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39 理由②
「カミーユがアシュクラフト伯爵令嬢とお会いしていたのも、この件だったのですね」
ルシアが敢えて話を変えたことに気が付いたのか、カミーユは苦笑して頷いた。
「そうだ。彼女は先進的な女性で、父のアシュクラフト伯爵が手がける医療分野にも精通していて、最近は麻薬中毒者が異常に多いと訴えていたんだ。だが、密輸をしている犯罪組織が見つからないと……彼女は多くの船団を持つユスターシュ伯爵家が怪しいのではないかと早くから睨んでいた。その理由や各証拠を集めた資料について、俺は何度か直接話を聞いていたんだ」
「そうですか……私は船団で働いているというのに、何も知りませんでした。レイア様には、お礼を言いたいです。間接的に救って頂いたのですから……」
「ああ……そうしよう。彼女も両親が別人なのかもしれないと知り、君のことをとても心配していた。だが、知ってしまえば疑われるかもしれない。ルシアの身を守るためには、これまで何も言えなかったんだ」
レイアがカミーユと良く会っていたのは、ただ仕事の話をしていただけだ。それを嫉妬してしまったことを思い出し、ルシアは恥ずかしくなってしまった。
(高位貴族が関わり、しかも、犯罪者の成り代わりが疑われているなんて、扱いが難しい事件だったはず……そんな疑惑のあるユスターシュ伯爵家と関りを持ってはならぬと、王太子殿下だってそう思うはずだわ)
カミーユの兄アダムスはそう言って、ルシアに近付くなと言ったのだろう。けれど、それを聞かずにカミーユはルシアへと近付いて来た。
「……それでも、私に近付いて来たんですね。カミーユ」
兄の命令に逆らい、ルシアに近付いて、泣いている彼女を慰めた。だから、ずっとルシアとの関係を秘密にしていたのだ。
本来ならば関わる事すらも、禁じられていたはずなのに。
「まあな……前にも言っただろう。泣いているところを見て、放っておけなかったと。君がユスターシュ伯爵のような傲慢で嫌な奴なら俺も捨て置いただろうが、ルシアは一人泣いていた。どうしても……放ってはおけなかった」
カミーユはそう言い、ルシアに手を伸ばしたその時に、扉が開いた。
「……マーティン叔父様!」
「ルシア! 知らせを聞いて……ああ。無事で良かった!」
叔父のマーティンが、ソファから立ち上がったルシアを抱きしめて泣いていた。
何年も前から疑わしいと思っていた彼にしてみれば『もしかしたら、そうなのかもしれない』という悪夢のような疑惑が現実となり、兄テレンスと義姉キャスリンを一度に喪ってしまったような気持ちなのだろう。
「叔父様……ありがとうございます。叔父様が居なかったら、私、すぐに殺されてしまっていたかもしれません」
「俺がっ……もっと、言えば良かったんだ! 兄上がおかしくなっていたのは、知っていたのに……お前を助けてあげられるのは、俺だけだったのに!!」
男泣きをするマーティンを抱きしめ、ルシアは嬉しかった。決して、自分は一人ではない。叔父マーティンが居てくれるならば、どれだけ心強いのだろう。
「叔父様……ありがとうございます。あの……カミーユ殿下と出会わせてくれたのも、叔父様のおかげなんです」
今思えばすべてはマーティンが引き出してくれた、父を騙る犯罪者の気まぐれのあの一言だ。
氷の王子と称される通り、冷たい態度を貫いていたカミーユが一介の貴族令嬢の話など聞く訳がない。不可能だと思われたことも、諦めずに何度も彼の元へと通い、ここにまで繋がった。
「え……? まさか、お前……」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたマーティンは、信じられない思いなのか、ルシアとカミーユを交互に見た。
「ああ。そうだ……こちらのルシアを、俺の妃にと思っている。ユスターシュ伯爵家の当主は、貴方なのだから、また次の機会に話をすることにしよう」
「ルシア……本当なのか?」
「ええ。そうよ。マーティン叔父様。私、たくさん頑張って良かったわ。褒めてくれる?」
悪戯っぽく微笑んだルシアを抱きしめ、信じられない表情をしたマーティンは何度も『良かった』と繰り返し泣いた。
そんな大好きな叔父の背中を叩きながら、やはりルシアは心のどこかで不安になっていた。
