絶対零度殿下からの隠れ溺愛は秘蜜の味。

待鳥園子

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54 秘密①

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 ソーヴールは自らが捕縛される原因となったルシアを睨み付け、彼女に向かって唾を吐いた。

「……少々使えると思って生かしておいてやったが、お前などすぐ殺してやれば良かった!」

 気が触れたように侮蔑的なことを叫んだ彼は後ろ手に縛られ、何人もの護衛騎士に包囲されていた。もう決して、自分がここから逃げられないことを知っているからだ。

「……そうね」

(あれほど恐怖し、震えるほど恐ろしく感じていた父親は、こんなにも矮小で弱い存在だった。今思うと私は……もっと、早くに逃げられたのかもしれない。諦めずやっていれば、いつかは……)

 ソーブールは結局偽物の父親だった訳だが、ここまで来て苦し紛れに自分を貶めようとする、みっともないそんな姿を見てルシアは冷静に思った。

「なんだと?!」

「いいえ……ソーブール。貴方は私が思っていたよりも、全然弱い存在で……自分の勘違いに気がついたの。こうして見ると全然怖くなんて、なかった。もっと、早く逃げ出せば良かったわ」

 最後ならと素直に自分が思ったことを打ち明けるルシアを睨み付けるソーブールの黒い目が、その時にキラリと光った気がした。

(何……? 視線を外せない……私、身体も動かせない……?)

 ルシアはソーブールから目を離せずに、何か黒い影に吸い込まれるような気がしていた。

—————その時に、彼の身体が吹き飛ばされて、ルシアははっと意識を取り戻した。

「ルシア。大丈夫か。あれは、異国の呪術の類いだろう。あの身体を放棄し、君の身体に乗り移ろうとしていたんだ……おい。ぐずぐずせずに、それを運べ」

「カミーユ!」

 そこに騒ぎを見て居た誰かに呼ばれてたのか、自分の宮の執務室に居るはずのカミーユが駆けつけ壁に打ち付けられたソーブールを捕らえるように驚いた様子の臣下に指示を出していた。

「これは……一体、何があったんだ? あれは誰だ?」

 カミーユはルシアが何か大変なことになっているらしいとしか聞いていなかったのか、ここにある光景を見て不思議そうな顔をしていた。

「あれは、私の父の姿を奪い……両親を殺した殺人者です」

 ルシアは彼に淡々とそう言い、今は布で目隠しをされたソーブールから目を離さなかった。

 きっととても強い力を持つ人で、腕の良い犯罪者なのだ。何年も共に暮らしたルシアに会いに来たのも、自分には絶対に逃げ切れるという強い確信があったからだ。

(自分の力を過信すれば、こんなことになるのね……)

 根拠のある傲慢さは、犯罪者であるソーブールの言動の端々から透けて見えていた。そんな彼を捕らえることが出来た自分は、いつも顔色を窺っていたあの頃とは明らかに変わることが出来た。

「何! こんな場所にまで良く……舐められたものだ。地下牢に閉じ込めろ。魔力無効の魔方陣のある牢だ。ウィルタリア王国貴族を殺し姿を奪い、王族をも謀った罪は厳罰に処さねばならぬ」

 カミーユはそう言い捕らえられて行くソーブールを見て、ルシアはあまり現実感がなく、不思議な気持ちになっていた。

 ユスターシュ伯爵家で、ルシアを苦しめていた酷い人。

 それが、今ようやく裁かれるのだ。


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