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30 閉所①
「……執事とメイド長、双方ともに不倫なんですよ。中年になってからの恋は燃え上がるって本当ですね」
ソフィアが仕事終わりにルシアに会うことは上司より定められているらしく、今夜もユスターシュ伯爵邸での新情報を手にしたからか部屋に入るなり興奮していた。
「まあ……ソフィア。貴方って本当にすごいわ。私は全然知らなかったもの」
ユスターシュ伯爵家に入り込んだソフィアは本当に優秀な諜報員なようで、すぐにこの家に溶け込み、ルシアにも様々な情報を寄せてくれた。
(私もソフィアみたいに器用だったら、ユスターシュ伯爵家から逃げ出すことも出来ていたのに……)
「ルシア様は知らなくて当然ですよ。ユスターシュ伯爵は、ルシア様には仕事関係以外は話してはならぬと使用人全員にお達しがありますので」
「……そうなの? お父様が?」
初めて知る情報を聞き驚くルシアに、ソフィアは頷いた。
「ええ。ルシア様の知識やご提案は、ユスターシュ伯爵にとってみれば金の卵。ルシア様はそれを産む鶏なのですから、何があっても絶対に手放したくないという思いからなのでしょう」
「道理で私が話し掛けると、皆よそよそしくするのね……」
ルシアは前世知識を無闇にひけらかしてしまった自分が悪いとは思いつつ、実の子に対する彼らの扱いにどうしても納得がいかなかった。
「私もここまで、ルシア様がお辛い立場にいらっしゃるとは思いませんでした。肉体的な虐待がないのは幸いでしたが……」
ルシアの肉体は綺麗で傷跡はない。ソフィアはそうではないと確信を込め何気なく言ったことなのだが、ルシアは苦笑して首を横に振った。
「いいえ……お母様は私を鞭で打った後、綺麗に治療してしまうのよ」
ルシアの母キャスリンは加虐嗜好があり、娘の失態を見つけるとそれを理由に彼女を傷付けた。そして、高級な傷薬を使ってなかったことにしてしまう。
だから、娘ルシアの身体は無傷ではあるものの、痛みを得た記憶だけが残っていた。
「……そうなのですか。気が付かず、申し訳ございません。これは、私たちも仕事を急がなければなりませんね」
そう言って腕組みをして考え込んだ様子のソフィアを見て、ルシアは不思議になった。彼女たちはカミーユがルシアと連絡を付けるためだけに送り込んだ諜報員だと思っていたからだ。
(私が肉体的に虐待されているとして、ソフィアさんも仕事を急ぐとはどういうことかしら)
「あの……ソフィアさんって、私とカミーユが連絡を取れるよう、このユスターシュ伯爵家に潜入している訳ではないのですか?」
ルシアの疑問を聞いて、ソフィアははっとした表情になり、にっこりと微笑んだ。
「……そういえば、主からルシア様に贈り物を預かっておりました! 私としたことが……この前ハンカチを頂いた、お礼であると言われておりました」
話を誤魔化されたような気がしたが、小さな小箱を渡されそれを受け取り、ソフィアの期待に満ちた目を見て蒸し返すことが出来なかった。
「あ。ヘッドドレスだわ……可愛い。けれど、いつもの恰好に、これを身に付けることは出来ないわね」
それは豪華なレースとリボンを主な飾りとし、可愛らしく纏められたヘッドドレスだった。
「ええ。それは、もうすぐの出来事ですよ……そうすれば、これを付けて主にお会いになってください。きっとお喜びになることでしょう」
「そうね……きっとそうね」
ルシアは手の中にある小さなヘッドドレスを見つめ、それは、いつになることかと溜め息をついた。
ソフィアが仕事終わりにルシアに会うことは上司より定められているらしく、今夜もユスターシュ伯爵邸での新情報を手にしたからか部屋に入るなり興奮していた。
「まあ……ソフィア。貴方って本当にすごいわ。私は全然知らなかったもの」
ユスターシュ伯爵家に入り込んだソフィアは本当に優秀な諜報員なようで、すぐにこの家に溶け込み、ルシアにも様々な情報を寄せてくれた。
(私もソフィアみたいに器用だったら、ユスターシュ伯爵家から逃げ出すことも出来ていたのに……)
「ルシア様は知らなくて当然ですよ。ユスターシュ伯爵は、ルシア様には仕事関係以外は話してはならぬと使用人全員にお達しがありますので」
「……そうなの? お父様が?」
初めて知る情報を聞き驚くルシアに、ソフィアは頷いた。
「ええ。ルシア様の知識やご提案は、ユスターシュ伯爵にとってみれば金の卵。ルシア様はそれを産む鶏なのですから、何があっても絶対に手放したくないという思いからなのでしょう」
「道理で私が話し掛けると、皆よそよそしくするのね……」
ルシアは前世知識を無闇にひけらかしてしまった自分が悪いとは思いつつ、実の子に対する彼らの扱いにどうしても納得がいかなかった。
「私もここまで、ルシア様がお辛い立場にいらっしゃるとは思いませんでした。肉体的な虐待がないのは幸いでしたが……」
ルシアの肉体は綺麗で傷跡はない。ソフィアはそうではないと確信を込め何気なく言ったことなのだが、ルシアは苦笑して首を横に振った。
「いいえ……お母様は私を鞭で打った後、綺麗に治療してしまうのよ」
ルシアの母キャスリンは加虐嗜好があり、娘の失態を見つけるとそれを理由に彼女を傷付けた。そして、高級な傷薬を使ってなかったことにしてしまう。
だから、娘ルシアの身体は無傷ではあるものの、痛みを得た記憶だけが残っていた。
「……そうなのですか。気が付かず、申し訳ございません。これは、私たちも仕事を急がなければなりませんね」
そう言って腕組みをして考え込んだ様子のソフィアを見て、ルシアは不思議になった。彼女たちはカミーユがルシアと連絡を付けるためだけに送り込んだ諜報員だと思っていたからだ。
(私が肉体的に虐待されているとして、ソフィアさんも仕事を急ぐとはどういうことかしら)
「あの……ソフィアさんって、私とカミーユが連絡を取れるよう、このユスターシュ伯爵家に潜入している訳ではないのですか?」
ルシアの疑問を聞いて、ソフィアははっとした表情になり、にっこりと微笑んだ。
「……そういえば、主からルシア様に贈り物を預かっておりました! 私としたことが……この前ハンカチを頂いた、お礼であると言われておりました」
話を誤魔化されたような気がしたが、小さな小箱を渡されそれを受け取り、ソフィアの期待に満ちた目を見て蒸し返すことが出来なかった。
「あ。ヘッドドレスだわ……可愛い。けれど、いつもの恰好に、これを身に付けることは出来ないわね」
それは豪華なレースとリボンを主な飾りとし、可愛らしく纏められたヘッドドレスだった。
「ええ。それは、もうすぐの出来事ですよ……そうすれば、これを付けて主にお会いになってください。きっとお喜びになることでしょう」
「そうね……きっとそうね」
ルシアは手の中にある小さなヘッドドレスを見つめ、それは、いつになることかと溜め息をついた。
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