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第7話『黄泉の国~命の価値~(前編)』
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「そろそろ休むか!」
お師匠様が言った。
「やったー!」
とても嬉しそうな猪八戒さん、それもそのはず。
お師匠様が鞄から取り出したのは大きなお饅頭。
「平等に分けろよ、一つしかねぇんだから」
余談だが、一般的に僕のような一人っ子はこういう場合に平等にわけることが出来ないと言われている。
「俺に任せとき!」
猪八戒さんがお饅頭を4等分した。しかし、これならまだ僕の方がうまくできたのではと思うくらいに大きさがバラバラだ。
こうなると当然“あれ”が始まる
「せーの!」
「じゃんけんぽん!」
「よしっ!」
最初に買ったのは沙悟浄さんだ。見るからに大きいのをとられてしまった。
「じゃんけんぽん!」
「よぉし!」
次はお師匠様、2番目に大きいのをとっていく。残る2つの大きさは見るからに違う、負けるわけにはいかない、僕だってお腹が減っているんだ。
「じゃんけんぽん!」
“やったぁ!”
僕の勝ちだ。
「うわぁ負けた!大きい方がいい!!」
猪八戒さんが子供のように駄々をこねている。
「いい加減にしろ!八戒、お前の負けだ」
沙悟浄さんが怒鳴る。兄弟がいる人はいつもこんなことをしているのかと思うと、不憫で仕方がない。
饅頭を食べ終え、再び歩き始めた僕達は森のなかを歩いていた。
「まだ歩くんか!?」
最後尾を歩く猪八戒さんがお師匠様に聞く。
「確かに暗くなってきたし、今日はこの辺りにしておくか」
「やったぁ!」
僕達の目の前には何十年も使われていないであろう、神社があった。
「ここに泊まるしかありませんね」
沙悟浄さんが言った。
すると猪八戒さんがボソッと呟いた。
「薄気味悪いとこやな・・・」
本当に猪八戒さんの言う通りだ。異様な雰囲気を漂わせていて、なにかでそうだ。
しかし、本当に怖いもの知らずなんだろう、お師匠様は
「罰当たりなことを言うんじゃねぇ」
そう言うと躊躇もなく神社のなかに入っていった。
「今日はさっさと寝ろ、明日の朝にはここを出るからな」
僕と猪八戒さんは静かに目をあわせた。おそらくお互い思っていることは同じだ。
“こんなところで寝るのか”
しかし、僕も疲れていたのだろう、横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。これなら気づいたときには朝になっているはずだ。
「悟空、悟空!!トイレいこうや!」
猪八戒が話しかけてきている。まだ外は暗いようだ。
「猪八戒さん、静かにしてください!今眠れそうだったんですから!」
僕がそう言うと猪八戒さんは沙悟浄さんのほうに行った。少し向こうでコソコソと話している。
「おい!沙悟浄!一緒にトイレいこうや!」
「ブヒブヒうるさい、さっさと寝ろ!」
どうやら沙悟浄さんにもフラれたらしい、本当にあの人、否、妖怪には困ったものだ。
そして、僕は今度こそ眠りにつくことができた。
「ガタガタガタガタガタガタ!!!!」
僕は扉の揺れる音で起きた。
「なんだなんだ!」
「なんですこれは?」
お師匠様と沙悟浄さんもこの音で起きたらしい。外の天気はわからないがどう見ても風で揺れている程度ではない。
すると扉が勢いよく開き、そこには着物を着た髪の長い女性がいた。
「幽霊だぁぁぁ!」
僕は思わず叫んだ。
するとその女性は僕達に向かってこう言った。
「早く布団を敷きなさい!」
「うゎー布団だって!布団だぁ!布団怖いょぉ!・・・布団?」
布団は怖くない、僕は少し冷静になった。
「誰だお前?」
お師匠様がその女性に聞いた。
「私はこの国の王妃恋華である。早くこの者を介抱するのじゃ!」
恋華と名乗るその人は猪八戒さんに肩を貸していた。
「猪八戒さん!」
「猪八戒!」
「八戒!」
僕達は恋華さんの言う通り猪八戒さんを介抱した。
「おいチビ助!早くタオルを変えろ!」
「はい!」
「そこのカッパ!ちゃんと扇げ!」
「はい!」
「おい坊主!薬はまだか!」
「今つくってるよ!・・・このクソばばぁ」
「私はクソばばぁではない王妃である、あえて言うならクソ王妃よ」
「・・・」
スゴい、あのお師匠様がなにも言い返せない。
「あの猪八戒にいったい何が?」
沙悟浄さんが聞いた。
「呪いよ」
「呪い?」
“呪い?”
