絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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25 ハンカチ②

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◇◆◇


「……思ったよりも、お早いお戻りでしたね」

 ルシアのベッドで完全に寝ていた様子のソフィアは、寝ぼけ眼で目を擦りながら言った。

「ごめんなさい。起こしてしまって……」

 注意して開けたつもりの扉の音で彼女を起こしてしまったのかと、自室へ入って来たばかりのルシアは謝罪した。

「いえいえ。まったく問題ありません。任務の内なのに熟睡してはいけないと、ルシア様が扉が開けば起きるように、私が自分に魔法をかけておりましたので」

 ソフィアはすぐさまルシアに変化していた魔法を解き、元の姿へと戻ると、ルシアが脱いだ自分の服へと着替えていた。

「すごく、便利なのね」

 姿を変えることも出来るし、条件付きでそんなことも出来てしまう。あまりにも便利で、魔法などこれまで身近に見たことのなかったルシアは驚いていた。

(こんなにも便利なら、禁じられた魔法だって存在するはずだわ。それに、禁じられたことをすれば取り上げられてしまうような免許制になってしまうことも納得よ)

 そうでなければ、好き勝手にする魔法使いだって多いはずだし、世界が彼らの思うがままになってしまう。

「ええ……ですが、我々も色々と制約も厳しくてですね。面倒なことも多いですよ。どうでしたか? 我らの主はお会い出来て、喜ばれていたでしょう?」

 カミーユの元で働くソフィアは、彼のことを直接知っているようだった。

「……喜んでは、くれたみたい。けど、仕事が詰め込まれていて、なかなか時間が取れないと言っていたわ。三日後には、時間が取れるかもしれないって」

 いつものくたびれた寝巻きへと着替えたルシアは、先ほど彼女の寝ていたベッドへと腰掛けた。

「それは、そうでしょうね……ええ。主には、ルシア様の知らないところで色々とありました。他には、何かありましたか?」

「……そうね。何故か、私のハンカチを欲しがったわ」

 ルシアはカミーユが良くわからない物を欲しがったと、笑い話のつもりで口にしたのだが、ソフィアは俄然目を輝かせて喜んでいた。

「そうなのですか! そこまで、主は本気なのですね。まぁ……久しぶりに感動しました。良かったですね……ルシア様」

「……どういうことかしら? 私のハンカチを欲しがっただけなのよ。イニシャルはあるかと確認されて」

 それをどう良かったと取れば良いのかと困惑したルシアに、ソフィアは驚いた顔を見せていた。

「あ……ルシア様は、知らなかったのですね。ですから、それは婚約の印なのです。元々は戦場に向かう騎士へ自分の身代わりを連れて行って欲しいと残された乙女が渡したことから始まった文化だと聞いております」

「……え?」

「しかも、ルシア様のイニシャル入りを望まれるということは、婚約をあちらから望まれたと同じことなんですよ! とても良いことです。ルシア様。おめでとうございます」

 幼い頃から仕事に忙殺され、貴族令嬢の常識を持たぬルシアにはわからぬ文化でカミーユはハンカチを欲しがったようだった。

「……そうなの?」

「そうですよ。主も本気なのでしょう。それを態度で明確に示されたのです」

 こくこくと何度も頷くソフィアに疑心暗鬼になりながらも、ルシアにはようやくあの行為の意味を知り彼の自分への気持ちを確認したのだった。
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