絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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42 ヘッドドレス①

「まあ……ルシア様! 本当にルシア様は、美しいです。素晴らしいですね」

 ユスターシュ伯爵家に潜入していた諜報員ソフィアはルシアの新しいドレスを着た姿を見て感動したのか、手を叩き浮かれた声を出した。

 カミーユはルシアのドレスや装飾品などふんだんに買い与え、これまでに両親に虐待されていた彼女からは考えられないほどに贅沢な生活をしていた。美味しい料理を食べているので、心なしか痩せた身体にも肉が付いてきたようだ。

「本当に……? これは、似合っているのかしら。なんだか、まだ慣れないわ。鏡の中の自分も、まるで別人みたいなの」

 ドレスは華美ではなく真面目なルシアの雰囲気に合うような清楚なものではあったが、誰かがデザインに口を出しているのか、彼女の細い身体に似つかわしくないくらいに豊かな胸が見える胸元が開いているものが多かった。

 化粧や髪結いなども専門のメイドが担当してくれれば、ルシアは名実ともに完璧な貴族令嬢になった。

 ただ流していた黒髪は流行の形に結われて、すっきりと細い首を出していた。

(これまでに、全く化粧をしていなかったからなんだか慣れないわ……これって、本当に私なの?)

 以前は仕事があり限られた時間の中で、ただカミーユに会うためだけに城に足を運んでいたが、実質的な城主王太子に招待され公式に滞在している今は違う。

 鏡をじっくりと見る機会もあったし、なんなら身支度にかける時間も長くなり、以前とは比較にならなかった。

「ええ。美しいですわ。ルシア様は化粧をせずとも可愛らしいお顔立ちでしたが、こうして身支度を調えるだけで、どこからどう見てもカミーユ殿下のお心を射止められてもおかしくない美貌の貴族令嬢ですわ」

 大きな鏡に端に映るソフィアが納得してうんうんと頷き、ルシアは不思議な気持ちで自分の姿を見ていた。

 子どもっぽいと思っていた童顔は、化粧が施され、丸い目には黒く線を引かれ色っぽくなり肌には真珠を擦り潰した粉を履き陶磁器のような仕上がり、それに、口紅の赤は艶々として、採れたばかりの小さな果実のようだった。

「変わってしまった……まるで、自分ではないみたいだわ」

 まじまじと鏡を見ていても、これは決して自分ではないように思えるのだ。それに、こんな風にルシアが着飾るようになって、他者からの対応は明らかに違うようになった。

 兵士や騎士たちもこれまで着飾ることもできなかったルシアには一瞥すら向けなかったが、貴族令嬢らしい格好を見て礼儀を持って丁重に接するようになり、それはそれでなんだか複雑な思いであった。

(けど……カミーユは私が化粧していなかった時にも、好ましく思ってくれていたのよね)

 彼本人とヒューバートの話を総合すると、そうだったはずだ。

 必死で手紙を渡していた時も、ルシアには信じられないが他よりは扱いが優しかったようだし、提案書を読んでからは、明らかにルシアを好ましく思うような態度と言葉が増えた。

 だから、よくある恋物語のように外見で興味を惹かれたと言うより、カミーユはルシア本人を気に入ってくれただけなのだろう。

「いえいえ。ルシア様はこれが当たり前でなかっただけで、これがユスターシュ伯爵令嬢である貴女の本来あるべき姿なのです。そういえば、以前に主のお贈りしたヘッドドレスは、こちらのドレスに合いそうですね」

 にこにことして機嫌の良さそうなソフィアの何気ない言葉を聞いて、ルシアは『しまった』と口を手で押さえた。

(そうだわ……すっかり忘れてしまっていた。特に邸に残していたものでで要るものはないと思っていたけれど、あれだけは取りに行かなくては……)

 城には生活するための全てが揃っているし、古着など価値の低いものを与えられていたルシアがこれまでに使っていたもので特に必要なものはなかった。

 色々な事実が重なって明かされ、それどころではなかったと言える。

 それに、ユスターシュ伯爵家の持つ全ての事業は現在緊急事態として国に管理されていて、そこで働く使用人たちも犯罪に加担していなかったかなど厳重に取り調べられている。

 よって、ユスターシュ伯爵邸には、最低限の人だけが残され、ほとんど人が居ないはずだ。

「あの……どうかなさいました? ルシア様」

 置きっぱなしにしてしまったヘッドドレスのことを思い出し急に黙り込んだルシアを心配して、ソフィアが話しかけてきた。

「いえ。なんでもないわ……ソフィア。私は少し散歩するけど、心配しないで」

 ヘッドドレスを取りに行くだけだし、忙しい彼女の手を煩わせたくないと考えたルシアはそう行った。

(早く取りに行かなくては……すぐに帰ってくれば良いわ……馬車で十分ほどの距離だし、ヘッドドレスだけを取りに行きましょう)

「はい。部屋に篭りきりだと、嫌になりますよね。私は主の指令で一度出ますが、また夜には帰って参ります」

「ええ。気をつけてね」

 胸に手を当てて礼をし、去っていくソフィアを見ながら、ルシアは立ち上がった。


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