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14 過去★①
長い沈黙の時が過ぎ、ルシアは今ある事実と自分の中にある感情を咀嚼するだけで精一杯だったし、それを待つカミーユも緊張した様子で何も言わなかった。
(カミーユ殿下が、私と……? 私と恋人に?)
カミーユは『氷の王子』と呼ばれている通り、周囲へどれだけ冷たい態度を取る男性なのか、ルシアは良く知っていた。
彼が優しい態度を見せてくれたのは、おそらくヒューバートがルシアの書いたあの手紙を届けてくれたからだ。
「それは……カミーユ殿下が私のことを賢いと、そう思っていただけたからですか?」
カミーユ自身が認めるような提案書を書いたからかとルシアが問えば、彼は難しい表情を浮かべて頷いた。
「それもある。俺はもし……結婚するならば、破滅を呼び寄せぬ理性ある賢い女にしようと思っていた。これまでの人生で心を開いても良いと思えたのは、俺を守り育ててくれたパメラと君の二人しか居ない」
「パメラさんと……私だけ、ですか?」
驚きつつ理解したルシアは、そこに彼の血の繋がった母親の名が入っていないことに気がついた。王太子アダムスは正妃の子で、第二王子カミーユは側妃の子であったはずだ。そして、二人の妃は存命だ。
ルシアは社交界デビューもせずに、貴族の知り合いも皆無と言って良いほどに居ないのだから、過去に起こった王族の権力争いの詳しい事情などを知る由もない。
(……もしかしたら、ただ私が知らないだけで、正妃と側妃の権力争いの中で、カミーユ殿下は心を閉ざしてしまったのかもしれない)
彼の立場は、兄を追いかけて産まれた第二王子だ。側妃の母には王位を継ぐ兄に負けぬように求められ、過去には何か嫌な思いをしたかもしれない。
「それに、いくら冷たく接しても、諦めなかった不屈の精神も気に入った。不遇から逃れようとあれをしたのなら、君は俺の理想の女だと言えるだろう」
ルシアをじっと見つめる青い目には嘘は見えない。
「……私は殿下より承認を得られれば、親から持参金を手に入れることになりますが、王族に嫁ぐには、とても……」
ルシアは王族に嫁ぐに足りうる身分だけは生まれながらに持っているが、先ほどカミーユが口にした『結婚』などが出来るような立場にはない。
「君は俺が、妻の持参金をあてにするような男に見えるのか」
「……見えません」
余裕ある仕草で面白そうに微笑んだカミーユは、軍総帥を務め王位継承権第二位の第二王子だ。
優秀であることも有名な彼が、金銭目当てで伯爵令嬢ルシアと結婚したがっているかのような言葉を言ってしまったことに気がつき、彼女は体を小さくした。
「君が俺と恋をして良いか、否かだ。そう難しく考える必要はない」
「……殿下と恋をしても良いかと問われて、否定出来るような女性は居ません」
ルシアはそう思っていたことを素直に口にし、カミーユは彼女の言葉を聞いて笑った。
(嘘でしょう。提案に承認を得られることだけでも、夢のようだと思っていたのに……まさか、そんな……)
「それでは、決まりだ……ルシア。こちらへ」
自らへ手を伸ばしたカミーユに頷き、ルシアは彼の傍へと近づいた。
彼に近づくたびに大きくなる心臓の音がうるさく、呼吸も荒くなっていくのを感じた。
隣へと腰掛けたルシアの頬に手を当て、顎を持ち軽いキスをした。
「カミーユ殿下……あの」
潤んだ目で自分を見上げたルシアを見て喉を鳴らした彼は、思い出したかのように眉を寄せて付け加えた。
「ああ。そうだった。大事なことを言い忘れるところだった。あの話と同じように、この関係はまだ秘密なんだ。誰にも言ってはいけない。良いね?」
薄紅の唇を人差し指で叩き、ルシアが素直に頷いたことを確認して彼女を抱き寄せた。
自分の膝の上に横抱きにすると、形の良い鎖骨の上に人差し指を滑らせた。
ただそれだけで、ルシアの背中にぞくりと痺れるようなものが走り抜け、彼は彼女の紅潮した顔を見て満足そうに笑った。
(カミーユ殿下が、私と……? 私と恋人に?)