「この者が私を封じ込めていたお札を井戸の蓋から剥がしてしまったの、お陰で私は外に出れたけどこの子が代わりに呪いにかかってしまったの」
「封じ込まれていたって、何があったんですか?」
僕は聞いた。
「3か月前、私は隣国に出かけ、その帰りに道に迷って妖怪に襲われたの。私は井戸に突き落とされ死んだゎ」
“死んだ?”
「やっぱり幽霊じゃねぇか!」
これには流石の沙悟浄さんも驚いたようだった。
「そうよ、私は幽霊になってしまったの」
「幽霊になったってことは、この世に心残りがあったのか?」
お師匠様が聞いた。
「えぇ、お城に国王と二人の王子、つまり私の旦那と息子がいるんだけど、これがまぁ揃いも揃ってお坊っちゃんでね、私がいないとなにもできないときたものだから、死んでも死にきれないのよ」
「なるほどな」
「そうだゎ!お前たち、お城にいって旦那と息子の様子見てきてちょうだい、言って伝えてきてよお母さんは元気だって」
「元気ってお前幽霊じゃねぇかよ!」
“沙悟浄さんナイスツッコみ!”
「でも、信じてもらえないんじゃないか?」
「私のほっかむりよ、あの家に嫁いで20年間ご飯を作るときも掃除をするときもはだ見放さず被っていたの、これを持っていけば私だってわかるはずよ!」
僕達は、恋華さんのほっかむりを手に宮殿に向かった。
「お前たち王妃の使いのものと申したな、なに用じゃ?」
どうやらこの小太りのおじさんが国王らしい。
お師匠様が僕の背中を軽く叩いてきたので、僕は小太りのおじさんを見上げながら話を始めた。
「誠に申し上げにくいのですが、王妃様はお亡くなりになりました」
「なに?」
「妖怪に殺されて幽霊になりました。あなたと息子さん方を大変心配しておりました」
「しかし・・・」
小太りの国王が困った顔をしていると奥から恋華さんそっくりの女性が出てきた。
「どうかなされたのですか?」
「いゃ、この客人がおかしなことを言うんだよ」
「なんと?」
「それが、お前が死んだと言うんじゃ」
「この私が?おかしなことをいう客人ですこと」
僕の後ろでお師匠様と沙悟浄さんが話しているのが聞こえる。
「お師匠様、あいつ偽物ですね」
「そうみたいだな」
国王が恋華さんの偽物と帰ろうとするので、僕は慌てて呼び止めた。
「お待ちください!」
「まだなにか?ご覧の通り妻はちゃんとここにおる」
「これが証拠です!」
僕は恋華さんのほっかむりを出して見せた。
「これは確かに恋華の!」
「そういうことです。早くあの妖怪追い出して本物の奥さんに会いに行ってあげてください!」
「・・・いゃそれは困る」
「なぜです!?」
「仮にそなた達のいうことが本当だったとして・・・その、なんというか」
数時間後、僕達はボロボロの神社に戻っていた。
「なんですって!」
恋華さんが叫ぶ。
「前の奥さんは鬼のように怖くて頭も上がらなかったし、一国の王妃のくせに所帯染みてて、年がら年中同じものを着て化粧っ気もなく、旦那の前で平気でケツをボリボリかいていたって。それに比べて今の奥さんは優しくて色気もあってまるで新婚気分!最高に幸せ!もうあんな鬼嫁には二度と帰ってきてほしくない!っと国王様がおっしゃっておりました!」
“お師匠様いくらなんでもそこまで言わなくたって・・・”
「あの人がそんなこと言うはずありません!宮廷にいってこの目で、この耳で確かめてきます!」
そう言うと恋華さんは神社を飛び出していった。と思いきやいきなり止まってこっちを振り向いた。
「なにやってるんですか!チビ助!ついてくるのです!」
“僕‼”
こうして僕は再び宮殿に来ることになった。
「はいあーん」
「美味しい!」
「何から何まで最高に幸せだ!なぁ中福、小福」
「はい、何から何まで豪華になりました」
「前はなんだか庶民染みていて」
「たくさん食べるのよ!」
見ての通り、国王も二人の王子も幸せそうだ。
「なんてことーーーー!」
恋華さんは相当怒っている。
「あら?特製のタレがなくなってしまいましたゎ」
偽物恋華さんが席をはずした隙に、恋華さんは国王のもとへ駆け寄った。
「ちょっとあなた!ねぇ!ねぇってば!・・・どうして・・聞こえないの?」
“恋華さんの姿は僕達にしか見えないのか!?”
