起きられないモーニングコール、眠れない夜カフェ。

待鳥園子

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◇◆◇


 私はいつものように、まっくらな闇の中で目が覚めた。貧血気味だから朝は弱くて、いつも寝起きは良くない。

 あ……そうだ。日曜日だ。

 今日って、朝ご飯用のパンを買って来ていたっけ?

 なんだか、頭の中にモヤがかかり昨日の自分が思い出せない。

 ゆっくりと棺桶の蓋を押し上げて開いた時に「おはよう。まゆちゃん」と、何度も目覚まし時計が連呼していて、そんな中で驚くくらいに鮮明に、私は冬馬さんのことを思い出した。

「あ……冬馬さん。ひどい。好きだからさよならって、何なの……こっちの希望だって、少しは聞いてよね」

 私の個人的な希望だけど、恋人が吸血鬼でも大丈夫。

 なるべく生活スタイルは彼に合わせるし、血は食べ付けないから飲めないかもしれないけど、棺桶で眠りに付くのは、今でも既に慣れてしまっている。

 告白した後に記憶を綺麗に消されていた私がスマホを確認すると、冬馬さんの連絡先ややりとりの履歴、あのカフェで撮影された写真なんかも、全部消されていた。

 きっと、吸血鬼の彼から言われて私が自分で消した。

 だけど、冬馬さんは「俺の声も全部消して」とは私には言っていなかったのかもしれない。こっそり録音された目覚まし時計に自分の声が録音されているなんて、普通なら思わないよね。

 あれは……私が見た、都合の良い夢じゃない。冬馬さんへの恋から、まだ覚めていない。

 私はカレンダーで休日であることを再確認すると、精一杯のお洒落とメイクをして部屋を出た。

「いらっしゃいませ。今日は店内で、食べられますか?」

 冬馬さんは、いつも通り店員の笑顔だった。ひどい。ものの見事な他人の振り。

「あのっ……私、冬馬さんと生きることにしました。これからも一緒に居たいです!」

 その時に冬馬さんはひどく驚いた顔になった後、周囲の目を気にしつつ、私の腕を引いてバックヤードにまで連れて来た。

 あれは、他の店員さんもみんな聞いていた。これだとなかった事にするには手間がかかるだろうと思った。

 少しずるかったかもしれないと思い、何も言えない私をまじまじと見つめた後で、冬馬さんは、はあっと大きくため息をついた。

「……嘘だろ。俺が消した、記憶が戻ったのか……まゆちゃん、後悔するぞ」

 脅すような言葉を使われても、別にここで引いたりしない。

 覚悟はもう、決めてきた。

「絶対に、後悔はしないです。もし、両思いで冬馬さんの恋人になれるなら」

「……本当だな?」

「はい!」

「俺の事、そんなに好きなの?」

「……はい!」

 念押しして確認するように聞き返されたので、私は嬉しくなって何度も頷いた。

「けど、おかしいな……俺の暗示が解けるなんて、これが人生で初めてだよ」

 片手で頭を押さえた冬馬さんは手招きをして、二人がけのソファへ座るように私を促した。

「あのっ……私。実は、冬馬さんの挨拶の声を偶然録音していて、それを目覚まし代わりに使っていたんです。それを聞いて、なんだか思い出せちゃって……」

 冬馬さんの隣に座りつつ、何故消されたはずの記憶が戻ったかを説明すると、彼は驚いたように私を見た。

「……え? 俺の声を?」

「そうなんです……おはようを、モーニングコール代わりに。なんだか、本当に冬馬さんが好き過ぎて……ごめんなさい」

「それって、謝るところではないよね? なんか、素直に嬉しい。うん。好き同士だし……俺も覚悟を決めるか」

「ありがとうございます!」

 どうやらこれで晴れて冬馬さんと恋人になれた私は、嬉しくて彼に抱きついた。

「苦労するぞー……吸血鬼の恋人になったら」

 そんなの覚悟の上だし、逃げたいなら、もう逃げてるのに。

 けど、なんか……やっぱり、冬馬さんってすごく良い匂いがする……こうして抱きしめられると、より濃厚な匂いに包まれた。

「はー……冬馬さん。良い匂い」

 呟いて見上げた冬馬さんの整った顔は、私の頭を撫でつつ、おかしいぞと言わんばかりの微妙な表情になっていた。

「ていうか……もしかして、まゆちゃんって……俺より上位種の、まだ覚醒していない、魔物の幼生じゃないよね?」

「……え?」

 隣に横たわった冬馬さんは、荒い呼吸の止まらない私の顔をじっと見て、何か悩ましい表情になっていた。

「だって、闇が好きだし……わずかでも光があると、眠れないんだよね? ……俺から何か美味しそうな匂いするってことは、吸血鬼のことを捕食対象にしている大物なのかも」

「まっ……まさか」

 ……え。吸血鬼を食べるって、どういうことなの?

「俺がさ。まゆちゃんから良い匂いして、美味しそうだと思うのはわかるよ。だって、俺は君を捕食する側だから。けど、俺から良い匂いがして美味しそうに思えるってことは……うーん」

「な、何か心当たりあります?」

「あ……まあ。けど、それは別に良いか。単に偶然の気のせいかもしれないし、それが未来、もし起こった時に考えるようにしよう。俺は絶対、それでもまゆちゃんのこと、好きだし……ねえ。これ見て。俺も少しは、可愛いところあるだろ?」

 そう言って冬馬さんは机の上に置いてあったスマホを手を伸ばして取り、画面を私の方へと向けた。

「わ! スマホの待ち受け、私の写真ですか……? これって、いつ撮ったんですか?」

 その写真の私は、カフェのいつもの席に座ってカフェオレの入ったカップを持って、なんとも幸せそうなほっこり顔。

 ああ……多分、これって冬馬さんのことを、考えている顔かも。

「うん。まあ……ごめん。可愛かったから。盗撮はお互い様ってことで、許してね」

Fin
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感想 3

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みんなの感想(3件)

志戸呂 玲萌音
ネタバレ含む
2024.07.08 待鳥園子

読むの早い!w

そうですね。お読み頂きありがとうございました(o・ω-人)

解除
志戸呂 玲萌音
ネタバレ含む
2024.07.08 待鳥園子

感想ありがとうございます♡

楽しんでもらえたら嬉しいでーす(o・ω-人)

解除
cana
2024.06.30 cana
ネタバレ含む
2024.06.30 待鳥園子

感想ありがとうございます♡

また考えてみますね!

解除

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