カミーユは『氷の王子』と呼ばれている通り、周囲へどれだけ冷たい態度を取る男性なのか、ルシアは良く知っていた。
彼が優しい態度を見せてくれたのは、おそらくヒューバートがルシアの書いたあの手紙を届けてくれたからだ。
「それは……カミーユ殿下が私のことを賢いと、そう思っていただけたからですか?」
カミーユ自身が認めるような提案書を書いたからかとルシアが問えば、彼は難しい表情を浮かべて頷いた。
「それもある。俺はもし……結婚するならば、破滅を呼び寄せぬ理性ある賢い女にしようと思っていた。これまでの人生で心を開いても良いと思えたのは、俺を守り育ててくれたパメラと君の二人しか居ない」
「パメラさんと……私だけ、ですか?」
驚きつつ理解したルシアは、そこに彼の血の繋がった母親の名が入っていないことに気がついた。王太子アダムスは正妃の子で、第二王子カミーユは側妃の子であったはずだ。そして、二人の妃は存命だ。
ルシアは社交界デビューもせずに、貴族の知り合いも皆無と言って良いほどに居ないのだから、過去に起こった王族の権力争いの詳しい事情などを知る由もない。
(……もしかしたら、ただ私が知らないだけで、正妃と側妃の権力争いの中で、カミーユ殿下は心を閉ざしてしまったのかもしれない)
彼の立場は、兄を追いかけて産まれた第二王子だ。側妃の母には王位を継ぐ兄に負けぬように求められ、過去には何か嫌な思いをしたかもしれない。
「それに、いくら冷たく接しても、諦めなかった不屈の精神も気に入った。不遇から逃れようとあれをしたのなら、君は俺の理想の女だと言えるだろう」
ルシアをじっと見つめる青い目には嘘は見えない。
「……私は殿下より承認を得られれば、親から持参金を手に入れることになりますが、王族に嫁ぐには、とても……」
ルシアは王族に嫁ぐに足りうる身分だけは生まれながらに持っているが、先ほどカミーユが口にした『結婚』などが出来るような立場にはない。
「君は俺が、妻の持参金をあてにするような男に見えるのか」
「……見えません」
余裕ある仕草で面白そうに微笑んだカミーユは、軍総帥を務め王位継承権第二位の第二王子だ。
優秀であることも有名な彼が、金銭目当てで伯爵令嬢ルシアと結婚したがっているかのような言葉を言ってしまったことに気がつき、彼女は体を小さくした。
「君が俺と恋をして良いか、否かだ。そう難しく考える必要はない」
「……殿下と恋をしても良いかと問われて、否定出来るような女性は居ません」
ルシアはそう思っていたことを素直に口にし、カミーユは彼女の言葉を聞いて笑った。
(嘘でしょう。提案に承認を得られることだけでも、夢のようだと思っていたのに……まさか、そんな……)
「それでは、決まりだ……ルシア。こちらへ」
自らへ手を伸ばしたカミーユに頷き、ルシアは彼の傍へと近づいた。
彼に近づくたびに大きくなる心臓の音がうるさく、呼吸も荒くなっていくのを感じた。
隣へと腰掛けたルシアの頬に手を当て、顎を持ち軽いキスをした。
「カミーユ殿下……あの」
潤んだ目で自分を見上げたルシアを見て喉を鳴らした彼は、思い出したかのように眉を寄せて付け加えた。
「ああ。そうだった。大事なことを言い忘れるところだった。あの話と同じように、この関係はまだ秘密なんだ。誰にも言ってはいけない。良いね?」
薄紅の唇を人差し指で叩き、ルシアが素直に頷いたことを確認して彼女を抱き寄せた。
自分の膝の上に横抱きにすると、形の良い鎖骨の上に人差し指を滑らせた。
ただそれだけで、ルシアの背中にぞくりと痺れるようなものが走り抜け、彼は彼女の紅潮した顔を見て満足そうに笑った。
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