「そうだゎ!」
なにかをひらめいた様子の恋華さん、僕のほうに駆けてくる。そして、なんと僕の胸に飛び込んできた。
「うゎ!」
恋華さんが僕の体に入ってきた。
「うまくいったゎ!」
“なんだこれ?”
体が勝手に動く、どうやら恋華さんに取り憑かれたらしい、僕は国王のほうに駆け寄っていった。
「お前はさっきの?」
「こんなもの食べちゃダメ!」
料理を取り上げる僕
「なにをする!」
「たべちゃだめ!」
「誰か来てくれ!」
「あなた!私よ!恋華よ!」
「何をいっている!」
「中福!小福!私よ!」
「・・・」
そりゃそうだ、目の前にいるのは自分と同じくらいの子供なんだから。
「どうして信じてくれないの?」
僕は自然に自分のケツをボリボリかいていた。
「その癖はお前!」
「お母さん!」
「まさかお前なのか?」
“これで気づくのか・・・”
「そうよ私よ!」
その時、偽物恋華さんが部屋に入ってきた。
「あなた、なにこの子供は早く追い出してちょうだい!」
「お、おぉ・・・」
「何をいっているのです!本物は私よ!」
「あなた、私よ!」
「私よ!」
「こんな子供と私とどちらを選ぶのです?もちろん私ですよね」
「お願い!あなたと20年間連れ添ったのは私よ!信じて!」
「ぁぁ・・・ぅ・・・・この小僧を追い出せ!」
「まったく人騒がせな子供ですこと、さぁ食事の続きをしましょう」
「あなた!信じて!私よ!」
王宮から追い出された僕達は神社に戻ることにした。
「おぉ悟空お帰り、どうだった」
沙悟浄さんが出迎えてくれた。でも、僕はなにも答えることができなかった。
「まぁ、そうなるよな」
「私は悪い妻だったのかしら?」
「・・・」
「確かにあの人のお尻を叩いたこともあったゎ、でもそれは弱気なあの人に立派な国王になってほしかったから。わかってくれてると思ってた、私がどれだけあの人のことを、あの人たちのことを愛しているか」
その時、恋華さんの息子の一人、中福があらわれた。
「助けてください、妖怪が!」
そう言うと、中福は倒れこんでしまった。
「どうなってるんだ?」
「あの妖怪とうとう本性表しやがったな」
「じゃぁ国王ともう一人の王子も」
「助けなきゃ」
その時、僕は気づいてしまった。
「恋華さん、手が」
恋華さんは自分の手を見て驚いていた。
「なんで、こんなときに」
恋華さんの手が半透明になっていたのだ。すると、お師匠様が険しい顔をして口を開いた。
「魂が帰り始めているんだ」
「魂が帰るとは、いったいどこに」
「もちろんあの世にだ」
「恋華さん、あなたがこの世にいられる時間はもうじき終わる」
「そんな・・・」
「とりあえず、国王達のところには私たちがいってきます、いくぞ悟空!」
「はい!沙悟浄さん!」
数時間後、僕と沙悟浄さんは国王と小福君を担いで神社に戻った。
「あの妖怪、宝石に夢中です。二人はゴミのように穴蔵に捨てられていました」
「あなた!小福!・・・この呪いを説く方法はないの?」
恋華さんが聞いた。
「1つだけある」
「お師匠様、何でそれを早くいってくれなかったんですか!いったいどうすればいいんですか?」
「黄泉の国に行ってこいつらの魂を洗うんだ」
「わかりました!その黄泉の国ってのはどこにあるんです?」
「私知ってる!あの井戸の下よ」
「よしっ!いくぞ悟空!」
「まて!そのままいっても無駄だ!、黄泉の国にいけるのは死んだものだけだ」
「え?」
時間は刻々と過ぎ、気づけば夜になっていた。
「やっぱり私が一人でいってくるゎ」
「道中には恐ろしい魔物がいると言ったはずだ」
「お手上げか」
皆が下を向き、嫌な雰囲気が流れている。
そんな沈黙の中、お師匠様がゆっくり口を開いた。
「悟空・・・」
「はい?」
「頼む・・・死んでくれないか?」
お師匠様が言った。
「やったー!」
とても嬉しそうな猪八戒さん、それもそのはず。
お師匠様が鞄から取り出したのは大きなお饅頭。
「平等に分けろよ、一つしかねぇんだから」
余談だが、一般的に僕のような一人っ子はこういう場合に平等にわけることが出来ないと言われている。
「俺に任せとき!」
猪八戒さんがお饅頭を4等分した。しかし、これならまだ僕の方がうまくできたのではと思うくらいに大きさがバラバラだ。
こうなると当然“あれ”が始まる
「せーの!」
「じゃんけんぽん!」
「よしっ!」
最初に買ったのは沙悟浄さんだ。見るからに大きいのをとられてしまった。
「じゃんけんぽん!」
「よぉし!」
次はお師匠様、2番目に大きいのをとっていく。残る2つの大きさは見るからに違う、負けるわけにはいかない、僕だってお腹が減っているんだ。
「じゃんけんぽん!」
“やったぁ!”
