騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子

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10 賭け

「あれ? 団長はどこに行ったか、知ってます?」

 俺と同じように団長に決裁して欲しい書類を持っていたらしいグラーフ先輩は、応接に使うソファに我が物顔で座り肩を竦めた。

「よー。ジェイコブ。俺も団長の判子待ち。あの人は、どうせ救護室の窓からルチア先生の姿を見られる場所に居るだろう。なんとか画策して、あの人を自ら専属医にしたくせに。女を口説く術も知らない。近くに居るというのに声も掛けられなくて、本当にヘタレだったよな」

 はーっと大きく息をついたグラーフ先輩の隣に、俺は遠慮しながらも腰掛けた。そろそろ、俺の勤番の定時も近い。団長に決裁を貰えば良いだけの仕事なので彼を待つという言い訳に時間をここで潰したとしても、上司にあたる隊長は何も言わないはずだ。

「……団長って、ルチア先生に一目惚れしてから女関係、全部整理したって本当ですか?」

 フィン・キルブライド団長は、信じ難いほどの美形で整った容姿を持つ上に、国王の信任厚い将来有望な騎士団長だ。

 よって、彼を見れば誰もが想像する通り、入れ食いの彼にとっては異性関係は向こうからひとりでに言い寄って来るものであり、特に一人を選んだりこちらから努力したりするような代物ではなかった。
 適当に好みの女性を摘まんで、次から次へ。同性としては羨ましい限りだが、俺がもし彼なら同じことをしているはずだろう。

 だから、本気で好きになった女性を前に、彼は何も出来なかった訳だ。

「本当だ。国の機関に、医者としての仕事を探しに来たルチア先生を見て、すぐさま騎士団専属医とかいう今までになかった役職を作り、新聞に広告を出し、それが就職先を探していた彼女の目に触れるように、常連のカフェのオーナーも買収した。そして、寄って来ていた女たちには、必要あらば十分な手切れ金を渡して、綺麗に別れている」

「すごい数、居そうじゃないですか……?」

 彼に抱かれたいと思っている女性なら、魚の群れのように待っていそうだが。

「すべては、彼女のためだけにな。大体、訓練を受けた女騎士ならともかく、身を守る術も無いか弱い女医なんか、危険たっぷりの最前線に連れて行ける訳がないだろ。団長の立派な職権乱用だ。初めての恋に狂うのは、早い方が良いな。出来れば、特に権力者は子ども時代の内に済ませるべきだ。仕事関係に支障が出る」

「はー……もしかしたら、子ども時代からずっと、向こうから言い寄られるばかりで、本当にこちらから口説くことに慣れてなかったのかもしれませんね。なんかでも、好きになっただけで、その後の行動力が凄いですよね。もしかしたら、初めて女性を好きになったんですかね。そこまでされると、俺がルチア先生なら、ちょっと引いちゃいますけど」

「なんだ。お前は、まだ気が付いていなかったのか。ルチア先生も、医師らしく無表情に見せつつ、フィン団長を見る時は完全に恋する目になっていたから、知らぬは本人たちばかりなりだよ。さっさとくっつけば、良いのになー……部下も気を使うわ」

「もうくっついてたりして」

「良いな。飲み代でも、賭けるか?」

「良いですよ。俺はくっついてる方にします」

 実はフィン団長は、今朝彼女の後任を探すために広告を出すように機嫌良く事務方に言っていた。それに、やけに救護室周辺をうろ付き始めたのは、騎士団中皆の知るところだった。

「はー? それだと、双方同じで賭けにならないだろ。」

 グラーフ先輩は、顔を顰めた。

 まあ、仕事中に可愛いルチア先生を見られなくなるのはとても残念だが、彼女の後任も、どうか女医でありますように。

 騎士団専属医は男性医師が当たり前で望み薄なのはわかりつつも、願ってしまう。

「……結婚式はいつですかね」

 団長の結婚式であれば正騎士服で出なければいけないが、新人の俺は注文がまだだった。別に先輩の誰かに借りることも出来なくはないと思うのだが、衣服担当者に急がせた方が良いのかもしれない。

「知らね。どうせ、すぐじゃね。うちの団長。お前も知っての通り行動力が、本当に凄いから」

 グラーフ先輩は手にしていた書類で扇ぐようにして、笑った。

Fin
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