絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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07 蜘蛛の糸②

◇◆◇


 ルシアはいつものように城中へとやって来たものの、この前ヒューバートから聞いた話を思い出すと躊躇われ、カミーユが決まった時間に通る渡り廊下には行けなかった。

 ほんの少しだけカミーユから連絡が来るのではないかと期待していたが、あれから二週間それはなかった。手紙を渡してくれたヒューバートの予想通り、あれはゴミ箱へと直行してしまったのだろう。

 カミーユに会うには、何か違う手立てを考えなければいけないと思い、ルシアは美しく花咲く庭園で佇んでいた。

 カミーユはヒューバートから聞いてルシアの目的を既に理解しているだろうから、ここで彼に恋文と誤解させる必要もないだろうと、仕事用の封筒に書類を入れて持って来ていた。

(本当に……私の考えた画期的な輸送方法、読んでもらえさえすれば、絶対気に入ってもらえるはずなのに)

 まず、この異世界では、ある程度の大きさの布袋に入れ物資を人力で歩き運ぶことが当然とされていて、大量の布袋を船から移動させるには、長い時間と労働力が掛かる。

 そこを場所を無駄にせず積み上げられる小さな木箱を大量に作り、専用の昇降機によっておろし、積み下ろし専用の小型船を作りそれを使い目的地へと近づく。

 そうすれば、輸送量増加輸送時間短縮にも繋がるし、輸送に必要とする労働力だって少なくなるはずだ。

(自分で言うのもなんだけど、この提案書すごくわかりやすいし、費用面にも考慮……ここ数年の例もあげ輸送量を鑑みてのシミュレーションだって……前世の鬼上司だって、これ見たなら納得してくれるはずよ)

 それは、冷たいカミーユに幾度も無視されて、それならばもっと良くしようを繰り返し、ルシア本人が自分でも文句のつけ所がないと思えるような提案書になっていた。

 手書きで書き上げた書類を見直していたその時、強い突風が吹いて手から離れた書類何枚かが、木の枝に引っ掛かった。

 ルシアは必死で手を伸ばしたものの、書類の一枚だけがどうしても取れず、これは木登りするしかないと思った。

(ふーっ……仕方ない……あれは、大事な書類だし、知らない誰かに見られてしまっても困るし……)

 自分とは違う人があれを見て、カミーユへ提案してしまっても困る。ルシアは乾いた木肌にしがみついて、低い位置にある枝へ手をかけた。

 書類に手が届きそうになり良かったと安堵した、その時だ。

「あ……っ」

 足を滑らせて落ちそうになったルシアは、地面への落下の衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた。

 が、いつまで経っても痛みは来ず、体を覆う熱に誰かが自分を受け止めてくれたのだと遅れて理解した。

「あ、ありが……」

 お礼を言いかけ目を開いてすぐそこにあったのが、あのカミーユの端正な顔だと気が付き、ルシアの口からは短い悲鳴が漏れた。

「ひっ……」

 怯えた表情のルシアに、カミーユはわかりやすく顔を顰めた。

「おい。人の顔を見て、ひっとは何事だ。しかも、この俺は木から落ちた君を助けたんだが?」

 驚きのあまり無言になったルシアを無言で立たせ、カミーユはあっさりとした態度で、その場を立ち去って行った。

 いつものように護衛騎士たちも連れ立っていたから、彼らがどこかに移動中に、たまたまルシアを見つけたのだろうか。

 これまでがこれまでだけに、彼だと気がついて怯えてしまったが、感謝の言葉も言えずに終わったことに気がつき、あれは良くなかったのかもしれないと頭を抱えて反省した。

(それに、なんだか……いつもより優しかった……? 気のせいかもしれないけど……)

 助けてくれたカミーユが、冷たい態度を崩さなかった今までとはなんだか違うような気がして、ルシアは不思議になった。
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