僕の勝ちだ。
「うわぁ負けた!大きい方がいい!!」
猪八戒さんが子供のように駄々をこねている。
「いい加減にしろ!八戒、お前の負けだ」
沙悟浄さんが怒鳴る。兄弟がいる人はいつもこんなことをしているのかと思うと、不憫で仕方がない。
饅頭を食べ終え、再び歩き始めた僕達は森のなかを歩いていた。
「まだ歩くんか!?」
最後尾を歩く猪八戒さんがお師匠様に聞く。
「確かに暗くなってきたし、今日はこの辺りにしておくか」
「やったぁ!」
僕達の目の前には何十年も使われていないであろう、神社があった。
「ここに泊まるしかありませんね」
沙悟浄さんが言った。
すると猪八戒さんがボソッと呟いた。
「薄気味悪いとこやな・・・」
本当に猪八戒さんの言う通りだ。異様な雰囲気を漂わせていて、なにかでそうだ。
しかし、本当に怖いもの知らずなんだろう、お師匠様は
「罰当たりなことを言うんじゃねぇ」
そう言うと躊躇もなく神社のなかに入っていった。
「今日はさっさと寝ろ、明日の朝にはここを出るからな」
僕と猪八戒さんは静かに目をあわせた。おそらくお互い思っていることは同じだ。
“こんなところで寝るのか”
しかし、僕も疲れていたのだろう、横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。これなら気づいたときには朝になっているはずだ。
「悟空、悟空!!トイレいこうや!」
猪八戒が話しかけてきている。まだ外は暗いようだ。
「猪八戒さん、静かにしてください!今眠れそうだったんですから!」
僕がそう言うと猪八戒さんは沙悟浄さんのほうに行った。少し向こうでコソコソと話している。
「おい!沙悟浄!一緒にトイレいこうや!」
「ブヒブヒうるさい、さっさと寝ろ!」
どうやら沙悟浄さんにもフラれたらしい、本当にあの人、否、妖怪には困ったものだ。
そして、僕は今度こそ眠りにつくことができた。
「ガタガタガタガタガタガタ!!!!」
僕は扉の揺れる音で起きた。
「なんだなんだ!」
「なんですこれは?」
お師匠様と沙悟浄さんもこの音で起きたらしい。外の天気はわからないがどう見ても風で揺れている程度ではない。
すると扉が勢いよく開き、そこには着物を着た髪の長い女性がいた。
「幽霊だぁぁぁ!」
僕は思わず叫んだ。
するとその女性は僕達に向かってこう言った。
「早く布団を敷きなさい!」
「うゎー布団だって!布団だぁ!布団怖いょぉ!・・・布団?」
布団は怖くない、僕は少し冷静になった。
「誰だお前?」
お師匠様がその女性に聞いた。
「私はこの国の王妃恋華である。早くこの者を介抱するのじゃ!」
恋華と名乗るその人は猪八戒さんに肩を貸していた。
「猪八戒さん!」
「猪八戒!」
「八戒!」
僕達は恋華さんの言う通り猪八戒さんを介抱した。
「おいチビ助!早くタオルを変えろ!」
「はい!」
「そこのカッパ!ちゃんと扇げ!」
「はい!」
「おい坊主!薬はまだか!」
「今つくってるよ!・・・このクソばばぁ」
「私はクソばばぁではない王妃である、あえて言うならクソ王妃よ」
「・・・」
スゴい、あのお師匠様がなにも言い返せない。
「あの猪八戒にいったい何が?」
沙悟浄さんが聞いた。
「呪いよ」
「呪い?」
“呪い?”
