絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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40 仕返し①

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 ユスターシュ伯爵夫婦が本物の彼らは何年も前に殺され、あれは成り代わった犯罪者だったという知らせがウィスタリア王国に駆け抜けた。

 手広く商売を手がけ、大きな船団をいくつも持つユスターシュ伯爵家は、別人に乗っ取られていて麻薬密輸などの犯罪にも手を染めていたんだと、とんでもない騒ぎになった。

 ユスターシュ伯爵令嬢ルシアはその中で、可哀想な悲劇の主人公として、誰もに同情される存在になっていた。

 既に社交界デビューも済ませているはずの年齢にも関わらず、家のために身を粉にして働き、身を飾ることも許されずに偽の両親には虐待されていた。

 第二王子カミーユ・ヴィメールにそれを救われ、氷の王子と呼ばれた彼の心を溶かした奇跡の恋物語の貴族令嬢として誰もが彼女を英雄視し讃えていた。

(気まずいわ……)

 貴族令嬢らしい恰好をしたルシアは城内を歩いているだけだというのに、熱っぽい視線を男女共に向けられて居た堪れない思いだった。

 犯罪者の魔の手から逃れたユスターシュ伯爵邸には、騎士団の仕事が整理付き次第、次代ユスターシュ伯爵となる叔父マーティンが家族を連れて帰る事になった。

 そして、ルシアは第二王子カミーユの仮の婚約者として、彼の宮に留まっていた。

 即位前で今は実質の政務を任された王太子アダムスも。今まで女性を寄せ付けなかった弟カミーユがルシアと結婚したいと言い出したことを歓迎し、保護のためにも城に居るようにと言い渡したのだ。

 ルシアは部屋に閉じ籠っていることに飽きて、城の中を歩けば誰もが自分を物語の主人公のように褒め讃え、偽両親の詳しい話を聞きたがったりした。

 けれど、今はまだ彼らは捕まらず捜査中で、そんな中にルシアしか知らぬ情報を明かしてしまう訳にもいかない。申し訳なく思いながらもそれを理由に話せないと告げれば残念そうな表情で引き下がってはくれるが、ひっきりなしにそんな面々は現れた。

 ようやく、そんな状態が落ち着き、部屋へ移動しようとすると遠くから声を掛けられた。

「あら……! そちらは、ルシア・ユスターシュ伯爵令嬢ではなくて?」

 いかにも高位貴族令嬢らしい女性が廊下の先に居て、ひと目を気にしながらにも歩いていたルシアに気が付いたようだ。

 ルシアはこの時、聞こえなかった振りをして通り過ぎるか数秒迷った。彼女との距離はかなり遠く、大きな声で呼び止められるような女性が、まともであるとはとても思えなかった。

 しかし、大声でルシアを呼んだ女性は、ふっくらとした身体に纏ったドレスを揺らし早足で彼女に近付いて来た。

(に……逃げられないわ!)

 ルシアはこれは見ないふり聞こえないふりをするのは無理だろうと、大人しくその場に留まり、高位貴族令嬢らしき彼女の訪れを待った。

 靴音も高らかにルシアの前に現れた女性は、頭のてっぺんから靴の先までじろじろと観察し、可哀想な存在を見るように猫撫で声を出した。

「あら……あらあらあら……両親を騙る犯罪者二人と同じ邸で暮らしていたというのに、まったく怪我もないようで良かったわ。ああ……私のことは、知らないわよね。これまでに虐待されて社交界デビューも出来なかったんでしょう? なんて、可哀想なの!」

 ルシアの身の上を勝手に嘆き出した彼女に、面を喰らってしまった。

 ふくよかな身体に豊かな胸を持つと言えば聞こえが良いが、飽食の余り肉を過分に増やしてしまったらしく、彼女は大袈裟に身体を揺らすたびに肉が揺れていた。

(え……何……何なの)

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