絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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21 身代わり②

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◇◆◇


 昼食を食べに出た後のソフィアから、自分がルシアに成り代わり今夜の仕事の続きをすると申し出があり、ルシアは密かにこの邸から出て城で支度するという作戦で落ち着いた。

 ルシアは彼女と筆談で会話しながら、成り代わるとはどういうことだろうと不思議だった。

 そして、打ち合わせ通り夕食後のルシアの部屋に、ソフィアがやって来た。

「……こちらが、ルシア様が住まわれている部屋なのですね」

 三角屋根の屋根裏部屋は、天井の高さがその場その場で違い、ソフィアは言葉もない様子だ。裕福で優雅な貴族令嬢であるはずなのに、このような部屋へ追いやられ虐げられていることに彼女も驚いたのだろう。

「ええ。驚いたでしょう」

 恥ずかしそうに言ったルシアにソフィアは、苦笑して頷いた。

「正直に言えば、とても驚きました。我が主もこれを知ればひどく驚くことでしょう……とは言え、もう時間がありません。私と姿を交換します」

「え。どうするの?」

 ソフィアは無言のままで呪文を唱えると、そこに自分が居て、ルシアは驚いた。

「まあ……魔法なのね。すごいわ」

 ウィスタリア王国には、魔法使いは限られた人数しか居ない。それに、免許制で何か禁を破れば魔法を使うことが出来なくなってしまうのだ。

 数少ない魔法使いに素直に驚いたルシアに、彼女の姿をしたソフィアは微笑んだ。

「……ええ。そうです。このように、魔法で姿を似せること自体は、可能なのです。ですが、完全に成り代わることは禁呪とされておりまして、この魔法には半日の時間制限がございます。必ずこちらへお戻りください。ルシア様の魔法は城で上司が解き再度別人へと掛け直しますが、私の方がルシア様ではなくなってしまいますので」

 ルシアの姿を変える魔法は問題ないが、身代わりをしてくれるソフィアの魔法が解けてしまうのであれば、父母に彼女が居なくなってしまったことが明らかになってしまう。

「ええ。わかったわ。今から半日と言うと、朝の八時ね」

 時計を見て確認し、生真面目に頷いたルシアに、ソフィアは微笑んだ。

「そうです。大丈夫だと思いますが……主がルシア様を離さない場合もございますので、十分にお気をつけください」

「まあ……それは、大丈夫だと思うけど……」

 この前だって仕事で帰ると言えば、カミーユは追い掛けても来なかったのだから大丈夫だろうとルシアは思った。

(けど、私に会うためだけに大袈裟だわ。城へ行けば、短時間ならば会えるというのに)

「ええ。ルシア様。門の前にある、あの馬車にお乗りください。ルシア様の仕事は私は把握しておりますし、わからないことは、また明日にお聞きします」

「ありがとう。ソフィア。では、行って来るわ」

 自分の仕事を押し付けてしまうようで気が引けてしまうものの、微笑んだソフィアへ手を振り彼女の姿をしたルシアは馬車へと急いだ。
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