「この者が私を封じ込めていたお札を井戸の蓋から剥がしてしまったの、お陰で私は外に出れたけどこの子が代わりに呪いにかかってしまったの」
「封じ込まれていたって、何があったんですか?」
僕は聞いた。
「3か月前、私は隣国に出かけ、その帰りに道に迷って妖怪に襲われたの。私は井戸に突き落とされ死んだゎ」
“死んだ?”
「やっぱり幽霊じゃねぇか!」
これには流石の沙悟浄さんも驚いたようだった。
「そうよ、私は幽霊になってしまったの」
「幽霊になったってことは、この世に心残りがあったのか?」
お師匠様が聞いた。
「えぇ、お城に国王と二人の王子、つまり私の旦那と息子がいるんだけど、これがまぁ揃いも揃ってお坊っちゃんでね、私がいないとなにもできないときたものだから、死んでも死にきれないのよ」
「なるほどな」
「そうだゎ!お前たち、お城にいって旦那と息子の様子見てきてちょうだい、言って伝えてきてよお母さんは元気だって」
「元気ってお前幽霊じゃねぇかよ!」
“沙悟浄さんナイスツッコみ!”
「でも、信じてもらえないんじゃないか?」
「私のほっかむりよ、あの家に嫁いで20年間ご飯を作るときも掃除をするときもはだ見放さず被っていたの、これを持っていけば私だってわかるはずよ!」
僕達は、恋華さんのほっかむりを手に宮殿に向かった。
「お前たち王妃の使いのものと申したな、なに用じゃ?」
どうやらこの小太りのおじさんが国王らしい。
お師匠様が僕の背中を軽く叩いてきたので、僕は小太りのおじさんを見上げながら話を始めた。
「誠に申し上げにくいのですが、王妃様はお亡くなりになりました」
「なに?」
「妖怪に殺されて幽霊になりました。あなたと息子さん方を大変心配しておりました」
「しかし・・・」
小太りの国王が困った顔をしていると奥から恋華さんそっくりの女性が出てきた。
「どうかなされたのですか?」
「いゃ、この客人がおかしなことを言うんだよ」
「なんと?」
「それが、お前が死んだと言うんじゃ」
「この私が?おかしなことをいう客人ですこと」
僕の後ろでお師匠様と沙悟浄さんが話しているのが聞こえる。
「お師匠様、あいつ偽物ですね」
「そうみたいだな」
国王が恋華さんの偽物と帰ろうとするので、僕は慌てて呼び止めた。
「お待ちください!」
「まだなにか?ご覧の通り妻はちゃんとここにおる」
「これが証拠です!」
僕は恋華さんのほっかむりを出して見せた。
「これは確かに恋華の!」
「そういうことです。早くあの妖怪追い出して本物の奥さんに会いに行ってあげてください!」
「・・・いゃそれは困る」
「なぜです!?」
「仮にそなた達のいうことが本当だったとして・・・その、なんというか」
数時間後、僕達はボロボロの神社に戻っていた。
「なんですって!」
恋華さんが叫ぶ。
「前の奥さんは鬼のように怖くて頭も上がらなかったし、一国の王妃のくせに所帯染みてて、年がら年中同じものを着て化粧っ気もなく、旦那の前で平気でケツをボリボリかいていたって。それに比べて今の奥さんは優しくて色気もあってまるで新婚気分!最高に幸せ!もうあんな鬼嫁には二度と帰ってきてほしくない!っと国王様がおっしゃっておりました!」
“お師匠様いくらなんでもそこまで言わなくたって・・・”
「あの人がそんなこと言うはずありません!宮廷にいってこの目で、この耳で確かめてきます!」
そう言うと恋華さんは神社を飛び出していった。と思いきやいきなり止まってこっちを振り向いた。
「なにやってるんですか!チビ助!ついてくるのです!」
“僕‼”
こうして僕は再び宮殿に来ることになった。
「はいあーん」
「美味しい!」
「何から何まで最高に幸せだ!なぁ中福、小福」
「はい、何から何まで豪華になりました」
「前はなんだか庶民染みていて」
「たくさん食べるのよ!」
見ての通り、国王も二人の王子も幸せそうだ。
「なんてことーーーー!」
恋華さんは相当怒っている。
「あら?特製のタレがなくなってしまいましたゎ」
偽物恋華さんが席をはずした隙に、恋華さんは国王のもとへ駆け寄った。
「ちょっとあなた!ねぇ!ねぇってば!・・・どうして・・聞こえないの?」
“恋華さんの姿は僕達にしか見えないのか!?”
