなら事前にいってほしい・・・

「三蔵法師?聞いたことがないな。それでその三蔵法師が俺になんのようだ?」

「おめぇが麓の町や村を襲ってるって聞いてな、成敗しに来た!」

 すると、その妖怪は余裕の表情でこう言った。

「俺は強いぞ」

「ふっ、俺のお供だってそうとう強いぞ」

“ん?”

 すごく嫌な予感がした。

「悟空!八戒!やっちまいな!」

「あいょ!お師匠さん!」

“えぇぇー!”

 猪八戒さんは自慢の九本歯の馬鍬を担いで妖怪のもとへ駆けていく、僕もあわてて巾着から如意棒を取り出した。

“如意棒・・・頼む!”

 僕はマッチ棒ほどの如意棒を右手にのせ、左手をそえた。そして思いっきり叫んだ。

「伸びろ!如意棒!」

 すると、如意棒は僕の手のなかでリコーダーほどの大きさになった。

“なんで!”

「悟空・・・」

 お師匠様がこっちを見ている。

「お師匠様、俺やっぱり無理です!」

 僕がそう言うとお師匠様は僕の頭にポンと手をおきこう言った。

「いいか悟空、お前はお前が思っている以上に強い男だ、あんな妖怪よりよっぽど強い、そう俺は信じている。そして、お前も自分を信じろ!それが文字通り自信になるんだ!」

“自分を信じる・・・”

 猪八戒さんが僕の目の前で妖怪と戦っている。防戦一方だ、助けなきゃ!猪八戒さんのために!やらなきゃ!僕を信じてくれてるお師匠様のために、大丈夫!僕ならできる!

 如意棒を右手に持ち、妖怪のほうに狙いを定めて僕は叫んだ。

「いけぇぇぇ!如意棒ぉぉ!!!!!」

 如意棒は勢いよく伸び、妖怪の横腹を突いた。そのまま如意棒は伸び続け、妖怪を壁に叩きつけた。

「やった!できた!」

「よくやった悟空」

 僕は嬉しかった。お師匠様の期待に応えることができた気がして。

「悟空やるやないか!」

 猪八戒さんがこっちに向かって手をふっている。

「小僧・・・やりやがったな」

 瓦礫がれきの中から出てきたその妖怪はまだ動けるようだった。

「体を捻って致命傷を避けやがったな。よぉし、俺様がとどめをさしちゃる!」

 猪八戒さんが言った。
 
 不意をついて如意棒があたったけどあの妖怪は確実に猪八戒さんより強い。
 
“勝てるだろうか、いやそんなことは関係ない。一緒に戦っている仲間のため、信じてくれる人のため僕は逃げるわけにはいかないんだ”

 すると、お師匠様がゆっくり妖怪のもとへ近づいていった。

「お師匠様?」

「お師匠さん?」

「なんだお前が相手してくれるのか、俺は強いぞ!」

 するとお師匠様は妖怪に向かってこう言った。

「いゃ、お前は弱い。これ以上やってもお前に勝目はないさ」

「なんだと!俺があのチビやこのブタよりも弱いだって!!バカなことを言うんじゃねぇよ!」

「弱いさ、お前には守るものがないからな」

「守るものだと?」

「そうだ、お前はずっと一人で町を襲い、自分のためだけに生きてきた」

「それがなんだって言うんだ!!」

「なにかを守りたいと思う心、それが男を強くするんだ。確かにお前の戦闘力はうちの二人のお供よりも上だろう、でもな守るものもない、生きる理由もない、そんなやつにうちの悟空や八戒は負けねぇ!」

 そういうとその妖怪は膝をついてこう言った。

「そうか、そういうことだったのか。もう何百年も村を襲って生きてきた。好きなものを食べて好きなことをしてきた。でも何故か生きた心地がしなかったんだ。あの空しさは独りだったからなのか・・・三蔵法師さん俺を天界につれていきな、叱るべき罰をうけてこのくだらない人生を終わりにするよ」

 するとお師匠様は

「ならん!お前の罰は俺が今ここで決める!」

 妖怪はキョトンとしていたが猪八戒さんはニヤニヤしていた。かく言う僕も半分呆れながら笑っていた。

「いいか妖怪!お前への罰は俺と一緒に天竺に行くの刑だ!」

「天竺?」

「そうだ、俺らと一緒に天竺にいこう!一人では強くなれないなら四人で強くなろう!生きる意味がないなら俺がお前の生きる意味になってやる!」

「三蔵法師さんあんたには敵わないな」

 お師匠様はとても満足そうな顔をしていた。そして、妖怪に質問をした。

「そうだ!お前名前は何て言うんだ?」

「俺は沙悟浄って言うんだ。これからよろしくなお師匠様」

“沙悟浄!・・そういうことか”

「そうか、よろしくな沙悟浄!こっちのブタは猪八戒だ」

「ブタちゃうゎ!!」





こうして僕達の旅にまた一人仲間が加わった


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