(お父様とお母様の姿を奪い取った、あの犯罪者……何処に行ったんだろう。これまでを思えば、ユスターシュ伯爵家にあるものをすべて持ち出せなくても、隠している財産だってきっとあるはず……)
ルシアが敢えて話を変えたことに気が付いたのか、カミーユは苦笑して頷いた。
「そうだ。彼女は先進的な女性で、父のアシュクラフト伯爵が手がける医療分野にも精通していて、最近は麻薬中毒者が異常に多いと訴えていたんだ。だが、密輸をしている犯罪組織が見つからないと……彼女は多くの船団を持つユスターシュ伯爵家が怪しいのではないかと早くから睨んでいた。その理由や各証拠を集めた資料について、俺は何度か直接話を聞いていたんだ」
「そうですか……私は船団で働いているというのに、何も知りませんでした。レイア様には、お礼を言いたいです。間接的に救って頂いたのですから……」
「ああ……そうしよう。彼女も両親が別人なのかもしれないと知り、君のことをとても心配していた。だが、知ってしまえば疑われるかもしれない。ルシアの身を守るためには、これまで何も言えなかったんだ」
レイアがカミーユと良く会っていたのは、ただ仕事の話をしていただけだ。それを嫉妬してしまったことを思い出し、ルシアは恥ずかしくなってしまった。
(高位貴族が関わり、しかも、犯罪者の成り代わりが疑われているなんて、扱いが難しい事件だったはず……そんな疑惑のあるユスターシュ伯爵家と関りを持ってはならぬと、王太子殿下だってそう思うはずだわ)
カミーユの兄アダムスはそう言って、ルシアに近付くなと言ったのだろう。けれど、それを聞かずにカミーユはルシアへと近付いて来た。
「……それでも、私に近付いて来たんですね。カミーユ」
兄の命令に逆らい、ルシアに近付いて、泣いている彼女を慰めた。だから、ずっとルシアとの関係を秘密にしていたのだ。
本来ならば関わる事すらも、禁じられていたはずなのに。
「まあな……前にも言っただろう。泣いているところを見て、放っておけなかったと。君がユスターシュ伯爵のような傲慢で嫌な奴なら俺も捨て置いただろうが、ルシアは一人泣いていた。どうしても……放ってはおけなかった」
カミーユはそう言い、ルシアに手を伸ばしたその時に、扉が開いた。
「……マーティン叔父様!」
「ルシア! 知らせを聞いて……ああ。無事で良かった!」
叔父のマーティンが、ソファから立ち上がったルシアを抱きしめて泣いていた。
何年も前から疑わしいと思っていた彼にしてみれば『もしかしたら、そうなのかもしれない』という悪夢のような疑惑が現実となり、兄テレンスと義姉キャスリンを一度に喪ってしまったような気持ちなのだろう。
「叔父様……ありがとうございます。叔父様が居なかったら、私、すぐに殺されてしまっていたかもしれません」
「俺がっ……もっと、言えば良かったんだ! 兄上がおかしくなっていたのは、知っていたのに……お前を助けてあげられるのは、俺だけだったのに!!」
男泣きをするマーティンを抱きしめ、ルシアは嬉しかった。決して、自分は一人ではない。叔父マーティンが居てくれるならば、どれだけ心強いのだろう。
「叔父様……ありがとうございます。あの……カミーユ殿下と出会わせてくれたのも、叔父様のおかげなんです」
今思えばすべてはマーティンが引き出してくれた、父を騙る犯罪者の気まぐれのあの一言だ。
氷の王子と称される通り、冷たい態度を貫いていたカミーユが一介の貴族令嬢の話など聞く訳がない。不可能だと思われたことも、諦めずに何度も彼の元へと通い、ここにまで繋がった。
「え……? まさか、お前……」
涙で顔をぐちゃぐちゃにしたマーティンは、信じられない思いなのか、ルシアとカミーユを交互に見た。
「ああ。そうだ……こちらのルシアを、俺の妃にと思っている。ユスターシュ伯爵家の当主は、貴方なのだから、また次の機会に話をすることにしよう」
「ルシア……本当なのか?」
「ええ。そうよ。マーティン叔父様。私、たくさん頑張って良かったわ。褒めてくれる?」
悪戯っぽく微笑んだルシアを抱きしめ、信じられない表情をしたマーティンは何度も『良かった』と繰り返し泣いた。
そんな大好きな叔父の背中を叩きながら、やはりルシアは心のどこかで不安になっていた。
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