「そうだゎ!」
なにかをひらめいた様子の恋華さん、僕のほうに駆けてくる。そして、なんと僕の胸に飛び込んできた。
「うゎ!」
恋華さんが僕の体に入ってきた。
「うまくいったゎ!」
“なんだこれ?”
体が勝手に動く、どうやら恋華さんに取り憑かれたらしい、僕は国王のほうに駆け寄っていった。
「お前はさっきの?」
「こんなもの食べちゃダメ!」
料理を取り上げる僕
「なにをする!」
「たべちゃだめ!」
「誰か来てくれ!」
「あなた!私よ!恋華よ!」
「何をいっている!」
「中福!小福!私よ!」
「・・・」
そりゃそうだ、目の前にいるのは自分と同じくらいの子供なんだから。
「どうして信じてくれないの?」
僕は自然に自分のケツをボリボリかいていた。
「その癖はお前!」
「お母さん!」
「まさかお前なのか?」
“これで気づくのか・・・”
「そうよ私よ!」
その時、偽物恋華さんが部屋に入ってきた。
「あなた、なにこの子供は早く追い出してちょうだい!」
「お、おぉ・・・」
「何をいっているのです!本物は私よ!」
「あなた、私よ!」
「私よ!」
「こんな子供と私とどちらを選ぶのです?もちろん私ですよね」
「お願い!あなたと20年間連れ添ったのは私よ!信じて!」
「ぁぁ・・・ぅ・・・・この小僧を追い出せ!」
「まったく人騒がせな子供ですこと、さぁ食事の続きをしましょう」
「あなた!信じて!私よ!」
王宮から追い出された僕達は神社に戻ることにした。
「おぉ悟空お帰り、どうだった」
沙悟浄さんが出迎えてくれた。でも、僕はなにも答えることができなかった。
「まぁ、そうなるよな」
「私は悪い妻だったのかしら?」
「・・・」
「確かにあの人のお尻を叩いたこともあったゎ、でもそれは弱気なあの人に立派な国王になってほしかったから。わかってくれてると思ってた、私がどれだけあの人のことを、あの人たちのことを愛しているか」
その時、恋華さんの息子の一人、中福があらわれた。
「助けてください、妖怪が!」
そう言うと、中福は倒れこんでしまった。
「どうなってるんだ?」
「あの妖怪とうとう本性表しやがったな」
「じゃぁ国王ともう一人の王子も」
「助けなきゃ」
その時、僕は気づいてしまった。
「恋華さん、手が」
恋華さんは自分の手を見て驚いていた。
「なんで、こんなときに」
恋華さんの手が半透明になっていたのだ。すると、お師匠様が険しい顔をして口を開いた。
「魂が帰り始めているんだ」
「魂が帰るとは、いったいどこに」
「もちろんあの世にだ」
「恋華さん、あなたがこの世にいられる時間はもうじき終わる」
「そんな・・・」
「とりあえず、国王達のところには私たちがいってきます、いくぞ悟空!」
「はい!沙悟浄さん!」
数時間後、僕と沙悟浄さんは国王と小福君を担いで神社に戻った。
「あの妖怪、宝石に夢中です。二人はゴミのように穴蔵に捨てられていました」
「あなた!小福!・・・この呪いを説く方法はないの?」
恋華さんが聞いた。
「1つだけある」
「お師匠様、何でそれを早くいってくれなかったんですか!いったいどうすればいいんですか?」
「黄泉の国に行ってこいつらの魂を洗うんだ」
「わかりました!その黄泉の国ってのはどこにあるんです?」
「私知ってる!あの井戸の下よ」
「よしっ!いくぞ悟空!」
「まて!そのままいっても無駄だ!、黄泉の国にいけるのは死んだものだけだ」
「え?」
時間は刻々と過ぎ、気づけば夜になっていた。
「やっぱり私が一人でいってくるゎ」
「道中には恐ろしい魔物がいると言ったはずだ」
「お手上げか」
皆が下を向き、嫌な雰囲気が流れている。
そんな沈黙の中、お師匠様がゆっくり口を開いた。
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「はい?」
「頼む・・・死んでくれないか?」
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