絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

文字の大きさ
31 / 60

31 閉所②

◇◆◇


 城に来て庭園で、ルシアはぼんやりと咲きたての花を見つめていた。

 父はルシアが未だにカミーユに提案書を見ても貰えていないと思っているし、ソフィアからはそう誤解させておいた方が都合が良いとカミーユに会えない日でも城へとやって来て時間を潰していた。

(綺麗……そういえば、こんな風にのんびり時を過ごすなんて、有り得なかったものね)

 前世の記憶を思い出し、両親から仕事をするよう家に閉じ込められ、こんな風にただ時間が過ぎていくのを待つことはなかった。

 誰もが絶対に不可能だと思われていた壁を乗り越えて、何らかの問題が解決するまで待っている時間はそう悪いものでもなかった。

 ルシアはそろそろ帰ろうかと立ち上がり、城門へ歩き出すと、走り来る足音を聞いて何気なく背後を振り返った。

「あら。カミーユ……どうなさったのですか?」

 こうして日の光の下、ルシアがカミーユに会ったのは、久しぶりのことだ。秘密にしなければいけないと言い含められていたし、呼び出されるのは閉鎖されたひと目のない空間だった。

 カミーユは戸惑うルシアの手を握ると、来た方向へと彼女の手を引いた。

「いや、少々時間に空きが出来たんだ。良かったら話そう。君が好きなあの辺りはひと目もないし……」

 その時、前から庭師が歩いていて来るのが見えて、カミーユは慌てて元の方向へと歩き出した。つんのめるほどに急ぎ足で歩く彼に驚き、ルシアは駆け足でそれに続きながら訴えた。

「あのっ……カミーユ。無理することはないと思います。また数日後には来ますし……」

「そうしたら、会えるかわからんだろう! しっ……待て」

 城のほど近くまで戻り、メイドたち数人が洗濯籠を持っているのを確認し、カミーユはすぐそこにあった扉を開いた。

 しかし、それは掃除道具を収納するためにあったものだったらしく、すぐそこに部屋の壁はあって、ルシアを抱きしめた時に彼女の背中のすぐそこで扉は閉まった。

「あの……」

「……何も言うな。何か言いたいことはわかっているが、何も言うな」

 声をひそめたカミーユは、人目を避け続けた結果、狭い空間に閉じ込められた現状が恥ずかしいらしい。それに、すぐそこからはついさっき見たメイドたちの笑い声が聞こえていた。

 しばし黙って抱き合ったまま時間は過ぎ、ルシアは段々と心配になって来た。

(さっき、少々時間が空いたと言っていたけど……どのくらい? 誰かを待たせたりしないかしら?)

「カミーユ。時間……大丈夫です? 仕事に間に合いますか?」

 ルシアは多忙な彼を心配して言ったのだが、カミーユは苦笑いして答えた。

「この状況で、俺の仕事の心配はするな。お前はいつも仕事仕事だな。俺とどっちが大事なんだ?」

 冗談めかした彼の言葉を、まさか自分が聞くと思わなかったルシアは言った。

「……どちらもです。生きていくためには、両方必要ですから」

 互いに見つめ合い、どちらからともなくキスをした。舌を絡ませ合いながらカミーユはいつものように、彼女の胸を触ろうとしたが、ルシアは両手でそれに抵抗した。

 しかし、男性の力には勝つことが出来ず、冷たい外気にふるりと胸が出て荒々しく揉まれているのを感じ、ルシアは抵抗を諦めた。

(どうせ、あのメイドたちが仕事を終えるまでここを出られないもの……時間がかかっても仕方ないわね)

 不意に閉じていた瞼に光を感じ、振りむこうとしたルシアをきつく抱きしめてカミーユは言った。

「おい。せめて何か声を掛けてくれたら良くないか?」

「申し訳ありません。もっともらしい理由を見付け、ようやく人払い出来たところで、私の配慮が足りませんでした」

(しゃっ……シャンペル卿ー!! また、こんなところを彼に見られてしまった)

 カミーユの護衛騎士たちが彼の傍を離れている訳がなく、閉じ込められてしまった二人をどうにかして助けてくれようとしたのだろう。

「……礼は言う。だが、一度その扉を閉めろ」

「かしこまりました」

 助けてくれたというのに、怒られてしまったヒューバートには申し訳ないが、慌てて胸元を隠したルシアはカミーユを見上げて言った。

「もう一度キスしても良いですか?」

「……それは、確認しなくても良いことではないのか?」

 再度のキスを交わしていた二人は、遠慮がちな扉を叩く音に気が付き離れると苦笑いした。

感想 4

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

十歳の花嫁

アキナヌカ
恋愛
アルフは王太子だった、二十五歳の彼は花嫁を探していた。最初は私の姉が花嫁になると思っていたのに、彼が選んだのは十歳の私だった。彼の私に対する執着はおかしかった。

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041